後日談9話:火山島を散策


 元々豪腕だったソウヤだが、ドラゴンの血によってさらにその力は強くなった。


 その反動で、物を持つのも一苦労という有様である。武器についても、魔王を倒した神聖剣はともかく、それ以外の武器はほぼ握ることすらできない状態となっていた。


 以前の冒険で回収した武器を持ってみたが、軽く握った程度で持ち手の部分が潰れてしまうという始末。


「でも、ソウヤなら素手でも充分なんじゃない?」


 ミストは笑うのである。


「ワタシたちドラゴンだって、人化した時ならともかく、ドラゴンの姿なら基本素手だし」

「オレはその『人』の姿なんだけどね」


 ソウヤは苦笑する。


 クラウドドラゴン復活までの時間潰しとして、周辺の探索に出たソウヤとミスト。時空回廊の、回廊部分は、ミストのドラゴン形態で通過し、神殿っぽい建物の外へと出る。


 火山島である。噴火の煙が空を覆い、太陽の日差しもあまり届かない。所々溶岩が見えて、見渡す限り荒涼とした大地が広がっている。


「これ生身だったら、色々やばい環境だよな」


 ソウヤは隣にいるミストを見た。


「もしオレがぶっ倒れたら、後よろしく」


 有毒なガスとかも漂っているだろうと思う。生粋のドラゴンならば耐性はあるだろうが、半分人間であるソウヤは、あまり自信がもてなかった。


「引き受けたけど、さっき飛んだ時に何もなかったんだから、だぶんアナタも大丈夫だと思うわよ」


 本当にマズいならば、もうとっくにやられているだろう、とミストは指摘した。――そういう見方もあるのか。


「それより、何か感じるかしら、ソウヤ?」

「うーん……」


 ジャリジャリと土を踏みしめて歩く。


「何というか、大地の命かわからないけど、生命力みたいなものは感じる」

「アースドラゴンの加護ね。でもワタシが聞いたのはそうじゃなくて……他のドラゴンの気配」

「そっちは感じないんだよな……」


 ソウヤは辺りを見回す。島と、流れている溶岩に力を感じるのに、生き物の気配はまるで感知できない。

 こんな環境に生き物が棲んでいるのか?――とはいえ、ファイアードラゴンとその眷属たちは棲んでいた。


「ミストはどうだ? 何か感じられるのか?」

「それが全然」


 彼女は大げさに肩をすくめた。


「なんだ、てっきり何かいるのかと思ったのに」

「ワタシたちでさえ、ドラゴンの気配を感じないんだもの。一族全滅しちゃってるんじゃないかって思うくらい、感じられないわ」

「ファイアードラゴンとその眷属のほとんどが、この島から去っていたんだな」


 そして暗黒大陸とウェルド大陸を襲い、半分は魔王軍、残りは異世界に飛ばされて果てた。


「わずかに残っていた子ドラゴンも、争って潰し合った……」


 ミストは哀れむ。その足は自然と、火山島到着時に見かけた火属性のドラゴンたちの死骸へと向く。


「ここまで来ると、この島には、もうファイアードラゴンの一族はいないのではないかしら?」

「火の一族は絶滅した?」

「さあ、そこまではわからないわ」


 ミストは少し考える。


「この島にはいないけれど、一族に馴染めず離れたはぐれとか、追放されたドラゴンとかはいるんじゃないかしら?」

「あぁ、そうかもしれないな」


 集団に馴染めないヤツとはどこにでもいるものだ。それは悪いことではない。一つの生き方しか認めないとか、集団が絶対という考え方は好きにはなれない。


「せっかくだし、ソウヤ。アナタの力がどうなったか、色々試さない?」


 ミストはそんな提案をしてきた。ここは無人で、ちょっとやそっとのことで、他の生き物の顰蹙を買うようなこともない。


 言い方は悪いが、少々暴れても問題ない場所と言える。


「そうだな……」


 人間としての生活は不便そのものだったが、自分の能力の上限についてはまだ確認していなかった。

 どこまで力を出していいのか? 何が新しくできるようになったのか……。それを知ることも、状態把握として大事である。


「よし、やってみるか!」



  ・  ・  ・



「――うんまあ、外で何かをやっているとは思ったよ」


 ジンは呆れも露わに言った。


「外で地割れのような振動もしたし、君たちが何やら暴れているのはわかってた」


 老魔術師の後ろで、仙人のような姿のアースドラゴンがニヤニヤしている。ソウヤは渋い顔をした。


「暴れてるとはご挨拶だな」

「ちょっと力を試してみた、だろう? わかっているよ。ここなら暴れても、誰にも迷惑は掛からない」

「だから、暴れては――」

「ああ、そうだろうとも」


 ジンは腕を組んでいる。彼の訝しむ目が突き刺さる。


「それは脇に置いておこう。地形を変えたとか、新たな渓谷を作ったなんて話は、正直聞きたくはない。だが……これについては答えてほしいね。これは、何かな?」

「卵でしょう?」


 ミストがしれっと答えた。


「それ以外の何に見える?」

「卵ね」


 ジンは小首を傾げる。彼が見つめる先には、全長2メートルほどの、オレンジがかった卵があった。


「ソウヤ、いったい何人前の玉子丼を食べるつもりだ?」

「食べるのかよ!?」

「冗談だよ。……それで、この、いかにもドラゴンの卵をどうするつもりなんだい、ソウヤ?」


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不定期更新です。


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