後日談36話、カマルから見た勇者パーティー


 エンネア王国は、召喚した勇者のパーティーにカマルを送り込んだ。


 理由は、勇者と魔族の戦いと、その旅についての報告である。一度旅に出して、その後の状況は知りません、というのは無責任であり、人類一丸となって魔族に対抗する中、国の力で支援できることもある。


 必要であれば、王国が交渉し、勇者の旅をサポートするよう各国に要請することも考えられた。

 その一方で、勇者と仲間たちの監視も、カマルに課せられた。


 異世界から召喚した勇者であるソウヤの素行。魔王討伐の旅を途中で投げ出したりしないか。また他国が勇者に対する過剰な勧誘をしてこないか。旅する彼らに有害な行為をそそのかしたりしないか、等々。


 勇者はともかく、その仲間で害になる者がいれば密かに暗殺するよう、カマルは言われていた。魔族から人類を救うためならば、勇者パーティーに選ばれた者といえど、排除もあり得たのだ。


 さて、そんなソウヤと勇者パーティーは、どうだったか。魔王討伐のため一致団結しているかと言われると、微妙なところでズレ――というか意見の相違はあった。


 端的に言えば、『誰も見捨てない』か、『使命のためならば、目の前の少数を見捨てることも厭わない』の二つの意見と、対立だ。

 カマルにとって、勇者ソウヤという人物を評するとこうなる。


『どうしようもないほどのお人好し』


 困っている人には、親身になって問題を解決しようとする。魔王討伐という崇高な目的からすれば、『彼でなくてもよい』事柄であろうとも、その場でスルーすることはなかった。

 典型的な『誰も見捨てない』という考え方だ。


 勇者パーティー内でも、彼のその、どのような相手でも見捨てない行為について苦言を言う者はいた。カマルも滅多に口を挟まなかったとはいえ、どちらかと言えば使命を優先すべきと考える性質だ。


 しかし、同時にソウヤが『勇者』として召喚された理由がわかったような気もした。

 ああいう全員救おうという姿勢は、物語の英雄そのもので、彼に会うまでは、本当にそんな高潔な勇者がいるなどとは思っていなかった。


 伝説や物語など、理想を詰め込んだ作り話程度だと思っていたカマルからすれば、そんな勇者の行動を自然と取れるソウヤを見て、案外作り話ではなかったのかもしれないと思うきっかけにもなった。


 そんなソウヤの行動は、パーティー内で話題になることはあれど、深刻な問題にはならなかった。

 何故ならば、勇者に負けず劣らずお人好しの聖騎士カーシュがいたからだ。


 そう、もう一人、生真面目に人のために戦う聖騎士がパーティーにいたのだ。そういう人助けに迷いのない人物がいたことが、ソウヤの行動に対する容認派を増やした。


 反対派は、『勇者様以外は、全員が使命を優先させるべきだと思っている!』という言葉を使うことができず、そのソウヤの行動を苦々しく思っても、従うしかなかった。


 カマルにとって意外だったのは、グレースランドの聖女であるレーラよりも、勇者ソウヤの意向がパーティーの行動を左右したことだった。


 聖女といえば、人々を救う存在であり、魔王討伐の旅においても、魔王を討つことより、人々の救済を優先するだろうことが、当初から予想できた。


 むしろ、使命優先派からすれば、彼女こそヘイトが集まる可能性が高かった。治癒しか能がない、体力ない、力もないか弱いお姫様――であるレーラは、それでなくても旅の進行を遅らせる存在となると予想されたからだ。


 しかし蓋を開けてみれば、ソウヤのほうが人助けに積極的だったから、むしろ聖女に対しての波風が立たなかった。

 結果的に、勇者パーティーは、伝説やお伽話で語られるような、実に模範的なものとなった。


 仲間たちのソウヤに対するスタンスは、カーシュは彼と気が合うからか、とても親しくほぼ賛成。聖女レーラも、ソウヤの行動に引っ張られているところはあったが、好意的賛成が多かった。


 魔術師クレア、ドワーフのロッシュヴァーグ、リザードマンのフラッドも、人命救助には協力的。


 使命優先、目先の人命優先、どちらにも転ぶ可能性のあったランドールや、アンドルフは中立からの賛成寄り。


 魔獣使いのコレルは、『正直興味ない』と中立の態度を崩さなかったが、非協力ということもなく、人助けも手伝っていた。


 メリンダは……完全に、その場の空気に流されていた。


 この騎士だけは、勇者パーティーに加わった面々の中で、確固たる意思もなく、ただ言われたからここにいるという変わり者だった。

 だから彼女は、圧倒的に中立というより、その場の強い方の意見に流れる。コレルは『興味ない』と自分を主張したが、メリンダにはそれがない。


 勇者パーティーでは、何人かの戦死者や脱落者がいた。そこで抜けた者が、結構な割合で、使命優先派だったのは果たして偶然か。


 使命優先派寄りだった者で生存したのは、エルフのダルか。もっとも、彼の場合、ソウヤを諭そうとして、しかし彼も確固たる信念があると分かればそれ以上言わず、協力していたから、完全に反対派というわけではなかった。


 そんな当初あった考え方の違いに対するすれ違いも、時と共に『全員助ける』派が占める結果となり、対立もなくなった。

 エンネア王国が危惧した、勇者が使命を放り出したり逃亡するということもなく、ソウヤは最後まで使命に忠実だった。


 が、まったく安心できるかと言えば、そうでもなく、パーティー外で他国の者がいらぬ手出しを仕掛けてくることがあって、カマルが裏で処理することが少なからず発生した。


 そんなある日、勇者ソウヤを引き込もうと画策する、とある国のスパイを、こっそり処理していたところを、ソウヤ本人に目撃された。


 カマルはもちろん、自分の任務について周囲に明かすことはしていない。エンネア王国の諜報員であることは、パーティー内では誰も知らない。

 だからソウヤの目には、カマルは、少し前にソウヤに近づいた町娘を殺害したように見えたに違いなかった。


「カマル……お前」


 まずい場面を見られた。勇者はカマルが、諜報員であることを知らないのだ。


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不定期更新です。


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