後日談4:ディアマンテ
アイテムボックスを出たソウヤは、改めて魔王の自爆跡を見た。
爆発の瞬間、咄嗟にアイテムボックスに引っ込み、それでも瀕死の怪我を負った。ミストとクラウドドラゴンを助けなければと思い、戻った時もこうだったのかもしれないが、あの時は意識も
だがミストは無事で、クラウドドラゴンも回収していたのだから、意思の力でやり遂げたのだろう。
「さて、大地竜の島に行くわけだけど――」
クラウドドラゴンを救うために、四大竜最年長のアースドラゴンのいる島を目指すのだが。
「……プラタナムは、ないのか」
魔王竜との戦いで、大きなダメージを受けて墜落した勇者の飛空艇。この世界の技術より遥かに優れた性能のオーパーツ的な勇者遺産。
しかし、魔王との決戦の場と近かったから、あの自爆に巻き込まれて、完全にやられてしまったのではないか。
「ほら、あそこ、地面の色が違う。あそこにプラタナムがあったんじゃ――」
指さすソウヤ。ジンが口を開いた。
「それなら、うちの人形たちが回収したと言っていた。あれはあれで貴重な勇者遺産だからね。ま、修理できるかはわからないが」
「そっか……。ま、爺さんとこなら安心だ」
貴重品目当ての廃品漁りとか盗賊に、残骸を漁られたりはしないだろう。
「船がいるな……。銀の翼商会に連絡をとって――」
「ソウヤ、それはやめておいたほうがいいわ」
ミストが首を横に振った。
「アナタ、今、自分の中の力を抑えられない状態でしょ? ヘタに戻ると、周りのものを壊すわよ」
「それだけで済むといいが、しばらく経過を見たほうがいいかもしれない」
老魔術師も言った。
「もう変化はないのか、まだ何か変化するのか、様子を見たほうがいいと思う」
「まだ何か変化するかもしれないってことか?」
ソウヤはゾッとした。これ以上パワーが上がったり、日常生活がもっと送りにくくなるとか――
「尻尾が生えるかしら?」
「角が生えるかも」
「冗談だよな……?」
ソウヤの問いに、ふたりは沈黙を返した。
「わかった。まだ合流は控えよう」
「それがいい。何せ世界は、君の英雄的死を悼み嘆いている。そんな状態で、君の生存を知れば、世界が君を放っておかない。それこそ英雄の帰還を、喜び引っ張りだこになるだろう。……頼むから呼ばれた先で、人を傷つけたり、建築物を壊さないようにしてほしいものだ」
「……冗談だよな?」
「冗談に聞こえたかね?」
ジンは真顔である。
「とにかく、今は体をコントロールする術をマスターするのが先だ。ハグで大事な人を殺してしまわないように……いいね?」
ドラゴンであるミストならともかく、生身の人間で――たとえばレーラやリアハだったら、間違いなく抱きついてきて、その反動でやらかしてしまうかもしれない。大事な人を間違っても害してしまうなんて悪夢でしかないし、一生のトラウマものだ。
「……わかった。リハビリを優先する」
ソウヤは渋々頷いた。せめて知らせてやりたいが、それで事故ったら悔やんでも悔やみきれない。
ミストは肩をすくめた。
「それで、大地竜の島までだけど、どうする? ワタシが乗せていく?」
「船を用意してある。それで行こう」
ジンが指をならすと、突然、銀色の巨大飛空艇が姿を表す。ソウヤもミストもビックリした。
「遮蔽装置か!?」
物体の周りを特殊な魔法の壁が覆うことで姿を隠す魔道具、いや魔法装置である。
「天空人の技術だ」
「そう呼ばれるのも実に久しぶりだ」
天空人――クレイマン王。この技術の持ち主がそこにいた。
そして現れた飛空艇にさらに驚く。
「まさか、アダマース号? グレースランド王国の」
スフェール渓谷で発掘された異世界船。その後、グレースランド王国軍が使用し、魔王軍との戦いにも参戦した。だが周辺国の飛空艇と比べても優れた船ゆえに、王国がアダマース号を手放すとは思えない。
「色が違うわ」
ミストが指摘した。形こそアダマース号と同じだが、色合いが銀に輝いている。ジンは笑みを浮かべた。
「ようこそ、本家本元のディアマンテ級バトルクルーザー『ディアマンテ』へ」
霧の海世界の飛空艇。ジンがかの世界を冒険していた時に手に入れたという船だ。……霧の魔女リムが、自分のだと言い張り、ジンに食って掛かっていたもの。
「壊すなよ」
ジンは一言告げて、飛空船へと乗船した。
「私は、過去『ディアマンテ』という船には縁があるんだがね。これが何代目なのかは、ちょっと思い出せないが」
「そうなのか?」
「世界は変われど、宝石の名前はありがたいってことだな」
「宝石?」
ミストが首を傾げたので、ジンは答えた。
「『ダイヤモンド』のことだよ。……日本語だと金剛石だな」
意味ありげにジンは、ソウヤに目配せした。日本語は、完全にソウヤに向けての解説だった。
「エイタたちのサフィロ号も、サファイアのことだしな。あちらの遺産級の船は基本、宝石名だった」
そんなこんなでブリッジに上がる。
「ディアマンテ、コースセット。大地竜のいる島へ」
『はい、マスター』
ディアマンテ号の制御精霊――という名のシステムが答えた。遮蔽装置を稼働させつつ、銀色に輝く飛空艇は空へと舞い上がった。
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不定期更新です。近いうちに次話……。
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