後日談48話、まだ打ち明けないでござるか?


 火山島は、以前きた時と変わらず、荒涼とした大地が広がっていた。


 熱気が支配し、人間には厳しい環境である。クーラーの魔法薬のおかげで、コレルもフラッドも行動できるが、一番元気なのは、ファイアードレイク種のフラムだった。

 てててー、と元気に走り回るフラムに、コレルが保護者気取りで追いかける。人型のフラムは見た目は幼女だから、転んだら危ないという印象を周囲に与える。……決して、コレルはストーカーではない。


「ソウヤ殿」

「うん?」


 ソウヤとフラッドは、二人の後ろ姿を見ながら歩く。


「先ほど言いかけたのでござるが……。ソウヤ殿の現状について、どこまで伏せておくつもりでござるか?」

「……」


 リハビリが終わるまで、仲間には自分の生存を隠しておくつもりだったソウヤである。コレルとフラッドとの再会は、イレギュラーなものであり、本来はここで会う予定はなかった。


「目処が立てば話しても……と思うんだが、まだまだ、な」

「そんなにコントロールが難しいのでござるか? ……あ、いや、ソウヤ殿のことなので、リハビリも本気でやっているのでござろうが」

「まあ、自分でもまだ血を抑えられていないっていうのかな。まだフィットしていない感じなんだよ」

「うーん……。申し訳ない、ちょっと意味がわからなかったでござる」


 頭を下げるフラッド。ソウヤは首を横に振った。


「いや、すまん。オレも上手く説明できていないと思う。ミストがくれたドラゴンブラッドが、俺の血と完全に混ざっていない、というか、一体化していないというか……」


 日によって身体に違和感がある。やたら強かったり、弱かったり。昨日、ようやく石を壊さないように加減できたと思ったら、翌日は同じくらいの加減のつもりなのに、触れた途端、砕けてしまった、とか。


「ドラゴンの姿になってしまうくらい、過剰な血をもらったわけで、死なずに済んだのは運がよかったけど……」

「ソウヤ殿は、運が良いでござるからな!」

「だが、まだオレになりきれてないドラゴンブラッドが、悪さをしているみたいで、加減の基準をブレさせている」


 ソウヤは眉間にしわを寄せた。リハビリに時間がかかっているのはそういうところだ。


「正直、こうも日によってバラつくと、リハビリやっている意味があるのかって思う時もある。でもリハビリっていうのは、そういうものなんだ」


 気長に付き合っていくしかない。焦れば、無理をすれば、それですぐ治るものでもない。


「爺さん曰く、定着しきれていないドラゴンブラッドも、時間をかければそのうち慣れて、一体化すると言っていた。要するに、いまはカサブタみたいなもので、そのうち取れるのと同じってことだ」


 どれくらい時間が掛かるかはわからないが。


「爺さん、とは、ジン殿も無事だったのでござるなぁ」


 話を変えるように、フラッドは言った。魔王討伐後からここまでの話をかいつまんだ時、老魔術師であり、決戦時、異世界海賊船サフィロ号と共に異世界へ飛んだジンも、帰ってきていることを教えた。


「行方知れずだったかの御仁の無事が知れたのは喜ばしいことでござるよ。……他の仲間たちもそうでござる。この件もいつまで伏せておくつもりでござるか?」

「爺さんが、いいというまでな」


 ソウヤは肩をすくめた。自分のことはともかく、ジンが自分のことをどうするかは、彼が決めることである。


「今も我々の前に現れないということは、もしかしたらこのままという可能性もあるでござるか?」

「かもしれない。あの人次第だよ」


 ――それとも、オレ次第なのかな。


 ソウヤのリハビリが完了し、仲間たちのもとに帰るその日まで黙っているつもりかもしれない。自分だけ先に無事を知らせ、浮遊島云々という話になれば、仲間の誰か――ライヤーとかがやってきて、そこでソウヤと鉢合わせ、ということも考えられるから。


「……そういえば、ここに来る前、ゴールデンウィング号を見た」


 ニアミス。ソウヤドラゴンがコレルとフラッドを運んでいた時だ。フラッドは石化していたから知らないだろうが。


「ほうほう、ゴールデンウィング号とはまた、久しぶりでござるな」

「そうなのか?」

「そうなのでござるよ。実は――」


 フラッドの口から、銀の翼商会の仲間たちの話を聞かされる。商会は規模を縮小したが、セイジを中心に活動中。レーラは銀の救護団を作って、世界を飛び回り、ライヤーもまた、ゴールデンウィング二世号を買い取って、旅をしているという。


「……」


 大雑把には無事でいることは知っていたが、細かなところはよく知らない。大変ではあるが、それぞれ自分の進むべき道を見つけて動いているようだった。懐かしいと思う一方、寂しくも感じるソウヤだった。


 ――早く体を馴染ませて、仲間たちに会いたいものだ。


「どうするでござる、ソウヤ殿」


 フラッドが言った。


「もし、希望であれば、それとなくソウヤ殿の無事を仲間たち伝言する役、承るでござるよ」


 現状は不明であれど、生きていることがわかるだけでも、かける心配の度合いも軽くなる、とリザードマンの戦士は告げた。


「ほれ、某。死者の魂と交信する術があるでござる。交信できなかった、というだけで、現在のことを伏せたまま、生存を伝えることもできるでござるよ」


 魅力的な話にも思える。しかし――


「それを真に受けて、今の仕事や立場を捨てて、オレ探しを始められても困るんだよな」


 ソウヤは、リハビリが完了するまで――つまり、『再会のハグで仲間を殺してしまわないようになるまで』とか、『普段のちょっと当たってしまったで殺してしまわなくなるまで』は、会わないつもりだ。


 だから探されても、こちらが駄目なら会えないのだ。接触事故で仲間を殺したくない。


「うーん、探しにきてしまう者はいるでござるかー?」


 怪訝な顔をするフラッドだが、すぐに口を開いた。


「あー、リアハ姫あたりは怪しいでござるな。生存を知った途端、ソウヤ殿を探しに、国を出るとかありそうでござる」

「ほらな」


 物事は慎重にありたい。


「おとーたーん!」


 かなり前を行っていたフラムが慌てて戻ってきた。その後ろにコレルもいる。


「たいへん、たいへん!」

「何が?」

「たまご、食べられたの-」


 うん?――何を言っているのかわからなかったソウヤ。駆けてきたコレルが言った。


「卵が、あったんだが――何か生き物に食われていたんだ。ソウヤ、この島、何かいるぞ」


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