後日談61話、アクアドラゴン大進撃


 単に暴れたいだけではないか。


 アクアドラゴンを見ていると、そう思うことがしばしばあるソウヤである。振り返れば、大怪獣さながら敵陣に襲いかかって大暴れするアクアドラゴンを何度見たことか。


 アクアブレスは、不毛な岩しかない渓谷の底に流れ込み、そこにあった粗末な石造りの建物を吹き飛ばした。

 そこにいた魔族兵たちも、土石流の如く突っ込んできた水の前には無力だった。


 上空の飛空艇――ゴールデンウィング二世号から、下の遺跡都市が水に飲み込まれて、破壊されていく様を見下ろしていたフラッドは、口を開けた。


「さすがは、水の守護竜様! いつ見ても、凄まじい力でござるなぁ!」


 フラッドの一族であるリザードマンは、水の神としてアクアドラゴンを崇拝している。そんな彼が、敵対している魔族をやっつける神様という構図に興奮を覚えないはずがなかった。

 コレルは苦笑しつつ、船橋のライヤーに振り返る。


「お前は見ないのか、ライヤー? 凄いぞ、下は」

「遺跡都市が壊れていく様を見ろってか? 冗談だろ」


 ライヤーは鼻をならす。


「これでも考古学も専門だぞ。そんなおれが、遺跡が吹っ飛ぶ様を心穏やかに見れるかっての」

「なんだよ、文句があるなら、アクアドラゴンに言えばよかったじゃないか。遺跡都市を見たいから壊さないでくださいってさ」

「言えるわけないだろ! 相手はドラゴン様だぞ」


 ライヤーは顔をしかめた。


「今回の件は、それでなくてもドラゴン様方のご機嫌斜めな状態だぞ? そんな中で意見なんてできるわけねえじゃんか。そもそもドラゴンに遺跡の価値なんて説いたところで理解できねえし」


 本当は、魔族の文化遺産である遺跡都市を破壊するのは反対だったのだろう。しかし状況がそれを許さなかった。


「まあ、仕方ねえよな……仕方」


 とても顔が苦渋に満ちていた。無理やり納得させようとしているようだが、顔は決して納得しているそれではない。


 その間にも、アクアドラゴンは廃墟の町を進み、口から水の柱を吐き出して、建物を倒壊させていく。

 抵抗する魔族兵だがブレスによって流され、為す術がなかった。


 ソウヤは、飛空艇の甲板にいて、大地を感じていた。魔力を感じ、そこにある存在を感知する。


 魔族の命が霧のように消えていく中、遺跡にいる敵の動きに注意を払う。特に、この場から脱出しようとする者の気配を追い、必要ならば始末するのである。



  ・  ・  ・



「ドラゴン! 何故、ドラゴンが現れた!」


 魔王軍残党の一将軍であるスカルローイは、絶叫した。


 悪魔型魔族であるスカルローイは、巨大な青き鱗のドラゴンの襲来に目を回す。


「狙ったのは火属性ドラゴンだぞ! 何故、水属性のドラゴンがここにいるのだ!?」


 ドラゴンの報復主義は、スカルローイも知っている。元々、魔族の中でも傲慢なるドラゴンと事を構えることをよしとしない風潮はある。


 あの日、突如として現れたファイアードラゴンとその眷属たち。守備していた隠れ拠点を破壊され、部下やその家族が炎で墨になっていく様をスカルローイは目撃した。


 何故、ドラゴンが襲ってくるのか? それについてまったくわからないまま、逃げることしかできなかった。


 暗黒大陸を破壊して回ったファイアードラゴンとその群れはやがて離れたが、残された魔族には無力感と、一方的に叩かれたことへの憎悪が募った。


 少しして、魔王が倒れたことを知り、魔王軍が正規の軍としてもはや機能していないことを察した。


 残党と呼ばれる勢力に落ちぶれたが、人類への戦争を忘れることはなかった。また、魔王軍の壊滅の一翼を担った炎のドラゴンとその一団への復讐心も積み上がった。


 魔王軍主力と刺し違えるように消えたファイアードラゴン軍団。スカルローイとその残党兵は、ファイアードラゴンがいない火山島に兵を送り、完全にその一族を根絶やしにする策を実行に移した。


 それがドラゴンの卵破壊。凶暴で強い大人になる前に――生まれる前に命を絶つのだ。


 あくまで、狙いは炎属性のドラゴンだった。いずれドラゴンを排除することになるにしろ、まとめて相手はできない。


 成人ドラゴンを悉く失ったファイアードラゴンの一族を叩くなら、今だとふんだのだが……何故か、炎属性と相性が悪い水属性ドラゴンが殴り込んできた。


 ドラゴンは自分たちに火の粉がかからなければ、攻めてくることはないはずだ。炎属性ドラゴンを狙ったのだから、水属性が介入してくる余地はなかったはずなのに。


「どうなっているのだ!?」


 炎属性排除が、他の属性のドラゴンにも危機感を与えてしまったのだ。他に介入させないように手を打ったはずなのに、そのドラゴンたちも他人事ではないと決起を促してしまったのかもしれない。


 ――なんてことだ……!


 スカルローイは項垂れる。

 暗黒大陸中の残存兵をかき集めて、来る日のために軍備を整えていた。しかしその戦力と準備が、襲来した水属性のドラゴンによって滅ぼされようとしている。


「将軍閣下! ここは危険です! お逃げください!」


 部下である獅子型の魔族士官が飛び込んできた。スカルローイは目を剥く。


「私に逃げろというのか!?」

「ここにいては、全滅です! どうかお逃げください!」


 多少、腕に自信があるスカルローイだが、怒れる大型ドラゴンに挑んで勝てるほどではない。

 バリバリと嫌な破砕音が段々近づいてくる。


「もはや、使うしか……ないのか」


 この遺跡都市の地下で発掘した、かつての魔族文明が作り上げた究極の魔力兵器。こんなところで、まったく標的でもない水属性のドラゴンに使うことになるのは無念だった。


 だがこのままでは、スカルローイの残党軍は全滅である。せめて、敵を道連れにしなければ、死者が浮かばれない。


「我が命を糧に、顕現せよっ! 闇の球よッ!!」



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