後日談20:イーデンの海と沈没船と親睦会?3
気づけば、銀の翼商会の面々の多くが、沈没船ツアーに参加した。
ゴールデンウィング二世号のメンテで出遅れたライヤーも沈没船ツアーと水吸飴、そして水着の話を聞いて、参加を決めた。
「お前、こういう話に真っ先にノってきそうなのに、今回遅かったな」
「いや、それは――その」
「ライヤーは、金づちですから」
機械人形であり、相棒であるフィーアが淡々と言った。
「金づち? 泳げないのか?」
「悪いか? この時勢、泳げない方が普通だろうが」
ムッとするライヤー。ソウヤは眉をひそめる。
「お前、この前、爺さんの潜水艇乗りに志願してただろう? そんなんだから、てっきり泳げるものかと」
「あれは乗り物だからな。泳ぐ泳げないは関係ねぇよ」
「……それもそうだ」
ソウヤは思い直した。ライヤーとフィーアが貸し水着屋へ入っていく。ソウヤはすでに、海パンに着替えて、仲間たちを待っている。
正確には、ミストや影竜たちドラゴン組に誘われたので同行するのだ。予想はつくが、フォルスとヴィテスが水の中に興味津々だった。
「ソウヤさん」
「よう、セイジ。お前も待ち組か?」
「はい」
ソフィアたちが貸し水着屋に入って、時間がかかっているという。セイジは水泳選手が着るような体を覆うタイプを着ていた。
「……ソウヤさん、筋肉凄いですね」
「ん? そうか?」
「腹筋とか胸板とか」
「そりゃ、鍛えているからな」
豪腕勇者は伊達ではない。一方でセイジはどうなのかと思ったが、水着のせいで、よくわからない。ソウヤがじっと見れば、セイジは顔を背けた。ひょっとすると、人に自分の筋肉を見せたくなくてそれを選んだのかもしれない。
ソウヤは視線を転じる。オダシューやガル、諜報畑のカマルでさえ、脱いだら鍛えられた肉体美がお目見えである。セイジも鍛えているが、元来の細さとあいまって、周りに圧倒されがちだ。
――比較されたくないんだろうなぁ。
微妙なお年頃である。
「しかし、遅いなぁ……」
男性陣がどんどん出てきている一方、女性陣が遅れている。カリュプス組のトゥリパが、ワンピースタイプの水着姿で現れたのが最初だった。こちらはニコニコお姉さん感が強い。
次に出てきたのは魔法格闘士のティスだ。紺色の――
……スクール水着か……?
デザイン的にそうとしか思えない水着で、格闘少女は、ソウヤ――ではなく、セイジの前にやってきた。
「どうだ? 似合うか?」
「う、うん……似合っている、と思う」
変に意識してしまったのか、テレてしまうセイジに、ティスは「そうか!」とさほど気にしていないように仁王立ちである。年相応というのか、体力と格闘能力に優れる彼女は、引き締まり過ぎて細く見える。
「お待たせー!」
「ソフィア姉様!」
ティスが振り返ると、ソフィアがやってきた。水色のハイネックタイプのビキニで、胸もとをきっちりガードしている。着痩せするタイプなのか、意外とある。セイジが真っ赤になっていて、イリクが別の意味で赤くなっていた。
「どう、わたしの水着?」
「似合ってます、強そうです!」
ティスがよくわからない褒め方をした。セイジがモジモジしているので、ソウヤは肩で小突いた。――しっかりしろ。プロポーズしたんだろが。
などと思っていたら、さらに女性陣が到着。
「ソ、ソウヤさん……どう、でしょうか? おかしく、ないですか?」
リアハがとても恥ずかしそうに聞いてきた。スポーティーな競泳水着だった。肌の露出を抑えつつ、しかしピッチリした体のラインが実に健全な美。騎士姫は鍛えられていらっしゃる。しかしソウヤは緊張してしまう。
「おかしくはないです」
「そ、そうですか」
何故か敬語だが、それには突っ込まれなかった。そしてすっと、リアハの後ろからレーラが現れた。
「なっ!?」
レーラが水着ぃーっ!?――聖女が水着に着替えたら……何故かスク水っぽいデザイン。あくまでぽいというだけだが、さすが聖女、こちらもビキニなど露出面積が大きいのは避けたようだった。
「……」
赤面しつつ、レーラがすっとリアハの陰に隠れた。――何も言わないのか!?
慎ましいというか、大人しいというか。
一方で――
「ソウヤー!」
まったく遠慮のかけらもなく、ミスト、影竜、クラウドドラゴンがやってきた。ドーン、とかバーンとか擬音が聞こえてきそうなものを携え、際どいビキニのその様は、周りの人々の視線を集めた。男たちだけでなく、女性陣まで注目している。
――うむ、こんな際どいものを用意した貸し水着屋にも、問題があるのではないだろうか。
「アクアドラゴンは?」
何か言われる前に話を振る。水のドラゴン様も一緒だったはずだが――
「水着が嫌だとほざいたから、周りに人がいないところでひとりで泳いできて、と言っておいた」
と、クラウドドラゴンが答えた。彼女たちの後ろから全身を覆うキッズ水着のフォルスとヴィテスが現れた。
「海の中、行こうよー!」
「おう、じゃあ、行くか。飴玉は持っているか?」
「もう口の中よ」
ミストは頬に、水吸飴があるのを指した。ソウヤも貸し水着屋で水着を借りる時に購入した飴を口に放り込んだ。これで2時間は海の中も平気だという。
「それじゃあ、行くか!」
いざ、沈没船ツアーへ!
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