後日談59話、ジン・クレイマン王の尋問
魔王軍残党の洞窟拠点は、あっさり制圧された。
突然の攻撃だったこともあるが、ソウヤたちの強さもあって、蹴散らされたというところだ。
残党軍で残っているのは、指揮官とおぼしき魔族士官が二人。ソウヤが見守る中、捕縛された二名の前に老魔術師は立った。
「諸君らには、実に残念なお知らせがある。君たち魔族の愚かな行動の結果、ドラゴン族が魔族殲滅へと動き出した」
「!?」
「わかるか?」
ジンは大げさに手を振った。
「老いも若きも、男も女も、魔族は根絶やしにすると、ドラゴン族は決めた。……理由は君たちなら言わなくてもわかるよな?」
その瞬間、ドラゴンに化けることができる老魔術師が、竜の威圧を発した。弱き動物たちは、何も言わずともその重圧に押し潰され震え出す。
「ドラゴンは、魔族による卵破壊を、大変お怒りだ。これは種の存続に関わる一大事。ドラゴンの子に手を出すことは、滅亡戦争を仕掛けたことを意味する。当然、全ドラゴンを敵に回す行為。……魔族は文句はあるまい。自分たちが仕掛けたことなんだからね?」
ガクガクと魔族士官が震えているのは、種の絶滅を宣告された故か、単に威圧にやられただけか。
「やったら、やり返されるのは当然のこと。そこで文句は言えないよな?」
ジンは、大げさに脅しているだけだが、ドラゴン族のトップたちは、本気で魔族を滅ぼすことを頭の片隅に抱いている。
誰も制止しなければ、喜んで報復するのがドラゴンだ。そもそもドラゴンを誰が制止するのかといえば、やはり同族であるドラゴンではあるが、そこで種族報復に消極的な者がいたから、まだ実行されていないというだけなのだ。
何を言いたいのかと言えば、魔族はまだ運がいいということである。
「君たちには家族はいるか? 子供はいるかね?」
ジンは表情だけは穏やかに、しかし竜の威圧は引っ込めない。
「どうなんだ?」
「い、いない……」
「ファイアードラゴンとその眷属に、皆殺しに、された……!」
――あぁ、ドラゴンに家族を滅ぼされた魔族か。
ソウヤは思わず天を仰いだ。これも一つの報復、復讐。家族が殺されたから、その報復にファイアードラゴンの一族を滅ぼす。
復讐の連鎖。こんなの不幸だけが拡散していく。
「なるほど、君たちは、復讐を果たしただけ……、そう言うわけだな」
ジンは穏やかな笑みを引っ込めた。
「であるならば、やはり君たちは復讐の相手を間違えている。ドラゴンのテリトリーを侵犯し、ファイアードラゴンを外に引き出したのは、君たち魔族だ」
「なっ……!?」
「嘘だ。我ら魔王軍は――」
魔族士官が反論しようとしたが、ジンに射すくめられ言葉が止まる。
「魔王軍ではないよ。魔族で確か『魔法王』を名乗っていたカリューニーという男だ。その者が触れてはいけないものに触れ、ファイアードラゴンを怒らせた。君たちが本当に復讐しなければならなかったのは、カリューニーとその共犯者たちだったのだ」
「……そんな」
「馬鹿なっ……」
魔族士官たちはジンの直視に耐えられず、視線を彷徨わせる。いい加減、竜の威圧は解いてもいいのでは、とソウヤは思う。
「暗黒大陸の騒動も、魔王軍が壊滅したのも、魔王が死ぬことになったのも、全て魔族によるもの。実に皮肉なものだ」
ジンは淡々と、しかし容赦がなかった。
「だが本来復讐すべき相手ではなく、我らドラゴン族に、またも手を出してきた魔族というのは、本当に度し難い存在だ。ファイアードラゴン一族への報復? 全ドラゴンを侮辱し、その存続を脅かした救いようのない愚か者だ。愚かな行為ばかりとる魔族は、これ以上世界に迷惑をかける前に滅びるべきだ――」
――あんたは、変身しているだけで本当のドラゴンじゃないだろうに。
ソウヤは心の中で、突っ込んだ。魔族士官たちの震えが、目でわかるほど酷くなっている。
「――というのがドラゴンたちの見解だ。報復相手を間違えたがために、君たちの同族や子供たちが焼き払われ、殺され、未来を失うのが決定してしまったのだ。愚かで、間抜けな、大人たちのせいで!」
そこで老魔術師は、しゃがんで魔族士官らと目線を合わせた。
「見当違いでドラゴンの卵を破壊する暴挙に出た大戦犯は誰だ?」
「……っ?」
「君か? それとも君か?」
ジンが指差すと、向けられた魔族士官は首を横にブンブンと振った。ただの指先が、ナイフか、あるいはドラゴンの爪に見えているようだった。
「ドラゴン族は、必ず報復する。だが同時に、君たち魔族と違って賢くもある。ドラゴンの子供たちを虐殺した罪は、それを考えた間抜けと実行した者たちだけの命で勘弁してやると言っているのだ。何も知らない魔族の子供たちには手を出さないようにしてやろうじゃないか……」
悪党演技が板についているのではないか。まるで映画を見ている気分であるソウヤである。
「さあ、魔族を滅びの道に誘おうとした愚か者どもの名前を明かし、その拠点を明らかにせよ。君たち次第で、魔族が滅びるかどうかが決まる」
いわば最終警告。ただの一拠点指揮官に過ぎないだろう中間管理職に世界の命運、いや一族の命運を委ねさせるデスゲームばりの理不尽要求。あまりのプレッシャーで心が潰れそうである。
「もう一度言うぞ。間違った選択をすれば、君たちのせいで魔族は滅びる」
一族すべての責任を押しつけられた格好だ。当然、そんな責任を一個人がそうそう持てるわけもなく、指導者でもない下っ端士官に、責任に耐えられる度胸も覚悟もない。
この辺り、一国を統べたクレイマン王ならではの、立場ある者だったからこそ、使える脅し文句と言えた。
「聞こえなかったかね? 私は頼んでいるのではない。命令しているのだ。愚か者どもの名前を挙げよ。……それとも、戦犯は君たちかね?」
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