おまけ2:新年と言えば、着物でしょう(後編)
クレイマン王の浮遊島には、ドラゴン界のトップ、神竜を祀った神社がある。
「どうして、神竜なんだ?」
ソウヤがジンに疑問をぶつければ、老魔術師は答えた。
「そういう契約なんだよ」
「契約?」
「私が王様時代に、ちょっとね……。神竜様にお供え物をする、という条件があって、まあ、そういうことだ」
苦笑するジンに、アースドラゴンは目を丸くする。
「神竜と契約を交わしたのか?」
「ええ、軽いものではありますが」
「どのようなものであったとしても、実際に神竜と会うとは……」
アースドラゴンが、ジンに敬意を払い出す。一時期、クラウドドラゴンも、ジンを神竜と同一視していた。
――この世界で、色々やらかしているなぁ、この人は。
ソウヤは苦笑を禁じ得ない。クレイマン王として人間世界でも伝説になっている。
「ただ長生きしただけですよ」
ジンは言うのである。
「それだけ生きていれば、色々なものに出会う」
それもそうではある。この魔術師は、不老不死だという。普通の人生だったら、到底出会えないものに出会っているのも、数千年を生きてきた故だろう。
「ソウヤー!」
ミストの声がした。
「見て見て! どうかしら?」
試着室でお着替えしたらしいミストがやってきた。――わぁお。
「綺麗だ……」
白と黒、そしてアクセントに金をあしらった振袖である。無数の花柄が白と黒で複雑に絡み合い、大輪を咲かせている。シックな、どこか芸術的な落ち着きがあった。
「似合ってる?」
「最高」
自然とその言葉が漏れた。ミストは照れてしまう。
「や、やあね、そんな真顔で言わないで」
袖で顔を隠すミストである。そこへアクアドラゴン、クラウドドラゴンが来た。
「袖がひらひらしておる……」
着慣れないのかアクアドラゴンは、ちょっと渋い顔。彼女が選んだのは、深い海を思わす青に波と金色で刺繍された竜をあしらった振袖である。
「いかにも海のドラゴンってデザインだな……」
「だろ?」
褒められたと解釈したのか、喜色満面になるアクアドラゴン。ソウヤはジンを見た。
「さも自然に着物があるけど、これ爺さんのところで作ったやつだよな?」
この世界にはないはずだ。
「ああもピッタリなやつが、よくあったよな」
「鶴は千年、亀は万年というからね。ドラゴンもまた長寿の縁起物かなーと、作らせてみたものの――」
老魔術師は和服姿で腕を組む。
「伝説の四大竜モチーフの振袖は、候補としてあったからね。この世界の古今東西、色々な伝説や伝承モチーフのものは多い」
――なるほど、そりゃ図ったようにピッタリなものがあっても、おかしくはないわけだ。
ソウヤは納得した。そして残るはクラウドドラゴン。
白を基調としながら、稲妻を思わす金、そして雲にも花にも見える模様がこれでもかと刺繍された、何とも鮮やかなものを選んだようだった。
「派手だね、どうも……」
だがそれでも、しっかり着こなしているのがクラウドドラゴン・クオリティーか。
「どう?」
「似合ってる。美人度爆上がり」
ソウヤとジンの意見は一致した。――信じられるか? この人たち、本当はドラゴンなんだぜ?
・ ・ ・
初詣の衣装が決まり、私服に着替え直した後、ソウヤたちは、ジンのお持てなし大晦日を受け入れた。
まったり過ごし、異世界の話をつまみに飲み食い。今年一年の厄落としに年越しそばを食べ、そして日が変わる。
「明けましておめでとう」
「今年もよろしくお願いします」
新年の挨拶に始まり――ドラゴンたちは奇妙な顔をしていたが、郷に入っては郷に従うという。昨日選んだ正月衣装に身に包んで、浮遊島にある神竜神社に初詣にお出かけである。
「……普通に神社だ」
一瞬、日本に帰ってきたような気になるソウヤである。まさに和風、この世界にはあり得ない建物が建っていた。
「変わったデザインね」
ミストはそうコメントした。一方でクラウドドラゴンは目を細める。
「でも、神聖な気配を感じる。緊張感」
「神殿というのも似たようなものだろうね」
ジンは祈りの仕草を取る。
「神のいる場所とはそういうものだ」
ソウヤもそれに倣い、生き残れたことに感謝し、新たな年の平和と、いまだ会えずにいる銀の翼商会の仲間たちの無事と幸福を祈った。
異世界での、新たな一年が始まる。
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新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
次回、不定期更新。
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