後日談45話、うっかりソウヤドラゴン


 大変暑苦しい島である。一目見ただけでそう思うのだから、かつてのファイアードラゴン・テリトリーは、とんでもない環境と言える。

 ソウヤドラゴンの手の中で、コレルは眉をひそめた。


「……なんて場所だ。まるで地獄だぜ」


 世界の果てにある巨大な火山島。流れ出た溶岩流が海とぶつかり、蒸気を吹き上げさせる。


 ソウヤドラゴンは、真っ直ぐ島にある神殿へと飛んだ。

 前回同様、生物の姿は見えない。あれから少し経って、ドラゴンたちがいなくなった島に、新たな生物が棲み着いたりしたかもと思ったが、環境がよろしくないので、ドラゴン以外には厳しいかもしれない。


 ――フラム、ここ好きー。


 ソウヤの背中で、ファイアードレイクであるフラムが言った。暑いところが平気な火属性ドラゴンにとっては、この火山島は住み心地がよい土地なのかもしれない。


「ここは……?」


 一人蚊帳の外であるコレルが、辺りを見回す。巨人の神殿というくらい、大きすぎる岩の壁や天井。ドラゴンでさえ、蟻にも思えるほどのスケール感の違いに圧倒される。


 ところどころ溶岩も見える灼熱の地。高度をとっているが、吹き抜ける風は温風そのものであり、コレルにはしんどそうであった。石化しているが、フラッドだったらこの暑さは果たして耐えられるだろうか。


 ――まずいな。人間にはここは過酷過ぎる……!


 時空回廊の利用前に、脱水症状で倒れてしまうのではないか。そんな予感があった。


 ――仕方ない。


 ソウヤドラゴンは、アイテムボックスを出す。突然、手の中に現れた箱に、コレルは目を疑う。


「宝箱……なんで!? これは――」

『言うなよ、コレル』


 竜の言葉で、ソウヤは言った。コレルはビックリして肩がビクッと動く。


「なっ、突然、声が――」

 ――あれ、オレだってわからなかったか?


 ドラゴンの声では、案外バレなかったようだ。これまでのウダウダ悩んでいたのは何だったのか。


『その中に、クーラーの魔法薬がある。飲むとよい』

「あ、ああ。そうか。助かる。とんでもなく暑かったからな。では、失礼して――」


 コレルはアイテムボックスを開けて、魔法薬の入った瓶を取り出した。蓋を開けてゴク、ゴクと。暑さが和らいだようで、一息つくコレルは、ソウヤドラゴンを見上げた。


「……で? これはどういうことなのか、説明してくれるか、ソウヤ?」

「――なんだ、やっぱりバレたか」


 ソウヤは人間の言葉で話しかければ、コレルは引きつった笑みを浮かべた。


「バレたか、じゃねえよ。こんなアイテムボックス使い、ソウヤしかいない」


 やはりアイテムボックスが特定の原因だったか。となるとドラゴンとしては、何もなければ騙し通せたかもしれない。


「お前、世間じゃ死んだことになっているんだぞ、ソウヤ? それがなんで……ドラゴンの姿なんかになっているわけ? ビックリし過ぎて、まだ頭ん中、混乱してるんだ」

「話せば長くなるんだが……聞いてくれるか?」

「当たり前だ。ここまで来て聞かなきゃ、オレは夜も眠れなくなる」


 知られたからには、ソウヤはコレルにこれまでの経緯を語った。魔王ドゥラークとの決着後、ミストの竜の血によってハーフドラゴンになったこと。その影響で、力の制御が上手くいかず、リハビリが必要なこと。アースドラゴンから後継者として指名され、その力を授かったこと、などなど。


「アースドラゴンの後継!? それって、クラウドドラゴンやアクアドラゴンと同格の存在になるってことか?」

「そういうこと。ちなみに、俺の背中に乗っているファイアードレイクは、ファイアードラゴンの後継者の予定」

「ひぇぇー」


 コレルは驚き過ぎて、目を丸くしている。もうお喋り解禁ということで、フラムも会話に加わっている。


「コレルは、おとーたんの知ってる人?」

「昔の仲間」

「今も仲間だぞ、ソウヤ」


 訂正を入れてくるコレルである。


「な、なあ。お前がドラゴンってことは、オレと従魔契約――」

「しねえよ。その契約は人間と同等か、それ以上の知能を持っている者には、何のメリットもないじゃないか。お断りだね」

「……そうかぁ。じゃあ、フラムのほうは?」


 コレルは、ファイアードレイクの方に顔を向ける。フラムは意味がわかっていないのか首を傾げている。


「コレル、それ以上はさすがに怒るぞ。お前がやろうとしているのは、幼女を騙して悪いことしようとしているのと変わらないんだからな!」

「!? その言い方はさすがに酷すぎるだろう……。わかったよ、契約の話はなしだ。でもソウヤ、一つ言っておくが、従魔契約は、別にペット契約とかそういうものじゃない。ちゃんとお互いの位置がわかったり、より意思疎通ができたりとパートナー的な要素のほうがずっと強いんだから、勘違いするなよ」


 コレルは言い返したが、ソウヤドラゴンは首を傾ける。


「お互いの位置がわかるって……ストーカー?」

「違うっ! ああ、もう何て言ったらいいのか。そういう悪い意味じゃなくてだな――」


 コレルが何やら言い訳がましく言っているが、おそらく彼の言うとおり、互いにメリットの話があるのだとは思う。そうでなければ、彼が従魔たちから深く尊敬と親愛と友情に結ばれていたりはしないだろう。

 コレルがいい魔獣使いなのは、そういうところからもわかる。


「よし、ついたぞ、コレル」

「ん?」

「時空回廊。あの光る台座の上に乗れば、時間が戻って、お前たちの石化前の状態に戻ることができる」


 ソウヤドラゴンは、台座そばに手を起き、乗せてきたコレルと石化フラッドをそっと下ろした。


「これで……石化が解けるのか。助かる、ソウヤ」

「いいってことよ」


 二人が回復するまで、これからの話を少ししようとソウヤは告げた。


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