後日談31話、銀の翼商会は衰退したのか?


 ソウヤが抜け、彼の作った銀の翼商会は大幅な縮小を余儀なくされた。古参メンバーや勇者時代の仲間たちが抜けて、人員の面でも縮小となった。


 最古参であるセイジが二代目商会長となり、残ったメンバーの大半は、そのセイジがティーガーマスケとしてエンネア王国の魔法大会で参加した後に加わった者たちだった。

 いわゆる、勇者ソウヤと同じくらいティーガーと、彼が公開告白をやらかした相手、魔法大会で優勝を争ったソフィアに憧れて加入した者たちだったということだ。

 その二人が商会を続けるとなれば、ついていく者も多かった。


 物書きであるトド・アンダールは、セイジにインタビューをする。


「それで、規模を縮小した商会ですが、如何でした?」


 言うまでもなく、銀の翼商会は、勇者ソウヤの商会だ。彼の死が世に大々的に知らされた以上、銀の翼商会も消滅し、事業が続いていると思っている人も少なかっただろう。


「原点に帰ることにしたんですよね」


 セイジは答える。


「始めは、アイテムボックスを使った行商だった。運び屋もできるなー、と思いつつ、エンネア王国に戻り、最初に開拓した行商ルートをなぞっていくことにしたんです」


 ソウヤとの冒険で、分配された財宝があり、しばらくは活動資金には困らなかった。ただ商売をやるからには、きちんと収益を上げるようにしたい。


「最初は大変だったんじゃないですか?」


 看板を失った銀の翼商会。活動しているかも怪しい商会に、以前のように注文が殺到していた頃の忙しさはなかったのではないか。特に各国が求めた飛空艇販売事業が続けられなくなり、主力商品も欠いたから、開店休業に近かったのではないか。

 トドの指摘に、セイジははにかんだ。


「ところが、不思議なことに忙しかったんですよ」

「そうなんですか?」


 これには些か驚いたトドである。


「確かに、飛空艇販売は、リッチー島が消えたことで購入できなくなりました。でも、魔王軍が壊滅し、大量の飛空艇を用意する必要がなくなったんです。……それよりも、自分たちで飛空艇を作ろうという製造ブームが到来した」


 ルガドークをはじめ、ドワーフたちが自分たちで飛空艇を積極的に建造を始めた。大型軍船ではなく、民間用、あるいは自分たちの冒険、開拓用に。


「簡易的な飛空艇の設計は、ジンさんが引いた設計図を元にドワーフたちが自分たちの設計を加えて、次々に新しいものを作ろうとしていた。そして飛空艇を作るためには、材料が必要になる。……大量の木材が」


 セイジは苦笑した。


「当然、建材の需要が凄まじいことになるわけですが……僕ら、ダンジョン産の木材調達をやっておりまして。それで木材の市場価格の高騰を抑えつつ、材木需要に答えたわけです」


 セイジは、トドにダンジョンの場所は企業秘密だと言わなかった。

 しかし、ダンジョンから木を手に入れるというアイデアは、トドは驚愕した。


 モンスターがいて、たとえダンジョンに木があろうとも伐採は命懸けとなる。腕に覚えのある集団が必要で、かつ切った木を運ぶ手段も必要となる。

 だがソウヤほどではないにしろ、容量の大きいアイテムボックスを有し、冒険者でもある戦闘集団である銀の翼商会ならば、ダンジョンの魔物は敵ではない。

 むしろ――


「ダンジョンの魔獣などは、肉や革、油になりますから。行商のほうでは、こっちのほうに需要がありますから、まあ一石二鳥というやつです」


 冒険者業で、商品を調達する――その考えは、初代商会長であるソウヤの考え、その原点だった。セイジもその銀の翼商会の考えをきちんと引き継いでいた。


「人員は少なくなって、規模は縮小したのは間違いないです。でも僕らは、ダンジョンでの調達方法を皆、知っていましたから。皆にとっては、やること自体は実はあまり変わってなかったんですよね」


 いくつかやらなくなったり、できなくなったりはしたが、残ったメンバーを養い、儲けさせるだけの仕事はあった。


「ダンジョン調達といえば、銀の救護団さんからも注文が入ったんですよね」


 聖女レーラが立ち上げた救済活動団体。癒やしの力で、被災した人々を助ける彼女たちだが――


「初期の頃の、さあ一からやっていこう、という時に、かなりお世話になったんですよ。レーラさんの力で怪我は治せても、それだけじゃ足りないわけで」


 被災地となると、食料、着るもの、住むところ、そして物資も必要になる。


「食料として魔獣肉を運び、野菜が豊富な場所へ出向いて調達。あとは衛生面の向上のための住居再建用の建材輸送など。正直、飛空艇を全部手放さなくてよかったというところですね。そんなこんなであっちこっち行っていれば、輸送業のほうでも現地からお声がかかってくるわけです。飛空艇を持っている、というだけでアドバンテージですから」


 話を聞いたトドは、首を傾げる。

 創設メンバーであり、看板である勇者ソウヤがいなくなって、規模を縮小したという銀の翼商会だが、全然忙しいではないか……!


 財宝などと関わることもなり、飛空艇販売など大金の動く事業から撤退した。ソウヤがいた頃に比べれば、確かに収益は下がったかもしれない。


 だがそれは、その絶頂期があまりに常識外れなだけで、一つの商会として見た場合、現在も充分過ぎるほど稼いでいる超優良商会である。

 世間一般の、業界のことを知らない側からすれば、銀の翼商会は落ち目、あるいは小さな商会に後退したように見えた。


 だが、実は地味に業界上位に存在していたのだ。トド・アンダールは思った。確かに銀の翼商会はソウヤが立ち上げた。

 だが今の銀の翼商会は、地味な社長――セイジそのものと言える、地味さの中にある堅実さで存続どころか繁盛しているのだ。

 ただ、セイジは、いつもの控えめな笑みを浮かべるのである。


「僕は、ソウヤさんやジンさんが用意してくれた道を引き継いでいるだけで、本当に凄かったのはあの人たちなんですよ。先を見る目があって、僕らはその後を辿らせてもらっているだけなんですから」


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