後日談10話:貧乏くじを引くのは新人?
火山島を探索したら、ドラゴンの卵を見つけた。
周りには親もいなければ他のドラゴンもいない。そんな環境で、子ドラゴンが生まれたらどうなるか、ソウヤはミストに聞いてみた。
「他にドラゴンがいなければ、食べられたりはしないけど、その生まれた子一人で生きていかなきゃいけないわね」
自分で獲物を探して食う。
「親ドラゴンがいない、他に教える存在がいないとなると……かなり野性的に育つでしょうね。ドラゴンとして知識もなく、そこらの獣と同レベルな感じに」
生き残れれば、だけれど――とミストは言うのだ。
「さっき他のドラゴンがいなければ、って言った?」
「親でもない他のドラゴンにとっては、同族だからって遠慮はしないもの。気の荒いドラゴンなら、子供と言えどテリトリー侵犯したら襲うし」
「おぅ……」
「まあ、ファイアードラゴン種族は、集団行動だから、案外そういうことはないかもしれないけど」
属性が違い、縁のない霧竜でも、わからないことはあるらしい。
「そうだよな。集団で生活していれば、テリトリーどうこうで、子ドラゴンを食ってしまうなんてことはさすがにないだろ……」
とはいえ――ソウヤは、腕を組んで卵を睨む。
「これって、放っておいたらそのうち生まれるよな?」
「生命は感じる。何もなければ、近いうちに生まれるんじゃない」
ミストは首を傾けた。
「それで、何をする気?」
「どうしようかね」
ソウヤは天を仰いだ。
「自然の摂理って言うなら、放置しておいて正解なんだろうけどな」
少し考えて、ソウヤは決めた。
「うん、こっちの勝手な都合で持ち帰るのは傲慢だ。このまま、卵は自然に任せよう」
人間の考えで、他種族の生き方、領域を侵すこともない。一方の独善的な考えを押しつけてはいけない。
……そう、思ったのだが。
『ソウヤよ――』
突然、頭に念話が響いた。
「アースドラゴン!」
突然の呼びかけにビクリとするソウヤ。アースドラゴンの念話は続いた。
『お前の迷いを感じたのでな、ちょっと見てみたのだが……ソウヤよ。そこにあるのは、ひょっとして炎属性ドラゴンの卵か?』
「見えているのかい、アースドラゴン」
ソウヤは、目の前の卵に触れた。周囲の熱の影響か、殻もじんわり熱い。
『それをここに持ってまいれ』
「……本気か?」
一度は放置を決めたソウヤとミストだったが、大地竜が持ってこいと言うからには、何か古の四大竜の考えがあるのだろう。無視する理由もないので、ソウヤは卵を持って帰ることにした。
帰り際、ソウヤはミストに聞いてみた。
「もしかして、アースドラゴンって卵も食べる?」
動物の中には、普通に卵を食べる種も少なくない。他の種族の卵もあれば、自分の種族のものにも手を出すものもいるとか。
一抹の不安を抱きつつ、ソウヤとミストは、時空回廊のディアマンテ号に戻った。蚊帳の外だったジンから、冗談込みでからかわれたが、アースドラゴンの元に卵を届けたのである。
「――で、こいつをどうするつもりなんだい、アースドラゴン?」
「知れたこと。このドラゴンを育てるのよ」
「!?」
「よいか、ソウヤよ。ファイアードラゴンの一族は、そのほとんどが死に絶えた」
仙人姿の大地竜は、とうとうと語る。
「はぐれや追放者のことは知らぬ。だが、ファイアードラゴンとその一族は、先の魔王軍との騒動で島を出て、滅びた。この島に残っていたわずかな若竜たちも殺し合い、不運にも全滅した」
このままでは、一族は絶える。
「その卵から生まれたのが眷属ではなく、ファイアードラゴンの一族ならば、その子を育てる。やがて、先代のファイアードラゴンの跡を継ぐものとして、四大竜の一角、炎の頭領となるだろう」
この卵から生まれる火のドラゴンが、新たなファイアードラゴンとなる。伝説の四大竜の1頭となる――!
ソウヤは驚愕する。
「ファイアードラゴンと縁もゆかりもないのに、育てるってのか? ……いいのかよ」
「いいのだ」
「うむ、それがいい」
アクアドラゴンもやってきた。飛空艇内の空調で涼んだのか、かなり元気になっていた。
「私としては、火がおらんでも構わないのだがな。水と土と風だけだと、どうも収まりが悪くてなあ」
「ちと、寂しいのぅ」
どこか白々しく、アースドラゴンは視線を逸らす。
「まあ、形だけでも火がおると、バランスがよい。世の中、バランスが肝心だ」
「バランスについては、同意」
ジンが顎髭を撫でながら言った。
「古参のドラゴンたちは、ここにきて血の気の多いファイアードラゴンを、御しやすい者に変えるつもりらしいぞ、ソウヤ」
「……ああ、そういうこと」
我が強く、短気な暴れん坊ファイアードラゴンの後継に、一から教育したドラゴンを据える。大竜たちが扱いやすいように。
「汚い! 古参竜、汚い!」
「これが大人の世界というものよ」
まったく悪びれる様子もないアースドラゴン。そもそも、ドラゴンというのは、どいつもこいつも自分勝手なのだ。
「だが、ファイアードラゴンが大人しいのは世界のためにもいいことだぞ?」
「そうそう、話せばわかるなら、前回のような大騒動にはならんだろうしな」
アクアドラゴンが口を揃えた。こちらで教育してやれば、短気で魔族と人類を滅ぼすべく飛来するようなドラゴンにはならない。これは他の種族にとっても大変助かる。
「四大竜の過半数が認めたのだ。つまりはそういうことだ」
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