後日談47話、ござるー


 ソウヤ、そしてフラムはドラゴン形態を解いて人型になった。……と、フラムの裸を見るんじゃねえぞ!――魔力で服を作り、それを着せる。


「……おお、ソウヤ殿でござる」


 フラッドも、人型――元の姿に戻ったソウヤを見て、感慨深い顔をする。コレルは片方の眉を吊り上げる。


「ソウヤ、お前の着ている服も魔法なんだよな?」

「そうだよ。ミストやクラウドドラゴンも、人前だと服を着ていただろう?」


 あれもすべて魔力だ。


「ハーフドラゴンになって、魔力制御とか、かなりやりやすくなった気がする」

「……その割に、パワー制御はてんで難しくなったんだろ? お前さんが苦戦するなんて、珍しいな」


 皮肉げに言うコレルである。


「せっかく人型になったんだ。ハグしてもいいか?」

「いいけど、オレからはしないからな。背骨をへし折っちまいそうだ」


 冗談でもなんでもなく、あり得るのが恐ろしい。ソウヤは警告はしたが、コレル、そしてフラッドは近づいてきた。


「ギュッとすんなよ?」


 コレルは言いながら、ソウヤに挨拶のハグをした。


「おかげで助かったぜ。……また会えて嬉しいよ、友よ」

「ああ」


 手で締めないよう、されるがままといったソウヤである。コレルが身を引くと、フラッドともハグを交わす。


「無事でなによりでござるよ」


 その様子を、フラムが見上げる。


「ん? どうしたでござるか、フラム殿?」

「ござるー」

「や、口癖を真似られてしまったでござるか」


 フラッドは陽気に笑った。人間向けスマイルは、はたしてドラゴンの子供に通用するのか――不安になるソウヤだが、どうやらフラムは誤解なく受け取ったようだった。


「ござるーは、ドラゴン?」

「違うでござるよ、フラム殿。某は、ライルチ、あるいはザウラ。他種族からはリザードマンと呼ばれているでござる」

「らいる、ち? ざうら? りざーと、まん?」


 フラムは小首を傾けている。ソウヤもまたライルチという単語は初めて聞いた。ザウラについては、昔どこかで聞いた気がしたが思い出せなかった。


「ござるー」


 フラムは両手を広げた。それはひょっとして自分もハグがしたかったのだろうか?


「おー、抱っこでござるか? よしよし」


 ひょい、と幼女を抱き上げるリザードマン。人型だと体格差があり過ぎて、そうなってしまう。


「あぁーっ」


 コレルが羨ましそうな声を出したが、フラムは人型だと普通に幼女だから、それを羨むのは成人男性としてはダメな気がしないでもない。でも他種族だと、そう感じないのは何故なのか。


「……と、熱いでござるよ、フラム殿」


 水を司る一族のフラッドにとって、火属性――ファイアードレイクは肌によろしくないようだった。抱っこはすぐに終わり、フラムは残念がったのは一瞬、今度はソウヤに抱き付いてきた。見た目は人間でもドラゴンのフラムだから、ソウヤが多少触れても大惨事ではないが、そっと落ちないように腕を彼女の椅子代わりに支えとしておく。


 コレルがまたも「あーっ」とか言ったが無視しておく。


「本当に久しぶりだな。……心配をかけたな」

「本当でござるよ。世界はソウヤ殿の死を悲しんでいるでござる」


 フラッドは説教をするように腕を組んだ。昔の仲間には、怒る資格はある。とはいえ、こちらの特殊な事情は酌んでもらいたい。可能ならばとうに顔を出していたのだから。


「で、今後のことでござるが――」

「ここまで連れてきたのはオレだからな。とりあえず、送るよ」


 ここは火山島。絶海の孤島。船はないので、空を飛ばない限り脱出はできない。ソウヤとしても、連れてきた手前、きちんと送るつもりだった。


 ――ここまで来なくても、唾液で解決していた件もあるからな……。


「なあ、ソウヤ。この火山島、以前のファイアードラゴンのテリトリーなんだよな?」


 コレルが口を挟んだ。


「そうだが……今はドラゴンもいないぜ?」

「探険したい」

「あわよくばドラゴンの子供とかそれ系の眷属探しか?」


 相変わらず、魔獣使いは正直である。


「こういう秘境に来る機会なんて、普通はないし、機会があれば見てみたいってものがあるだろう? 魔獣とかドラゴンは置いておくとしても」

「それは……わかる」


 初めての場所は冒険したいという気持ちは。魔王討伐したら飛空艇に乗って、これまで使命のせいで長居できなかった場所などを巡りたい、という気持ちはソウヤにもあったから。


「一応ここ、フラムちゃんの故郷なんだろ? 里帰りとは違うかもしれないが、ちょっと探険するくらいはいいんじゃないか?」


 もっともらしいことを言うコレル。ソウヤはフラムを見る。


「どうする? ちょっと探険するか?」

「するー!」


 スルー、ではなく、希望するそうである。子供は好奇心が旺盛だ。これが将来、大人になるとテリトリーで引きこもりになるのだから、ドラゴンというのはわからないものである。


 ということで、時空回廊の神殿を引き返しつつ、元ファイアードラゴンの縄張りだった火山島の探索と洒落込もう。


「……」

「どうしたフラッド?」


 何やら考えがありそうなフラッドに、コレルが問う。しかしリザードマンの相棒は首を横に振った。


「いいや、何でもないでござるよ」



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