後日談46話、うっかりを指摘される日
時空回廊の台座の上に、半分石化のコレルと、完全石化のフラッドがいる。それを見守るソウヤドラゴンとフラム。
「不思議だ。こんな台座に乗ったくらいで石化が治るなんて思えないのに――」
コレルが自身の体を見る。
「突然、すっと石化が解けたぞ」
『時間が巻き戻っているらしいからな。石化する瞬間が一瞬なら、その巻き戻ったタイミングにきた時に一瞬で解除されるんじゃないか?』
「ほぇ……」
「はっ!?」
その瞬間、フラッドの石化が解けた。
「コレル! 煙が――うぁ」
ふらっ、とリザードマンがその場に倒れ込む。
「暑い……やばい、死ぬでござ――」
「フラッド! クーラーの魔法薬だ。飲め!」
コレルが戦友に、魔法薬を飲ませる。ここはマグマ渦巻く火山島。そして時空回廊である。その暑さ、対策なしで動ける生物はそうはいない。
――フラムは、元気だけど。
ファイアードレイク、火属性ドラゴンの仲間であるフラムは、その辺りをグルグルと走り回っている。溶岩も、火属性ドラゴンは大丈夫だって聞くが、まだ子供のフラムだと完全に耐性ができているかわからず、落ちたら怖いとソウヤは思った。
「生き返ったでござるー」
ごろん、と寝返りをうつフラッド。友が一命を取り留め、コレルはホッとした。
「よかったよ。石化も解けたし、万事解決」
「ここはどこでござるか?」
フラッドは周囲を見回し、そして、ソウヤドラゴンに気づいた。
「時空回廊って言うんだ、フラッド」
コレルが説明するが、フラッドは聞いていない。目の前の若いドラゴンを注視し、固まっている。
「フラッド? おい……!」
コレルが呼びかけるが、フラッドは振り向かず、ドラゴンを凝視したまま、手で静かにとジェスチャーをする。警戒しているのか、いや、警戒させないようにしているのか。
ソウヤドラゴンは黙って見つめ返す。悪戯心が働いたのだ。反応するまで様子見である。
睨み合いとも見つめ合いとも取れる時間が流れる。黙るように仕草で見せられたコレルも、どうなるか見守る。ドラゴンがソウヤだとわかっているから静観できるとも言える。
周囲のマグマの照り返し、弾ける音。そして周りを動いているフラム以外動くものはない。そんな幼竜も時々足を止めて、リザードマンとドラゴンを見たが、動きがないとみるとテテテ、と走り出した。
奇妙な沈黙。痺れを切らしたのは、リザードマンの方だった。
「コレル」
「何だ?」
「……状況を説明するでござる」
「話せば長くなるが――」
「短く」
「そのドラゴンは、ソウヤだ。以上」
乱暴なほど簡潔にまとめたコレルである。フラッドもこれにはドラゴンから目を離して、相棒を睨んだ。
「ハア?」
「だから、そのドラゴンはソウヤなんだって」
短くしろ、というからそうしたのであって文句を言われる筋合いはない、という顔になるコレルである。
そこから、ソウヤがコレルに話したこれまでの話を、コレルがフラッドに説明した。フラッドは時折首を傾けたりしたが、特に口を挟むこともなく聞いていた。
「なるほど。俄に信じがたい話でござったが――」
フラッドは、ドラゴンを見上げる。
「ソウヤ殿が、そのドラゴンということで相違ないでござるか?」
『ないよ。コレルが話した通りだ』
ソウヤドラゴンは頷いた。コレルは言う。
「石化したおれやお前を、ここまで運んでくれたんだ。感謝しろよ」
「また助けられたようでござるな。森で煙にやられてからどうなったかわからんでござるか、命拾いしたようでござる」
アースドラゴンの言葉で、大地竜の島へソウヤが行かなければ、コカトリスにやられていたのは間違いない。
『無事でよかったよ。さすがにきちんと会う前に、死亡とか洒落にもならない』
「しかしまあ、ドラゴンでござるか。……ドラゴンの血の力というのは凄いでござるなぁ」
フラッドは感心しきりである。
「一族の伝説に、ドラゴンブラッドで、竜人化したリザードマンの話があったが、案外本当の話だったかもしれぬでござる」
『あるかもなぁ。ただ、オレのような例は稀なことで、血に耐えられずに命を奪われることもあるそうな』
「さすがは異世界の勇者殿。持っているでござるよ」
フラッドは音もなく笑った。だがそこで、首を再度傾けた。
「しかし……わからんでござるな」
「何がだ、相棒?」
コレルが問うと、フラッドはソウヤドラゴンに顔を向けたまま言った。
「ソウヤ殿は、アースドラゴンの力を継承したのでござるな?」
『そうなるな』
「某、小耳に挟んだのでござるが……」
やや躊躇いがちに、フラッドは言った。
「聖女レーラ殿の石化を解いたのは、アースドラゴンの唾液をもとにしたものだったそうでござるが……。ソウヤ殿には、その力は受け継がれなかったでござるか?」
「それってつまり――」
コレルが腕を組む。
「わざわざ時空回廊なんて使わなくても、ひょっとして石化解除できたかもってこと?」
――あー……。
ソウヤドラゴンは顔を逸らした。やったことはなかったが、確かに指摘の通りである。アースドラゴンの力で、もっと手軽に石化からの復活ができたに違いない。
「まさか、忘れてた……?」
『そんなにオレの涎塗れになりたいのか?』
ドバっと眼前で垂らしてやれば、コレルもフラッドも慌てて飛び退いた。そらみろ、と思うソウヤである。
――唾液塗れになる覚悟もない奴が軽々しく言うんじゃないよ。
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