後日談60話、首謀者発覚
ジンによる魔族士官の尋問は続いた。
ファイアードラゴンの一族を根絶やしにしようと、ドラゴンの卵に手を出した大戦犯たちの名前と居所、そして可能な限りの魔王軍残党の拠点の場所も聞き出した。
その過程で、捕虜の数が一人になった。
事前にジンが調べ、割り出した情報とどうしても
ドラゴンを前に嘘を言った者は容赦しない。それを目の当たりにした残った一人は、実に素直になった。
それによれば、魔王軍残党は、各地に散らばっており、しかし来るべき決起のために力を蓄えている状態なのだという。
それぞれの任地にいて、ファイアードラゴン騒動を逃れた部隊もあれば、暗黒大陸での襲撃がきっかけて、魔王軍に参加した者もいるらしい。
「実に面倒なこった」
コレルが言えば、相棒のフラッドも舌をちらつかせた。
「思ったより、残党の規模も大きくなりそうでござるな」
「全部合流したら、軍と名乗るくらいの戦力になるかも」
魔獣使いが眉をひそめれば、ミストがニヤリとした。
「なあに、全部やっつけてしまえばいいのよ」
フラムを溺愛しているミストである。ドラゴンが生まれる前の卵を破壊した極悪魔族への報復に、一切の手抜きはない。
喧嘩を売られたなら、ほぼ全てのドラゴンが『全部』滅ぼそうとするから、この種族は怒らせてはいけないのだ。
とはいえ――
「ミストじゃないが、魔王が死んでもまだ軍に残っている残党は、片付けないと将来、世界に仇をなす存在になる」
魔王がいなくなって軍を抜けるというのが、普通だとソウヤは考える。それでも魔王軍に執着してしまっているのでは、もはや救いようがない。
十年前の魔王討伐。そして十年経っての魔王軍の逆襲。前科があるだけに、残党はここで根絶するくらいの勢いであたらないと、また同じ悲劇を繰り返すことになる。
ジンがやってきた。
「ファイアードラゴンと眷属への報復案を提唱したのは、スカルローイ・ジェアハという魔王軍幹部らしい。いわゆる暗黒大陸にいた魔王軍の将軍だったらしく、生き残りの魔族を集めて、軍を編成しようとしているとか」
実際に炎のドラゴン軍団に全てを焼き尽くされたところを、命からがら生き延びた魔族将軍らしい。なるほど、ファイアードラゴンに深い怨恨を抱いてもおかしくない話だ。
だが何度でも言うが、炎に焼かれる原因は、魔族側にあるから、恨む相手を間違えている。
「他の魔王軍も潰す必要はあるが、まずはこのドラゴンに喧嘩を売った奴から片付けないとな」
「同感だよ、ソウヤ」
ジンは頷いた。
「彼がまたドラゴンにちょっかいを出したら、今度こそ世界の危機だからね」
それで魔族『だけ』が滅びるなら自業自得で済むが、他種族がその巻き添えで滅ぶのは、冗談ではない。
「場所は、暗黒大陸か?」
「ああ。先の収集データと一致しているから、アジトへ乗り込める」
老魔術師は言ったが、眉間に皺を寄せた。
「今回あっさりいったとはいえ、油断はしないでくれよ? 残党と言えば、正規軍より格下に聞こえるが、しっかり準備している連中は手強い」
ジンは、じっとソウヤを見た。
「くれぐれも、慢心しないでくれよ。君は力の加減が難しいんだから」
「わかってる」
ハーフドラゴンとなって、ソウヤの力はさらに強くなっている。正直、人間の頃でもそこらの魔族兵など一撃で倒せたから、その能力は隔絶している。……が、これが慢心のもとなのだろう。
戦闘では油断した奴から死んでいく。ソウヤは気を引き締める。頼もしい仲間たちがいても、過信はしない。
・ ・ ・
クレイマンの浮遊島は、暗黒大陸へと向かった。
討伐対象となっている魔王軍残党の将軍、スカルローイは、自身の手勢と共に、大陸南岸近くの山岳地帯にあるバローク遺跡都市に潜伏しているという。
「バローク? 知らないな」
考古学をかじっているライヤーは首を傾げた。ジンは言う。
「まあ、魔族のテリトリーでの歴史だ。人間が知らないのも仕方がない」
「ジイさんは知っているのか?」
「いいや、私も知らないね」
尋問した魔族士官の話によれば、渓谷の底にある岩でできた廃墟の町で、魔王軍残党はそこの建物を補修して使っていた。
ファイアードラゴンとその眷属の襲撃を逃れ、放浪していたスカルローイ将軍や部下たちは、無人の遺跡都市を発見し、そこを根城にしたのだ。
「人数は、およそ1000人ほど。この人数で攻めるのは、少々面倒ではある」
まともな殴り合いができる規模ではない。こちらが
「――壊していいのだろう?」
そう言ったのは、アクアドラゴンだった。ドラゴンに手を出した魔族の犯人探しの進捗を聞きにきた彼女は、ソウヤたちのバローク遺跡都市の攻略の話し合いをしている場に出くわし、そして胸を張った。
「殲滅していい魔族しかおらんのだな? であるならば私が、奴らに破壊をくれてやろう!」
如何にもドラゴン的思考のアクアドラゴン。ファイアードラゴン一族がかなり攻撃的だったが、水の一族の筆頭であるアクアドラゴンも、相当な破壊好きな一面がある。
「私が町を破壊してやるから、そこから逃げる奴らをお前たちで片付けるがいい!」
正面から殴りにいく係が、志願によって決まった。この場でテンションの高いアクアドラゴンを止められる者はいなかった。
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