後日談43話、迷うドラゴン
ソウヤは困惑していた。
大地竜の島にやってきたのが、知り合い――身内に数えていい戦友のコレルだったこと。ソウヤは今、ドラゴンの姿であり、世間一般では『勇者は死んでいる』ことになっている。その手前、どう対応したらいいか困ってしまったのである。
リハビリも途中であり、まだ人間社会に戻るには、色々抑え切れていない。迂闊に再会することは、周囲を危険に晒す行為。だから仲間とはいえ、接触は避けるべきなのだが。
――よりによってコレルかぁ……。
魔獣使いである。魔獣の言動を察して、意思疎通がとれる希有な才能を持っている男である。
魔獣に対して関心が凄まじく高く、仮にソウヤの状況を話せば、しつこいくらいに根掘り葉掘り聞いてくるだろう。なまじ知っている人間同士ということもあって、一切遠慮しないだろう。
そこからジン・クレイマンやミスト、ドラゴンたちのことまで知ることになると、面倒しかない。
一方で、話せばわかるのではないか、という思いもある。やはりそこは勇者パーティー時代の関係性もある。基本的に、コレルは人間よりも魔獣に対する扱いがよく、とても大切にしている。人としてどうかと思うが……。
そうこうしている間に、コレルが、コカトリスから助けたお礼と自己紹介を始めた。
――うん、今それどころじゃない。
向こうはソウヤがドラゴン化していることを知らないから、初対面のつもりだろうが、ソウヤは自己紹介されなくても知っている。
対応に苦慮している。何も知らない相手なら、ちょっとばかりドラゴンが吼えれば逃げるのだろうが、コレルには逆効果だ。
竜言語を本能的に理解できる様子のコレルである。人間とドラゴンの声が違うくらいで、ソウヤであることがバレたりしないか?
――念話だと余計バレそうだしなぁ……。
フラムと直通で飛ばしている分には、コレルにもわからないからいいが、いざ念話を彼にぶつければ、竜言語以上にわかりやすいのではないか。
――つーか、よく見たら、こいつ半分石化してね?
ソウヤはそこでようやく、コレルの体の一部が石化していることに気づいた。先ほど追い払ったコカトリスにやられたのだろうが。
――こいつ、このままだとヤバくね?
そもそも大地竜の島から、自力で脱出することが困難な状況のようだ。道中、島の魔獣に発見されれば、まず逃げられないし抵抗できないだろう。
――石化を解くには……アースドラゴンの爺さんに頼むか……?
いや、わざわざここに来いとも言えないし、ジンの浮遊島までコレルを連れて行くわけにもいかない。
……なお、この時、ソウヤは自身に、石化を解除できる力があることを失念していた。口頭で説明されただけで、実際に自分が受け継いだアースドラゴンの能力について、実感がないというのもある。一度でもそういった石化解除を自身でやっていれば、忘れなかっただろうが。
――この島にある一部の薬草にも、石化解除の効果があったっけ……。
しかし残念ながら、ソウヤには石化回復薬の知識はない。そうなると。
――誰にも迷惑をかけないとなると、時空回廊か……?
かつてのファイアードラゴン・テリトリー。そこにある光り差す台座の上に、乗ってもらえば、石化前まで時間を戻すことができる。今なら、戻るまで一時間もかからないだろう。火山島は遠いが、空を飛んでいけば、それほど時間はかからない。移動分の時間が加算されるだろうが、それでも数時間だ。
――さて、問題はこいつをどう時空回廊まで連れて行くかだ。
言葉を発するのは正体バレの恐れがあるとなれば、無言で導いてやるしかない。
――おとーたん?
ソウヤが黙しているので、フラムがぺしぺしと背中を叩いてきた。とりあえず念話で、やめなさい、と言っておく。
ソウヤドラゴンは、いまだ話し続けているコレルに対して、屈んで両手を出した。手の平を上に向け、すくうような仕草に、コレルは首を傾げる。
「まさか……乗れ、と言っているのか?」
ソウヤドラゴンは頷く。コレルは破顔した。
「お前、オレの言っているのがわかるのか!」
こっちが返事しないが、反応されたのが嬉しかったのか、コレルは声を弾ませる。
――でもあれだろ。お前、あわよくば従魔契約できそうとか思ってるんだろ?
まったくその気はないソウヤである。とりあえず石化回復のためだ。勘違いしないでもらいたい。
「ああ、ちょっと待ってくれ」
難儀そうに近づいたコレルだったが、不意に止まった。
「仲間が石化されてしまったんだ。ここに置いておくと、どうなるかわからないから、運んでくれるなら、彼もお願いしたいんだが――」
仲間――ソウヤドラゴンは、視線で辿れば、そこには石化したリザードマン、フラッドの姿があった。
――フラッド! なんてこった……!
石化にやられた仲間がいた。しかし困った。
――オレ、フラッドを無事に掴める自信がない……。
ドラゴンのパワーで砕いてしまいそうだ。ちょっと触れた程度で、壊れてしまいそうで、ソウヤは身震いする。今のソウヤにとって、石は硬くなく、触れただけで容易く砕けてしまいそうな脆い物体に過ぎない。
ソウヤドラゴンは、両手を石化したフラッドの前に差し出し、コレルに視線だけで訴える。それを見比べていたコレルは眉をひそめた。
「もしかして、手の上に乗せろ、と?」
――そう。
コクリと頷く。仲間を砕いてしまわないよう、半石化状態のコレルにも大変だろうが、とりあえずフラッドを乗せてもらう。
「……オレにはお前がどうしたいのかよくわからない」
コレルは首を振りながら、石化フラッドのもとまで行く。
「喋ってくれれば、もっと分かり合えると思うが――」
――んなことはいいから、早くやれ。
ソウヤドラゴンは睨むように、コレルに作業を促した。正直言えば、もう正体を明かしてしまったほうが早い気がしてきた。
そんな明かすか明かさぬかで、珍しく迷いに迷うソウヤである。それで悶々としていたら、コレルはようやくフラッドの体を倒してソウヤドラゴンの手の上に乗せた。
コレルも手の上に乗せると、ソウヤドラゴンは翼を羽ばたかせて、大地竜の島の空へと飛び上がった。
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