後日談8話:時空回廊
外観は、神殿っぽさを感じさせたが、外壁が石に覆われていて、周囲とさほど色彩に変化はない。
いかにも古い、言い方は悪いが原始的な『建物もどき』っぽいとソウヤは感じた。……が、それは外観までだった。
ディアマンテ号で近づくと、それが巨大な飛空艇でも余裕で入り口に侵入できるほど巨大だとわかった。
巨大なドラゴンでさえ余裕で降り立てる広さに、まず圧倒された。ドラゴンの姿のままで集会が開ける大きさである。
「スゲぇなこれ……」
「ファイアードラゴンの一族は、割と集団行動も取るみたいだからね」
ミストも知ったようなことを言うが、初めて来たのは彼女も同じらしく、周囲をキョロキョロと見回していた。
ファイアードラゴンは、一族と眷属しかテリトリーに入れないから、縁もゆかりもない他属性のドラゴンたちも、ここを訪れることはできなかったのだろう。
地面に溝があって、溶岩の赤が見える。溝に見えたが、サイズからすればちょっとした渓谷である。
「ひょっとして時空回廊って、このまま船で通れちゃうか?」
ソウヤが確認すると、ジンが前に出てきた。
「時空回廊がどういうものかわからないから何とも言えないな」
「そうだな。……暑さは大丈夫か、爺さん」
「あぁ、魔法で調整している。でなければ、とうに干からびているよ」
「熱気が凄いもんな。肌がヒリつく感じ」
「それで済んでいる君たちが羨ましいよ」
生身の人間には、この環境は堪える。
「外観が古い遺跡っぽい形をしていたけど、中は洞窟みたいだな」
「まあ、元々神殿とは言っていないからね」
「そうだった」
つい、外観に引っ張られて、遺跡や神殿と勘違いしていた。ディアマンテ号は進む。
アクアドラゴンとアースドラゴンは静かだった。ファイアードラゴンの眷属の生き残りたちに気を配っているのだろうが、ここにきてもそれらが出てくる気配がなかった。
「……あちぃ」
アクアドラゴンは呟いた。単に環境が合わずぐったりしていただけだった。
「ソウヤ、見て!」
ミストが前方を指さした。明るいと思ったのもつかの間、大溶岩部屋に到着した。また一段と暑くなった。
この辺り一面溶岩だらけの中に、一本の細長い岩の道が伸びている。奥に続いているようだが――
「これが時空回廊ってやつか?」
「そうかもね」
ジンは眉をひそめた。
「さあて、このまま飛空艇でも奥まで行けそうだが、下を直接歩くべきなのかな?」
「どういうことだ?」
「どのあたりが時空なのかはわからないが、回廊なんて大層に言うくらいなのだから、何かしら必要なことじゃないかと思っただけだ」
老魔術師は考える。細く伸びた道を進むことが、時空回廊にとっての必要な儀礼だったり――?
「いや、考えすぎかもしれない。あくまで、普通とは異なるおかしな空間というだけだろう。……人間は難しく考えすぎるのかもしれない」
自己解決したようである。知識も経験もあるアースドラゴンが何も言っていないので、おそらく問題ないのだろう。クラウドドラゴンの仮死状態からの復活を目指してここにきたのであって、それに必要なことはこの大地竜が言うだろう。
道に沿って、ディアマンテ号は飛ぶ。飛空艇でさえ、これなのだから、徒歩で行ったら、かなりの時間が掛かるに違いない。
「修行僧とかが、精神の修行とかって歩きそう」
何か教えを授かりそうでもある。周囲を眺めるソウヤ。やはりというべきか、敵対的な存在は感じられない。
やがて、ディアマンテ号は通路の途中にある岩場――溶岩の中から突き出している島にたどり着く。どこからなのかわからないが、天から光が差し込んでいて、一目で何かあると感じた。
「あれが……そうなのか?」
「そうだ」
アースドラゴンがやってきた。
「あの一段高くなっている場所、あそこが時間のねじれた摩訶不思議な空間だ。そこに置けば、寿命と引き換えに、元の姿、元の形にそれを戻す」
「オーケー……。爺さん、船を島につけてくれ。降りよう」
「了解」
ジンはディアマンテに指示を出して、飛空艇を降下させる。そしてソウヤたちは、岩の島に上陸した。ジャリっとした土の感覚。大地を踏みしめる――それを強く足裏に感じた。どうしてそうなのかわからないが、大地の生命というのか、力のようなものを受け取った。
――俺がアースドラゴンの加護を受けたせいかな?
ともあれ、光の差し込む段差、否、それは台座というべきかもしれない。それに近づく。同時に、ディアマンテ号が侵入してきた方向とは逆方向にも回廊が伸びていて。その先は眩しいくらいの光があった。
「何だ……?」
「あれは『時』よ」
アースドラゴンが傍らに立った。
「あの先には行かぬことよ。二度と帰ってこれなくなるぞ」
「どういうことなんだ、アースドラゴン。あの先には何があるんだ?」
「さあて、何があるかのぅ。我は知らぬ。知っていることは、あそこが『時』と呼ばれ、行った者は誰一人帰ってきていないということだけじゃ」
「それって――」
ミストが唇の端を吊り上げた。
「ファイアードラゴンのテリトリーだから、誰もこれなかっただけじゃなくて?」
「ファイアードラゴンの歴史より古い。あやつらがここをテリトリー化する前の話よ」
「興味深いね」
ジンは顎髭を撫でた。
「ただ、まあ行く理由もないから行かないが」
「そうだな」
ソウヤは台座に近づく。
「この上に、クラウドドラゴンを?」
「そうだ。その台の上に置いておけば、あとは戻るまで待つだけだ」
アイテムボックスからクラウドドラゴンの巨体を出す。死んだように動かない風の大竜を台座に残して、ソウヤは後退する。
「後は待つだけか」
数日このままである。アースドラゴンの言を信じるならば、もうすることはない。
「ただ待つというのも面白味がないな。せっかくだし、観光と洒落込むか」
ソウヤはミストを誘って、探索することにした。ファイアードラゴンがテリトリー化してから、外部の人間がこの島を探索したことはないだろう。
勇者、いや冒険者の血が騒いだ。
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