後日談30話、友を探して、無限の彼方へ


 勇者遺産が消えた。


 墜落したのは間違いない。ライヤーは考えた。

 ソウヤと魔王の最終決戦の場となったクレーター、その側に大破、横倒しになっているのを目撃している。


 ただ、その時はソウヤやミストの安否を確認を最優先にしていて、船のことは後回しにしていた。

 結果、しばらくプラタナム号のことを忘れていた。それだけ、ソウヤたちの死がショックだったということでもあった。


 プラタナム号が墜落していた現場を確認したライヤーは奇妙なことに気づいた。

 大破していたとはいえ、巨大な飛空艇だ。運び出すには周囲の地形――森の木が邪魔になるので伐採する必要がある。

 地上から運ぶのは、大きさからみても、解体しないと無理。だが現場には人が入って作業をした形跡はなかった。


 では、空から別の飛空艇が牽引用ワイヤーを引っかけて持ち上げるという手が考えられるが、やはり周囲の木々を見た限り、作業のために伸びて邪魔になりそうな枝を切った様子も、引きずって位置をずらした跡も見られなかった。


「これはどういうことだ?」


 ライヤーは首を傾げるのである。


「まさか、プラタナムが勝手に消えたのか……?」


 自力で飛んだ――はないだろう。もし自力復旧ができたなら、墜落した場に横たわっていることもなく、ライヤーたち銀の翼商会の船と合流するなり、それが無理なら通信をしてきたはずだ。


 だがそれはなかった。

 ライヤーは考えた。考えに考えた。親友の飛空艇が消えた謎。どこかの国や組織が持ち出した? だが現場を見る限り、それは考えにくい。


 ジイさん――ジン・クレイマンの部下たちならあるいは、とも思ったが、浮遊島もリッチー島にいた者たちも、消えてしまっていた。まるで最初から存在しなかったように。


 そんなことが可能なのか? あのクレイマン王ならばできるかもしれない、と思う反面、そのジンも、異世界の門で別世界へ飛ばされて行方不明である。

 そこでひとつの結論に至った。


「実は、ソウヤは生きていて、プラタナム号をアイテムボックスに回収して持ち出し、修理しているのではないか?」


 そう考えると、いくつか腑に落ちた。ソウヤやミスト、クラウドドラゴンの姿がまったく確認されないわけ。墜落現場からプラタナム号が消えたわけも。


 ソウヤのアイテムボックスは、飛空艇だって収納できてしまう神様の特別製。プラタナム号を回収することも可能だ。かつて、ゴールデン・ウィング二世号を修理したのも、ソウヤのアイテムボックスの中での出来事だ。


 ソウヤは生きているに違いない。ライヤーは笑った。ショックを受けて、しょげている場合ではない。

 もちろん、この推理に証拠はない。かなり無茶のある説だ。ソウヤが生きているとして、何故姿を消す必要があるのか?


 ――10年前も、死んだことにして眠っていたっていうし、今回も何か死んだふりをする理由があったんだろう。……知らんけど。


 水臭いやつだ。飛空艇修理にはおれの協力が必要なはず――勇者遺産を弄るスキルはないが、相棒のフィーアは古代文明時代産で、プラタナムの装置も理解していた。つまり、協力できるはずだ。


「しょうがねぇ! なんで姿を消したか知らねえが、手伝ってやっか!」


 ライヤーの中でスイッチが入った。悲しんだり落ち込んだりしていた気分は消え、今は消えた親友を探さねばという気持ちに脳が支配された。

 そんなわけで、銀の翼商会はセイジを中心にまとまりつつあったが、ライヤーは、ひとり密命を帯びた気分で、セイジに切り出した。


「いつまでもクヨクヨしていられねえ。世界を自由に巡び回るって夢はガキの頃からの夢だったし、ソウヤの旦那の夢だった。旦那の分も世界を旅したい」


 その時のセイジは、何かいいたげな顔をした。古参のメンバーのうちに入るライヤーが商会を抜けられたら困る――と思ったかそんなこともなく、セイジは了承した。

 セイジも、ライヤーが商会に参加した経緯を知っているから、個を尊重したのだろう。

 ただ、商会縮小ということで、飛空艇を1隻だけ残して処分するつもりだったという。困ったな、という顔をするセイジである。


「セイジ。飛空艇を処分するんだろう? ゴールデン・ウィング二世号、おれが買うわ」


 それが夢である以上、飛空艇なしなどあり得ない話だった。特にソウヤが船長の座と共に託してくれたゴールデン・ウィング二世号には愛着があった。

 これまでの冒険で稼いだ報酬、分配財宝なら、飛空艇1隻を買うなど余裕だった。かくて商会に損をさせずに、ゴールデン・ウィング二世号を購入したライヤーは、銀の翼商会から離職した。


 セイジや、他の者には、ソウヤ生存説については言わなかった。まだ彼の死を受け入れていないのか、といらぬ説得や説教を受けたくはなかったし、そもそもソウヤが仲間たちにも秘密で雲隠れしたのだから、そこは敢えて乗ってやるべきではないかと思ったからだった。


「ま、何かあったら寄るし、逆に何かあったら知らせてくれよ。飛んでくるからさ! じゃ、達者でな、セイジ!」


 ライヤーは、相棒のフィーアと共に、銀の翼商会を離れた。

 なおフィーアには話さなかったものの、ついてきて欲しいといったら、「わかりました」とだけ答えて同行した。そこは主に忠実な機械人形であった。



  ・  ・  ・



 しかし、ライヤーも手掛かりがまったくない状態からのスタートだった。

 プラタナム号を修理するとして、それが可能な場所を回っていくが、そもそも、有名人であるソウヤがそんな場所に現れれば騒ぎにならないか?


「あるいは、消えた浮遊島やクレイマンの機械人形たちが知っているかも?」


 フィーアがそう指摘した。

 確かに、誰にも知られない空の上なら、見つからずに船を修理できるし、姿を隠すにちょうどいい。


「まさか、再びクレイマンの浮遊島を探すことになるとはな!」

「それが夢だったのではないですか、ライヤー?」


 フィーアのそれが、珍しくからかうように聞こえた。

 そうとも、飛空艇を手に入れ、それを操り、この空のどこかにあるクレイマンの財宝を見つける!――それが、幼き頃からのライヤーの夢だった。


「よっしゃ探すぞ、宝島!」


 ゴールデン・ウィング二世号は飛び上がる。消えた友を探して――


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