後日談12話:リハビリの前に

※おまけより前の話になります。

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 ディアマンテ号は、旧ファイアードラゴンテリトリーである火山島を後にした。


「それで、爺さん。これからどうするんだ?」

「ひとまず私の浮遊島へ行こう」


 ソウヤの問いに、ジンはそう答えた。


「力の扱い方についてリハビリしないと、人間社会には戻れないからね」


 まずは、ドラゴンの血を御する術を身につけないといけない。ハーフドラゴンになったソウヤにとって、人間の世界のものは脆すぎる。


「まさか、また修行みたいなことをする羽目になるとはね」

「修行?」


 ミストが、そのワードに食いついた。


「ソウヤは何か修行なんてしたの?」

「勇者としてこの世界に召喚された時、ちょっとな」


 何せ。普通の日本人だったのだ。学生時代に、剣道をかじったとはいえ、あくまで学校の授業での話。本格的に魔物や魔人と戦う術など、まったく知らなかったから、魔王討伐の旅の前に、武器の扱い方など学んだ。


「こっちに来たばかりの時も、元の世界にいた頃と違って、凄いパワーが出るようになったから、その慣らしもあった」

「へえ、その力は生まれつきじゃなかったの?」

「まさか。こっちへ召喚された直後からだった」


 勇者の力が覚醒した、とか、当時説明を受けたが、来たばかりの頃は当然戸惑った。その体力も力も、別人になったようだった。


 ジンが首を傾げた。


「ちなみに、どういう修行だったんだ?」


 これからのリハビリに何か活かせるのでは、と期待する老魔術師。ソウヤは腕を組んだ。


「うーん。主に武器の扱い方と、戦い方だったな。力を入れなければ、日常生活を送るのに支障はなかったし」


 押さえる必要がなかった。力を入れる時など、ほとんど戦いの時が中心であり、物を持ち上げる時も調整が利いた。今のように、力を入れなくても力が入っているようなパワーを、周囲にまき散らすこともなかった。


「参考にならないか」


 これは意外に手こずるかもしれない、と老魔術師は腕を組んだ。


「とりあえず、私の島へ行けば、精密な検査ができるから、どこをどうすればいいか糸口になるだろう」



  ・  ・  ・



 かくて、ディアマンテ号は高空へ移動し、遮蔽装置に隠れていたクレイマンの浮遊島へと到着した。

 アクアドラゴンが口を開いた。


「ほほう、ここが浮遊島か」

「そう、ワタシのテリトリーでもある」


 クラウドドラゴンが自慢げに言った。そういえば、この島にテリトリーを置くのを、ジンと交渉し認められたから、この島は彼女の家でもある。


 ――アースドラゴンは初めてだろうが、アクアドラゴンはこの島のことを知らなかったっけ?


 一瞬、首を傾げたソウヤだが、ミストが肘で小突いた。


「一度機会があったけど、あの時、アクアドラゴンって来なかったんじゃなかったかしら?」


 リッチー島の周りの海を泳ぐだが潜るだか言っていたような……。なるほどそれは初だとソウヤは理解した。


 入港後、ジン・クレイマンに仕える機械人形たちの出迎えを受けて、ソウヤは早速施設で、身体検査をした。


 表向き遺跡のある島だが、その中枢は近未来感溢れる機械施設が多く、また別の世界にいるのでは、とソウヤを錯覚させた。


 そして身体検査の結果は――


「人間の基準で言えば異常。人間以上、ドラゴン以下。いや力の値はドラゴン並か、それ以上かも」


 魔術師ローブではなく白衣を着たジンは、どこかの科学者のようだった。


「おそらく健康体」

「おそらく?」

「君のような例は少ない」


 ジンは眼鏡をかけた。――魔術師に見えない。まるで本物のドクターだ。


「少ないってことは、皆無じゃないんだな?」

「まあ、過去にドラゴニュートという竜頭の亜人種族の記録があって、たぶんそれが一番近いんじゃないかな」

「……それって、少ない、じゃなくて『ない』じゃないか?」

「まあ、そうなんだが、自己申告によると、ドラゴンの血でこうなったと説明した自称、人間の例も1例あってね……」


 訂正、ないではない。ソウヤは頷いた。


「そういうことか」

「比較の問題で、何か解決するわけではないが。何もないよりはマシというところだな」


 ジンはモニターに向き直った。


「しばらくは、一日一回の検査を行う。毎日の記録をとることで変化があればわかる」

「それはリハビリの役に立つのか?」

「立つかもしれないし、立たないかもしれない」


 ジンはあっさり言った。


「ただ何が起きた時、比較検証できる」

「そっちの方は任せるよ、爺さん」


 ソウヤには専門的な知識がないので、データを出されてもさっぱりだが、わかる人には判断材料になるのなら、断る理由はなかった。


 何せソウヤも、この状態は初めてであり、未知の領域なのだ。ジン曰く、何が起きてもおかしくない、とのことだった。


「リハビリメニューを考える。……さて、力の制御か、どんなものがあるかな」


 ジン・クレイマンですら即答できない状態である。当然ソウヤがわかるはずもないのだが、一緒に考えてくれる専門家がいるのは心強いと思った。


「部屋は用意したから、今日からはそっちを使ってくれ」

「了解だ。……あー、爺さん。よろしく頼む」


 ソウヤが言うと、老魔術師は『引き受けた』と頷いた。



  ・  ・  ・



 ソウヤのリハビリについて、ジンはアースドラゴンと相談した。クラウドドラゴンは住み家に行き、アクアドラゴンもそこらを徘徊して話し相手にならなかったからだ。

 気づけば朝になっていたのだが――


「むっ?」

「おや」


 アースドラゴン、そしてジンもそれに気づいた。


「気づかれましたか?」

「妙な気配を感じた。これは……ソウヤか?」


 その時、施設に警報が響き渡り、異常事態を告げる。そして現場へと駆けつければ……ソウヤがドラゴンになっていた。


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次回、不定期更新。

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