後日談51話、帰ってきたゴールデンウィング二世号


 ゴールデンウィング二世号に乗るのは実に久しぶりだった。


「ソウヤ!?」


 わかっていたことだが、ソウヤの姿を見たライヤーは、しばし呆然とした後、バタバタと駆け寄った。


 ――あ、これ体当たりされる勢いで抱きしめられるやつだ……。


 ソウヤは察し、力を抜き、真っ直ぐ立った。少しでも前傾していると、おそらく壁にぶつかったようにライヤーが弾かれる。


 全力タックルされても倒されないだろうという自信は、ソウヤにはあった。ちら、とコレルとフラッドを見れば、何となくこれから起こるであろう感動の光景を想像はしていても、事故が起こる可能性についてまで考えが及んでいないので、止める様子はない。


 ――こういうところだぞ。


 悪態は心に留め、ライヤーの当たりに身構えた。次の瞬間、バッと抱きしめられた。


「旦那じゃねえか! この野郎、やっぱ生きてんじゃねえか! 今までどこにいたんだよーっ!」


 言葉が溢れた。おそらく『今何て言った?』と切り返せば、正確な答えは返ってこないだろう。熱烈な歓迎ぶりに、思わず手が出掛かるソウヤだったが、何とか抑えた。感激のあまり、友人を殺すわけにはいかない。


「心配をかけたようで、申し訳ない。元気そうで何よりだ」

「当たり前だ! まあ、あんたのことだから生きているって思っていたけどな!」


 ――生きていると思っていた?


 ソウヤは首を傾げつつ、しかし古い友人に会えて興奮しているライヤーを案じる。


「凄い勢いで突っ込んできたけど痛くなかったか?」

「少し」


 痛かったらしい。だと思ったソウヤである。


「積もる話もあるだろうが――」

「そうだぜ、旦那。魔王を吹っ飛ばした後、今までどうしてた? それに何でこの島にいるんだ?」

「……汗、凄いけど、ここで立ち話はきつくないか?」

「暑いよ。何で、旦那もお前らも平気な顔をしているんだよ!?」


 コレルとフラッドは顔を見合わせる。ここはかつてのファイアードラゴンのテリトリーである火山島。平時でも暑い。


「場所を変えよう。脱水症状になる前に」


 ところで旦那、とライヤーは視線を転じた。


「あの幼女、誰?」



  ・  ・  ・



 ゴールデンウィング二世号に足を踏み入れると、家に帰ってきた気分になった。


 ソウヤにとって、銀の翼商会そのものと言っていいゴールデンウィング二世号。最初の頃は浮遊バイクから始まったとはいえ、飛空艇は家のようなものだった。


 フィーアがいて、相変わらずライヤーと組んでいるのを見て、ソウヤは安心した。フラムは、初めて乗った飛空艇を興味深く見上げていた。


「おとーたん、おふね見たーい!」


 当然、じっとしていられるわけがなかった。ソウヤは、ライヤーとこれまでの話をするということで少々忙しいが。


「おれが見ておくよ」


 コレルが面倒を見ると志願した。……ソウヤが胡乱げな目を向けると。


「大丈夫、何もしないよ。契約とか絶対しない」

「よし。フィーア、二人を見張っておいてくれ」

「わかりました」

「えー、おれってそこまで信用ない?」


 ソウヤが、フィーアに付き添いを頼めば、コレルが眉をひそめる。


「違う違う。ライヤー的に、子供が船の中を勝手に歩き回られたら気が気でないだろうって話」

「そういうことだ。さすが旦那、話がわかる。……ということで、フィーア。精密機械に子供が触らないように注意しろ。その子が危ないからな」


 ライヤーの指示に、フィーアは頷きで応えた。フラムとコレル、フィーアが船内見学をする中、ソウヤとライヤー、フラッドは談話室へと移動した。向かいながら、すでに話は始まっている。


「――旦那が、ファイアードラゴンの子供の面倒を見ているなんてな」

「ファイアードレイクの子だ。あの四大竜であるファイアードラゴンの子じゃないぞ」

「でも次のファイアードラゴンなんだろう? 凄ぇよな。凄ぇと言えば、旦那がドラゴン化しちまったなんて……」

「某もビックリだったでござるよ」


 フラッドが言った。


「初見は動転してしまうでござるから、すぐに見破るのは至難の業にござる」

「つーか、普通はわかんねえよ」


 ライヤーは苦笑した。


「この船とニアミスしたドラゴンが、まさか旦那が変身したドラゴンなんて、わかるわけねえって」

「嗅覚でどことなく懐かしさを覚えていたでござるから、常にそばにいたなら、いきなり変身した姿でもわかったかもしれないでござる」

「人間には無理だろ」


 軽口に似たやりとりをしている間に、談話室に到着した。ソウヤは口を開く。


「そういえば、この船は、お前とフィーアだけか?」

「ああ、銀の翼商会は縮小。飛空艇も複数いらないって売却に出すって言うから、おれがセイジに頼んで、この船を買わせてもらった」

「お前はこの船の船長だもんな」

「そう! まさにそう!」


 ライヤーが嬉しかったのか手をこすりあわせた。


「旦那から船長に指名してもらった、おれにとっての初めての船だったんだ。やっぱり人に任せたくないってもんさ」


 思い出補正は、おそらく銀の翼商会メンバーで一番強いだろうライヤーである。愛着が強いのもわかる話だ。


「旦那は魔王と相討ちになったって話だったけど、おれはあんたが生きているって思ったぜ」

「本当にござるかー? 滅茶苦茶ショックを受けていたでござろう?」

「余計なことを言うなって、フラッド」


 ライヤーが睨んだ。変わらないな、と内心ホッとするソウヤである。仲間たちと一緒に商人をしていた頃がとても懐かしかった。



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