後日談29話、ゴールデン・ウィング号船長 ――ライヤー


 その日、トド・アンダールは、銀の翼商会の保有飛空艇『ゴルド・フリューゲル号』が、1隻の飛空艇と合流するのを見た。


 セイジ社長に聞いてみれば。


「あれが、銀の翼商会の初代飛空艇『ゴールデン・ウィング二世号』ですよ」


 勇者ソウヤが、エンネア王国の霧の谷に墜落していたそれを回収し、修理を施した飛空艇だ。


「あれが……伝説の――」


 物書きとして、トドは大いに興味を掻き立てられた。勇者ソウヤの銀の翼商会が語られる時、ゴールデン・ウィング二世号の話はよく聞こえたものだ。

 彼らと関係があった者たちの大半は、銀の翼商会の飛空艇と言えば、ゴールデン・ウィング二世号という認識だった。


「そう、だから、今も時々間違えられるんですよ」


 セイジは苦笑する。


 今の銀の翼商会が保有しているのは、ゴルド・フリューゲル号。レブリーク文明の飛空艇で、船幅があるものの、ゴールデン・ウィング二世号とよく似た外観をしている。だから間違えられるのだという。


「ゴールデン・ウィング二世号って名前は、やっぱり初代勇者パーティーの飛空艇にちなんでですか?」

「そうらしいですね。黄金の翼――勇者時代はそう名乗っていたそうですし」


 セイジは目を細める。


「まあ、違う船であるのですが、初代のゴールデン・ウィング号の飛行石を移植して飛んでいるので、まったく関係がないわけでもないですよ」


 聞けば、ソウヤが飛空艇を回収した時、飛行石がなくて飛べない状態だったらしい。そこで、初代が墜落した魔王の島まで行って飛空艇を拾ってきたという。……それだけで一つ冒険譚が書けそうだ、トドは思った。


「そういえば、なんでゴールデン・ウィング二世号を手放したんです? 言ってみれば、銀の翼商会の顔だった船ですよね――」


 そう言ったところで、トドは思い出した。


「あ、すいません。確か船長さんが買ったんでしたよね」


 以前、少し話したが、ライヤーという名の古代文明研究家にして冒険者、ゴールデン・ウィング二世号の船長を任されていた男が、どうしても欲しいと言って自腹購入したのだった。


「それで、そのライヤー船長は、銀の翼商会を離れて旅に出た、と……」



  ・  ・  ・



 ライヤーは、ソウヤの死を受け入れるのに時間がかかった。


 当時、銀の翼商会をまとめ始めたセイジや、聖女としてできることを模索して旅立つ決意をしたレーラよりも、立ち直りは遅かった。


 親友だと思っていた。自由を愛し、空を愛して、冒険を好む。ソウヤほどお人好しになれないが、共通点も少なくないとライヤーは思っていた。

 少なくとも理解者だったと思う。


 大人になって、人付き合いというのは一筋縄ではいかないことを痛感した。自分のやりたいことのためには、苦労も必要だとわかっていたはいたが、どうにも上手くいかなかった。


 自分なりには努力したつもりだったが、周囲がそう見てくれるかは別の話だ。周りからは、事あるごとに『信用』がどうだのお小言のように言われることも多くなり、うんざりしていた。初対面で言われた日には、そいつのことは信用しない、と決めていたくらいだ。


 そんな苦労の中、ライヤーは抱えた借金に首が回らなくなった。相棒であるフィーアを取られてしまうという瀬戸際だったどころを助けてくれたのが、ソウヤだった。

 借金をポンと肩代わりし、ライヤーを悩ませていた問題を解決すると、夢だった飛空艇の船長に指名してくれた。


 これまで散々、胡散臭い目で見られたり、信用がどうのだのと言われてきたが、ソウヤは、それらと違って、あっさりとライヤーを信用してくれた。自己申告の情報しか知らないはずの彼は、深く迷う素振りもなく、大事な船を専門家であるライヤーに預けた。……そう、彼は専門家であると認めてくれたのだ。


 銀の翼商会が気にいるのも時間の問題だった。そんなソウヤがボスを務める商会だ。ミストやセイジ、ソフィアにジンといい奴らばかりだった。ガルについてはよくわからなかったが、悪い奴ではないと思った。


 銀の翼商会は、様々な革新的なことに挑戦していた。雰囲気はもちろん、次に何をやるのか、日々の生活さえ楽しみの連続だった。飛空艇が直ってから、様々な場所へ行き、仕事をし、冒険をした。


 充実していた。普通に過ごしていたのではお目にかかれないことの連続だった。ドラゴンと仲良くなったり、異世界の海賊と出会ったり、伝説の浮遊島に足を踏み入れたり、魔族との戦いにも参加することになったり。


 夢と冒険がつまった日々。それがいつまでも続くことをライヤーは望んだ。


 だからこそ、ボスであり親友のソウヤが魔王と相打ちになったと聞いた時のショックは、家族を失った時同様に、ライヤーを打ちのめしたのた。


 ただ、人はいつか立ち直るものだ。ライヤーの場合、酒に溺れ、親友との日々を思い出し、感傷に浸っていたが、ふと、とあることに気づいた。


「プラタナム号はどうなった?」


 勇者遺産。大昔の勇者がその足として使った飛空艇であり、グレースランド王国で発掘されたものだ。魔王ドゥラークとの戦いの際、ソウヤと共に飛び立ち、墜落したようだったが……。


 親友の相棒として最後の戦いに赴いた勇者の船。飛空艇愛好家であり、全て終わったら世界を飛び回るのもいいな、と言っていたソウヤを思い出し、ライヤーは立ち上がった。

 友への手向けだ。プラタナム号も修理、再現しよう、と。


 それで、ライヤーは銀の翼商会を出て――やめるとかではなく、ただの外出だ。プラタナム号を探しに行ったライヤーだったが……。


 墜落した船の姿はどこにもなかったのである。


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