後日談65話、神竜とソウヤ


 神竜。ドラゴンの中の頂点にして、ドラゴン界の神である。


 普段、神と聞いたとて、他種族ならば関係ないと、素知らぬ顔を決め込むドラゴンたちでさえ、敬意をもって平伏する存在である。

 それはかの四大竜でさえ例外ではない。


 まさかその実物が、目の前にいるとは……。ソウヤは感慨深く、その巨体を見上げ――そして首を横に振った。


 ――こっちは後ろだ。


 ということで、ソウヤは、神竜の正面に回るべく歩いた。

 神竜から念話が降ってくる。


『ここを訪れる者など、いつ以来か……。ご友人、何もないところだが、ゆっくり話し相手になってくれ』

『はい』


 ようやく神竜の正面に、ソウヤは到着した。白き鱗は神々しく、その巨体はなるほどドラゴンの神だと思わせた。寝そべっている神竜は、その目をソウヤに向けた。


『ご挨拶が遅れました、神竜様。オレはソウヤ、人間の勇者で別の世界から来ました』

『うむ』

『今は故あって、ハーフドラゴンとなりました。それで大地竜アースドラゴンより、その後継に指名されました』

『そうか』


 神竜の返事は、そっけなかった。この調子は興味がないように感じられた。


 純粋なドラゴンではないハーフドラゴンが、四大竜の一角、アースドラゴンを継ぐことに、何かしら言われるかと思ったソウヤである。神竜の淡泊な反応は、まさに拍子抜けである。

 こちらのことには興味がないのか。話し相手になってくれとは――そう思った時、ソウヤは気づく。


 いつからここにいて、普段何をしているかはしらないが、ずっと一人だと言う神竜である。むしろ話したいのではと思えば、こちらから話しかけるのはよくないのではないか。


『……もういいか、ご友人?』

『はい、どうぞ!』


 ソウヤは背筋を伸ばした。実のところ、自己紹介の後、聞きたいことがあったが、相手は仮にも神である神竜だ。そちらの都合を先に聞くのがいいだろう。


『ここにいて長いが、我の後ろからやってきた者は、ご友人が初めて……いや、誰かいたかもしれない。うむ、はて、いたような、いないような――」


 神竜が僅かに首をかしげた。


『まあ、よく覚えておらんほど、そこから人は来ない。だがご友人はそこから来た。何があるかは、知っておるだろう?』

『「虚無」ですね』


 聞きたいことはそれもある――ソウヤは意を決した。


『話せば少し長くなるかもしれませんが、オレとしてもわからないことが多くて――』


 魔王軍残党と戦っている最中に、理由もわからず虚無に飛ばされたこと。そこで出会った謎の人物である師匠。光に導かれて出たら、ここに辿り着いた。


『――ここは、どこなのでしょうか?』

『時空回廊だよ、ご友人』

『ここが!?』


 ソウヤは驚いた。しかし言われてみれば、虚無から出た直後に感じた熱風は、マグマの如き力を感じた。何となく覚えがあったのはそれが理由かと納得した。

 しかし、疑問がすべて解決したわけではない。


『ファイアードラゴンテリトリーの火山島なのですか、ここは?』

『如何にもだよ、ご友人』


 神竜は顔を上げた。


『炎の小僧が、テリトリーにする前から時空回廊はあってな。その最奥がここだよ』


 最奥――まだ奥があったのかと考えたソウヤだが、一つ思い至る。時を戻す台座、そのさらに先があったのを。


 アースドラゴンは、その奥の光を『時』と称した。そこに何があるのかはわからないとも。何故なら行った者は、誰一人帰ってこなかったという。


「まさか、あの奥の光がここに通じていたとは……」

『左様。そちらの道を行けば、時空回廊、神殿部へと辿り着く』


 神竜が指し示した先に、ソウヤは目をやる。洞窟のような穴がぽっかり開いている。先が見えないほど長い道のようで、薄暗い。


 だが帰れるのだ。それはソウヤの中で希望がわいた。やっと知っている場所に戻ってきた。


 ……ここで、また一つ疑問が浮かぶ。


「そういえば、この道を来た者は、二度と帰ってこなかったとアースドラゴンより聞きました。どうしてですか?」

『うむ。道中にいる獰猛なる守護者にやられたのであろう』

「守護者、ですか?」


 振り返るソウヤ。神竜は顔を近づけ、入り口を見やる。


『そう。我のもとに軽々しく辿り着けぬよう、番人ともいうべき守護者が、うようよおるのだよ』


 光を辿って『時』を目指した者は、その守護者に倒された。ソウヤは首をかしげる。


「あなたの下に来れないように、入ってくる者を殺している、と……。ひょっとして、ここにオレがいるのって、マズいですか?」


 人嫌い、ドラゴンも含めて訪ねてこられるのが嫌いではないか。そのそも神竜――神の竜である。神の神殿、住処に軽々しく入っていいものか。


『我は、来るモノは拒まぬよ。もちろん害をもって近づくものは容赦しないがね。だからキミのような友人が来る分には構わない』

「そうですか。……でも、守護者がいるのは、やはり簡単に会うべきではないということでもありますよね?」

『のべつ幕なし、ではないな。そうなったのには理由がある。……聞きたいかね?』

「差し支えなければ」


 疑問に答えてくれるのなら、好奇心を静めるためにも聞きたい。


『我が、死者を蘇らせることができるからだ』

「!?」


 神竜はとんでもないことを言った。



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