後日談58話、拠点強襲する豪腕ハーフドラゴン


 ソウヤ、そしてアースドラゴンが見つけたそれは、魔族たちの地下拠点だった。


 さらにミストらが魔力眼で調べた結果、魔族集団は、魔王軍残党だとほぼ断定された。恐るべきドラゴンの目。


 多数の武器を備蓄し、捕まえた人間を殺しているのを確認したのが、決め手となった。


「正直、卵を壊した奴の仲間って証拠はないんだけどな」


 ソウヤは、襲撃の準備をする仲間たちに言った。


「だが、近くを通り掛かった人間などを襲い、盗賊まがいのことをしながら物資を調達し、武器を揃えているのは、どう見ても鎮圧案件だ」

「魔族じゃなくても、討伐案件だろ」


 コレルが小手を装着しながら返した。


「で、ソウヤ。あんたは丸腰で行くつもりなのか?」

「あいにくと人間用の武器は持てなくてね」


 力加減ができないのがよくない。敵を斬るとなれば自然と力が入るから、それで武器の握りを潰して破壊しかねない。


「ま、素手で問題ないだろう」


 格闘である。元々、勇者時代から豪腕でならしたソウヤである。さらにハーフドラゴン化して、パワーはさらに跳ね上がっている。

 竜爪槍を確認していたミストが笑った。


「アナタなら、パンチ一発で、魔族兵くらい潰せるでしょうよ、ソウヤ」

「ドラゴンであるミストに言われちゃうとなー」


 人間の姿でも充分強いミストだが、ドラゴン形態ともなれば武器などいらないのは間違いない。


「あまり力を入れすぎて、魔族兵を吹っ飛ばさないでよ、ソウヤ。それで洞窟が崩れたらどうするの?」

「さすがにパンチで吹っ飛んだ奴のせいで、崩れるような洞窟じゃないだろ」

「それはわからんが――」


 ジンが口を挟んだ。


「君が間違って壁にパンチしたら、崩れるかもよ」

「いやいや、さすがにそんな……」

「……」


 無言になるジンとミストを見やり、コレルとフラッドは顔を見合わせた。いやさすがに――という顔をしている二人だが、まだ彼らはドラゴンブラッドで進化したソウヤの力を知らない。


「というか、オレも全力わからないから、加減する」


 どうか本気パンチで、壁が崩れませんように、とソウヤは心の中で呟いた。



  ・  ・  ・



 魔王軍残党の洞窟の周りは森である。

 手順としては途中までゴールデンウィング二世号で近づき、そこからソウヤがドラゴンに変身し、洞窟入り口へ突入し制圧。


 浮遊ボートに乗ったミスト、ジン、コレル、フラッドがその隙に入り口に接近し、後は拠点に踏み込み、抵抗する魔族兵を蹴散らす。

 これ以上ないシンプルな作戦であった。


「ただの脳筋戦法」

「力押し。堂々と正面から」


 およそ作戦と言っていいか怪しい強引さである。そしてそれは実行された。


『ドラゴンだ! ドラゴン接近!』


 洞窟前の隠蔽陣地で、オーク兵が叫んだ。次の瞬間、陣地はソウヤドラゴンが着地したせいで潰れた。


 間一髪、脱出に間に合ったオーク兵。仲間のゴブリンが、キーキー悲鳴をあげながら、洞窟へと駆け込んだ。


 周りにいた魔族兵が引っ込むのを見やり、ソウヤはドラゴンから人の姿に戻る。すると、陣地から這い出し、唯一逃げ遅れたオーク兵が目を丸くした。


『人間……だと……? 魔法で化けていたのかっ!』


 騙された、と思ったか、牙をむき出し、オーク兵が立ち上がった。身長2メートルに達する巨躯に、槍を手にしたところで、ソウヤが飛び込んできた。


「おせぇ!」


 繰り出された拳。オークの胸部の鎧を穿ち、その巨体をぶっ飛ばした。


「あー……」


 飛ばしたのは上半身のみ。下半身はその場に残り、一秒遅れて後ろへ倒れた。パンチ一発で胴体分断とか、その破壊力は、ソウヤの想定の上を行っていた。子供体躯のゴブリンならともかく、大男より上サイズのオークでこれとは……。


 洞窟内から、ワラワラと魔族兵が出てくる。ドラゴンと聞いて出てきた魔族らは、人間が一人いる事を訝しんだが、すぐに斧や槍を手に向かってきた。


「大変わかりやすい、なっ!」


 地を蹴れば、その突進は風の如し。一人のオーク兵を盾にするようにそのまま洞窟内へと、飛び込む。何人か魔族兵がそれに巻き込まれて押し倒されたが、ソウヤは構わなかった。


 浮遊ボートで乗り付けたミストたちが上陸し、洞窟へ向かってきたからだ。ソウヤの突撃から逃れた魔族兵が、たちまちミストの竜爪槍に裂かれて屍と化した。


『敵襲! 敵が侵入!』


 魔王軍残党の拠点内は、大騒ぎだった。

 ソウヤは、向かってくる敵を拳一つで粉砕していく。盾やら斧やらを拾ってみようとしたが、上手くいかず諦めた。もう己の肉体を武器に、潰し、砕き、魔族兵の血と骨と肉を撒き散らさせる。


『ヤアァー!!』


 横合いから飛び込んできた魔族兵が斧を叩きつける。他を倒している隙をつく攻撃。ソウヤはとっさに左腕でガード。

 本来なら、魔族兵の力任せの斧ならば、人間の腕など容易く切断できた。だがソウヤの腕に斧が弾かれた。


「悪いな。俺の皮膚はドラゴンの鱗なんだ」


 並の武器と通さないドラゴンの外装。変身の要領で、腕の表面を鱗化して刃を通さない。ついでに言えば、拳も鱗化しているので、金属を思い切り殴っても指が折れたりすることはなかった。


 ソウヤのカウンターを喰らい、魔族兵の首が飛んだ。――人の腕を切り落とそうとしたからだ。


 奇襲された魔王軍残党は、各個に応戦する形となった。だが侵入してきたのが、ドラゴンを含む、元勇者パーティーメンバーということもあり、為す術がなかった。


 たちまち戦士らは鎮圧され、拠点の作戦室に残った二人以外は全滅した。


「これまでも何度も、魔王軍の秘密拠点を潰してきたけど、楽なほうだったな」

「ああ、昔を思い出すな」


 コレルがニヤリとした。ジンが首を捻る。


「私は特に出番がなかったな」

「仕方ないよ、ジンさんよ。ソウヤやミストが強すぎるのさ」


 ミストとフラッドが、捕らえた魔族兵――いや士官を見張っている。ソウヤは、老魔術師を見た。


「爺さん、出番だぞ」


 尋問の時間である。



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