後日談39話、異種族偏見


 リザードマンは、一般的に屈強な体をしている。


 体の大きさは大体、成人男性より一回り大きいが、やや前傾姿勢のため、普段の身長は人とさほど変わらないように見える。


 だが共通しているのは、この辺りまでで、リザードマンという種族は意外にも種類が多い。


 全身を覆う鱗も、緑色、紫色、赤色、黒色、灰色、黄土色、水色、青色、白色など、生息する場所によって異なる。また、角がある種族もあったりする。


 見た目の不気味さもあって、人間を含む他種族と衝突することもしばしばあった。しかし、全てが敵対的ということもなく、一部、人間と交流しているリザードマン種も存在した。

 フラッドの種族もまた、人間とは友好的であった。


「某の部族は、古くから地元の人間たちと交流していたのでござる。テリトリーを侵犯しない限りは、案外大人しいのが多いのが我らリザードマン種族というもの」


 しかし、十数年前の魔王との戦いの最中、新たに派遣された貴族が、リザードマンは魔王の手先と叫び、侵略行為を開始した。


「まあ、古くから、我らを見た目で魔族と判断する者はいたでござる。あの頃は人類と魔族が本格衝突している頃で、事実、魔王軍にはリザードマン系種族も少なからず参加しておったでござる」


 フラッドの言葉に、トド・アンダールは頷く。


「魔王軍といえば、オーク、ゴブリンときて、魔族たち。リザードマンもその中にいる印象が強いと思います」

「まさに。魔王軍の代表種族の一つと見られていたせいで、無関係な我々も、敵と決めつけられて、小競り合いになったのでござるよ」


 その新たにやってきた貴族の領主は、人間以外の種族を見下していて、差別と偏見で生きていた。地元住民の声など聞かず、それらも魔族にたぶらされたのだと言って逮捕した。


「本格衝突寸前、というところでやってきたのが、勇者ソウヤとそのパーティーだったでござる」


 魔王討伐の旅の、たまたま通りかかったという話だったが、その貴族領主は、勇者パーティーにも地元リザードマンの討伐を依頼した。

 トドはメモをとる手を止める。


「つまり、勇者様と戦うことに?」

「そうなるところではあった、という話でござるな」


 フラッドは腕を組んだ。


「ただ、某たちの前に現れた時、すでにソウヤ殿は戦うつもりはなかったでござる。話し合おう、と――初対面の某たちにも公平に向き合ったのでござるよ」

「では、衝突は回避されたわけですね? でも、どうして……。その貴族の依頼は、討伐だったのでは……?」

「後で聞いたところによると、ソウヤ殿は我らと会う前に情報収集をして、地元の人間たちから話を聞いていたのでござる」


 リザードマンと交流のある地元の人間たちは、貴族の討伐命令に抗議していたくらいだから、当然、それもソウヤたちの知るところになった。


「だから貴族の話と辻褄が合わないぞ、むしろ、領主のほうが偏見で動いていると、ソウヤ殿は思ったのでござるよ。だから実際に会って確かめる必要がある、と」


 リザードマンに偏見のないソウヤと、リザードマンの会談は友好的に進み、その件に関して、貴族に抗議して、討伐をやめさせる方向で話はまとまった。

 ただでさえ、魔王軍という脅威が迫っている中、余計なところで争いを増やしている場合ではないのだ。


「だが、人間の中には、某たちを偏見の目で見ている者も多いのも事実でござる。時々、余所からやってきた冒険者や傭兵が、リザードマンのテリトリーで問題を起こして命を落とす事例もあったでござるからな。族長がそう言ったら、ソウヤ殿はこう言ったでござるよ」

『もしよろしければ、リザードマンの強者を、勇者パーティーに預けて、魔王討伐に参加しませんか?』


 勇者に協力する仲間の中に、リザードマンがいれば、この種族の中にも人間の味方がいるとアピールできる、とソウヤは告げた。


 人間と戦い、魔族認定をくらうリザードマンがいるなら、人間と共に戦うリザードマンがいてもいいだろう。

 リザードマンの地位向上に勇者パーティーを利用するべきだ、とソウヤは提案し、族長はその話に乗った。

 そして代表に選ばれたのが、フラッドだった。


「――というわけで、某は一族の代表として、ソウヤ殿たちと勇者パーティーの一員となったのでござるよ」


 行く先々で初めはやはり、リザードマンの姿に驚き、警戒していた人間たちだったが、勇者パーティーの面々がフラッドと親しくしているのを見て、さらにその剛力で魔王軍を倒していると聞いたら、態度は軟化していった。

 勇者パーティーのリザードマンと知名度も上がっていった。


「とはいえ、もう十数年も前でござるからな。今では知る人ぞ知る程度でござろうが」

「……それで、集落のほうは大丈夫だったのですか?」


 リザードマンを差別して討伐しようとしていた貴族は、とトドは質問した。フラッドはパカッと口を開いた。


「ソウヤ殿と仲間たちが口添えしてくれたから、とりあえず解決したでござるよ。……ただ」

「ただ……?」

「何故か、その貴族領主、我らが旅立つ直前に急死したでござるが」

「急死……?」


 驚くトド。フラッドは続けた。


「何があったかよくは知らんでござるが、次にきた代官は、地元の話をよく聞いて、我ら一族との交流も続けてくれたと聞いたでござる」


 面倒を起こした貴族はいなくなり、リザードマン集落に平和が訪れた。めでたし、めでたし。


「某にとって、ソウヤ殿は、一族を守ってくれた恩人でござる。その恩人のためならば、この命惜しくはない、と戦ったでござるが、残念ながら某は途中脱落でござったが。まあ、勇者パーティーの仲間たちは、大変心地よく、楽しい日々でござった」


 そうフラッドは回想を締めくくった。



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