後日談52話、ライヤーは受け入れる
ゴールデンウィング二世号の談話室で、ソウヤとライヤーは、互いにこれまでの話をした。
魔王を倒した後、世間ではソウヤが死んだと思われたこと。実は生きていたが、一命を取り留めた結果、ドラゴン化と力の制御が難しく、仲間たちに会うのを控えていたこと。ミストやクラウドドラゴンも生きていることなど――
「オレがこうしていられるのも、ミストが助けてくれたおかげさ」
ドラゴンブラッドの力である。副作用はご愛敬。
「クラウドドラゴンの場合は、仮死状態だったから、時空回廊で時間を戻して復活させられた。……コレルやフラッドの石化を解除したあそこでな」
「それは言わないで欲しいでござるよー」
大地竜の島で、石化してしまったフラッドである。ライヤーは首を傾げた。
「なんで、あんたたちは、あんな石化魔獣が多い島なんかに行ったんだ?」
前回ゴールデンウィング二世号で訪れた時は、アースドラゴンの島に生息するコカトリスやバジリスクの話を聞いて、相応の準備と警戒の上、上陸が行われた。もっとも降りたのはミストとソウヤのみで、後は飛空艇でお留守番だったが。
「コレルのいつもの発作でござるよぅ」
フラッドは、アッケラカンとした態度を取る。
「時々、魔獣と仲良くなりたい病になるのでござる。最近はドラゴンとお近づきになりたいようでござるがな」
「命が幾つあっても足りなさそうだ、そりゃ」
ライヤーは呆れる。
「で、ソウヤ、気になっていることがあるんだが、いいか?」
「なんだ?」
「プラタナムは回収したんだろ? 今はどこにあるんだ?」
――それな。
ソウヤは口を閉ざす。
勇者遺産。かつて大昔の勇者が乗っていたとされる高性能飛空艇プラタナム。この時代で発掘され、ソウヤたちの足として活躍。魔王との最終決戦の際もその快速ぶりでよく働いたが、損傷して墜落した。
どうしたものか、と考えようとした矢先、フラッドが言ってしまう。
「おそらくジン殿のところでござろう」
「ジン? ジイさんとこ?」
――あー、言っちゃった。
ライヤーの前では言わずにいたのだが、フラッドには話していたことがここで出てしまうとは思わなかったソウヤである。
「ってか、あの人も無事なのか!?」
魔王軍との最終決戦の際、ファイアードラゴンとその眷属は異世界の門へと追放したが、それにジンも巻き込まれて異世界に飛んだ。世間的にはあの老魔術師は別世界に飛ばされて、この世界にはいないということになっている。
ジン・クレイマンと彼の浮遊島、人形たちも忽然と姿を消したために、その存在を知る手掛かりがなくなったように見えたが。
一度名前が出てしまった以上、いまさら隠し立てしても仕方がない――ソウヤは観念した。
「無事だよ。異世界から帰ってきて、今、オレたちはあの人にお世話になってる。リハビリを手伝ってもらっている」
「クレイマンの浮遊島はあるんだな……!」
よし、とライヤーが思わず天を仰いだ。
「ちょうどおれたちも島を探していたんだ。プラタナムや、旦那の行方に絡んでいると思ってな。その勘は間違っていなかった!」
かつての仲間たちの中でも、ソウヤ生存を信じて、捜索に乗り出したのがライヤーである。
「プラタナムもそこにあるんだな?」
「爺さんが回収したと言っていたから、あると思う」
リハビリにかまけて確認していなかったソウヤである。ライヤーは声を弾ませた。
「それなら、浮遊島へ行こうぜ! おれも船の修理を手伝う!」
「いいのか? その――」
「大丈夫。旦那やジイさんの生存を他言するつもりはねえ。事情があってのことって思っていたし、実際そうだったわけだ。それが解決するまでは、おれも旦那たちの考えを尊重するつもりだ!」
興奮気味にまくしたてるライヤーである。大変話がわかる男だった。ソウヤは、ライヤーの意思を尊重することにした。
「わかった」
思わず握手の手を出しかけ、慌てて手を引っ込める。手を握り潰したら怖い。
「それじゃ、さっそく針路を……って、場所はわかる?」
「もちろん。オレがコンパス代わりに導いてやるよ」
席を立つソウヤ。ライヤーも立ち上がり、ふと机の上のコップを見た。
「……せっかく茶を出したのに、飲まないのか?」
「カップを破壊して中身をぶちまける未来が見える」
ソウヤはアイテムボックスから、特製のカップを出した。
「しかし、飲まないのは失礼だよな。悪いけど、その中身、こっちのカップに移してくれ」
「おれが?」
「だから言ったろ、リハビリ中だって」
「大変だな」
ライヤーが、お茶をソウヤの特製カップに移しかえる。
「金属製っぽいけど、このカップ何製?」
「アダマンタイト」
「嘘だろ!? このカップが、ア、アダマンタイトっ!?」
伝説の超金属。その強固さは、この世に存在するものの中で一番と言われる一方、伝説上の存在とされ、現代では実物をお目にかかる機会はないとされる。
「そういう工夫がないと、日常生活を送れないんだよ」
「だ、だけど、アダマンタイトのカップって……」
「さすが、クレイマン王の遺産だよな」
「……ああ、そうだな」
すん、とライヤーは落ち着いた。
「クレイマンの遺産じゃ、納得するしかないな」
ほら、とライヤーからカップを受け取り、ソウヤは茶で喉を潤す。
「――お茶っ葉ケチってない、これ?」
薄味だと思いつつ、船橋へと移動する。
「そういえば、ライヤー。お前、何か聞いていないか? 魔王軍とかその残党について」
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