後日談6:ドラゴンの後継者
ソウヤは、四大竜のアースドラゴンから、その加護と力の一端を授かった。……ソウヤからすれば、いきなり押しつけられたも同然だが。
ドラゴンのパワー、再生力、大地に宿りし魔力とより強い結びつきを得て、魔法や力として用いることができる。
さらに、石化耐性を得て、この島に生息するコカトリスやバジリスクといった石化のブレスや魔眼も効かない体になった。
『また石となったモノを元に戻すこともできる』
かつて、石化されたレーラを助けた時のように、ソウヤの分泌する液体、汗や涎、その他に石化解除の効果がつくと言われた。
愕然とするソウヤだが、ジンは相好を崩した。
「よかったじゃないか、ソウヤ。魔力と深い結びつきを得るということは、それだけ魔法の適性も高くなる。たぶん、練習すればソフィア以上の魔術師になれるだろうよ」
魔術師からは垂涎の的となるだろう能力を受けた、ということのようだ。
「――これ、もう人間じゃないだろう!」
「もうすでに、半分ドラゴンになっているよ」
ジンはそう切り返すのである。ミストの血を受けた時から、すでにドラゴンの仲間入りをしていたようなものなので、アースドラゴンの加護は関係がない。
「さて、クラウドドラゴンだが――」
アースドラゴンは、本題とも言うべき話題へと切り替える。ソウヤのアイテムボックスから、仮死状態のクラウドドラゴンが出され、アクアドラゴン共々、様子を眺める。
「……確かに、死んでおるように見えるが、なるほど生命は僅かだが残っておる」
「どうやったら生き返りますか?」
ソウヤは問うた。アースドラゴンの化けた仙人は、髭を撫でる。
「そうさなぁ、方法はいくつかある。たとえば――」
エリクサーとまでは言わないが上級の回復アイテム、治癒の聖石などを複数個、上位回復ポーションを湯水の如く注ぎ込んで、回復を促すパターン。
または、生命の魔力を、仮死状態のクラウドドラゴンに注ぎ込み、自己回復を早めるパターン。ただし、こちらもドラゴンを復活させるほどの莫大な魔力が必要らしく、アースドラゴンをもってしても、復活には年単位だという。
「その間に、ドラゴンを狙った敵が襲ってくれば、為す術なくやられるだろうから、絶対に敵の手の届かない場所を見つけて、隠れてやる必要もあるだろう」
「隠れ家については、何とかなるのでは?」
ジンは腕を組んで言った。ソウヤのアイテムボックス内や、クレイマンの浮遊島など、外敵に襲われることのない場所に心当たりはある。
「ちなみに、アースドラゴン殿。自己回復を早めるパターン、と言っていましたが、それはつまり放っておいても、クラウドドラゴンは自力で復活するということでしょうか?」
「……うむ。数百年、あるいはそれ以上の長い年月はかかるだろうが」
かかり過ぎる!――ソウヤは天を仰いだ。
ただ、手がなかったとしても、一応自力で復活はできるらしい。だが数百年も先では、生きて会うことはないだろうが。
治癒の聖石を複数見つけるというのも、中々骨の折れる作業と思われる。下手すれば数年くらい、聖石探しで世界を駆け巡ることになるのではないだろうか?
またポーションなどは、ミストの汗入りで効果を高めたとしても、調達費用、いや金はどうとでもなるが、必要な分を調達できるか怪しい。市場からポーションが消えたなんて、騒ぎになると、一般社会への影響が大きすぎる。
「まあ、一番手っ取り早いのは時間を引き戻すことだろう」
ポツリと、アースドラゴンは告げた。
「時間を、引き戻す……」
「
アクアドラゴンが言った。
かつて影竜も、その名を口にしていた。寿命と引き換え分にした分の時間を巻き戻すことができる――それが時空回廊。
つまり、クラウドドラゴンが仮死状態に陥る前の数日分の寿命を引き換えにすれば、そうなる前の状態に戻すことができる。
今なら寿命数日で復活するのだから、一番手っ取り早いというのもわかる。ドラゴンの長い寿命を考えれば、数日など誤差であろう。
ただし――
「その時空回廊のある島って、ファイアードラゴンのテリトリーよね?」
ミストが顔をしかめた。
四大竜の中で、最凶の暴れ者ファイアードラゴン。不用意に近づけば、ドラゴンとて血祭りにあげるという魔境である。
「だが、そのファイアードラゴンは、もういない」
アクアドラゴンが、ここではない遠くへと視線を向けた。
「ヤツは魔王に挑んで返り討ちにあった。あの島にいたヤツの眷属も、どこぞの異世界に追放されおった」
「あれは大変だった……」
ジンがゲンナリする。サフィロ号の魔女リムによって、霧の海世界へ飛ばされたドラゴンの眷属たちとひと悶着を経験しているジンである。
「そっちの世界はどうだった?」
被害は出たのだろうか、とソウヤは心配になった。ウェルド大陸でも、ファイアードラゴンの眷属が暴れたことで大きな被害が出た。
「なに、大した被害は出ていないよ。出現位置がまずかったから、大半の眷属が底なし渦に飲まれてしまったからね。まあ、サフィロ号も危なかったけど」
とりあえず、霧の海世界では問題にもならずに、一件落着したと老魔術師は語った。
「まあ、それよりも、時空回廊だ」
ジンが言えば、アースドラゴンも頷いた。
「アクアドラゴンから聞いたところ、ファイアードラゴンと眷属が島を留守にして、この世から消えた。時空回廊を使うなら、今がその機会と考える」
「……」
ソウヤは、仮死状態のクラウドドラゴンを見た。アイテムボックスに収納しておくといっても千年単位はどうなるかわからない。復活のアイテムを探す、ポーションを大量に作るとか方法はあれど、手間暇を考えれば、何とも言えない。
であるならば。
「行くか。時空回廊!」
世話になったクラウドドラゴンを、できることなら早く復活させたい。ミスト、ジン、そしてアクアドラゴンは頷いた。
「問題は、その時空回廊があるって島? それの状態がわからないことだが……」
ファイアードラゴンはいなくとも、留守番の眷属たちがいるかもしれない。それがどれだけいるかわからない。まったくいないかもしれないが、思ったより沢山いたら、さすがに手に余るのではないか……?
「ま、行ってみればわかる」
アースドラゴンは落ち着き払っていた。
「ドラゴンは縄張りにうるさい。いるなら、近づくだけで気配を感じられる。都合が悪ければさっさと離れて別の手を考えればよいのだ」
「ちょっと待った爺。お前も行く気か?」
アクアドラゴンが眉をひそめると、アースドラゴンは、わざとらしく眉を吊り上げてみせた。
「我の加護を受けたソウヤに、力の使い方を教えてやらねばならぬからの。あと、挨拶周りにも行くから、ついでにな」
「あ、挨拶周り?」
ソウヤが首を捻れば、アースドラゴンはニヤリとした。
「我の一族ドラゴンどもに、ソウヤを紹介するのでな。……大丈夫、大地竜の一族は皆、良くも悪くも鈍感じゃからの、心配はいらんて」
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