後日談3:ドラゴンの帰還


 ソウヤは、アイテムボックスに収納したクラウドドラゴンの表示が(仮死)とあったことを告げれば、ミストもジンも驚いた。


「生きている、の……?」

「一見、死んでいるように見えたが……」


 そこでふと、ジンは首を傾げた。


「そういえば、あれから数日は経っているはずなのに、腐敗臭はしなかったな」

「言われてみれば」


 ミストも周囲の臭いを嗅いだ。


 ドラゴン状態のクラウドドラゴンがいたのだ。腐敗すれば、その臭気も相当なものになっていたはずだったが、そんな臭いはまるでない。


 アイテムボックスに空気清浄機能があるのでは……とソウヤは思ったが、確証がないのでそれは言わなかった。神様のギフトは摩訶不思議。


「てっきり、四大竜クラスになると、腐敗ペースも遅いのかとも思ったが……」


 ジンは顎髭を撫でた。


「生きていたわけだ」

「ほとんど死んでいたけど」


 ミストは腕を組み、その豊かな胸を持ち上げた。


「さすがはドラゴンの中でも上級も上級。あれだけの傷を負って、生きていたなんて」

「仮死状態になって、何とか命を繋いだということか」


 だが、ジンはわからないという顔になる。


「これは放っておいて、自然回復するものなのかな?」

「どうだろうな……? わかるかミスト?」


 ソウヤが水を向ければ、霧竜である彼女は唸った。


「うーん……。普通の状態なら、瀕死でもじっとしていれば、再生するものだけれど……仮死状態っていうのが、いまいちわからないのよね。ただ眠っているってわけでもないのよね?」

「たぶん」


 ソウヤも、詳しくはわからない。アイテムボックスの表示ではただ『仮死』とあって、その具体的な解決方法などの情報はなかった。


「こういう時は、経験豊富な先達に聞いてみるのが一番だな」


 ジンが言えば、ソウヤもミストも、老魔術師を見た。


「なに?」

「ここじゃあ、あんたが一番人生経験豊富な先達だと思うぜ?」

「そうよ。クレイマン王」


 ミストが口をへの字に曲げる。ジンは手を上げた。


「復活の呪文でも唱えればいいかな? 具体的な解決策があるなら、そう言っているよ」

「あんた以上の年長者なんて、いるのか?」

「ソウヤ、君、水天の宝玉は持っているだろう?」


 ジンが指摘した。


「水天……なんだっけ?」


 何となく覚えがあるが、ド忘れしてしまったソウヤ。ジンは続けた。


「アクアドラゴンの念話玉だよ。どこにいようと彼女と念話できる交信アイテムの」

「あっ! あれか」


 ようやく思い出した。アイテムボックスのリストを表示させて、水天の宝玉(念話玉)を取り出す。


「持つ時、気をつけて!」


 ミストが声を張り上げた。ソウヤは身構える。そうだった。今、ソウヤの体はミストの血を直接受け付けたことで、ちょっと力を入れただけでそれを破壊してしまうくらい力のセーブに苦心する状態だった。


 以前の豪腕も大概だが、あれは力を入れればという条件があった。だが今回は、無意識にも力が入ってしまうから始末が悪い。


 取り出した宝玉が跳ねたが、何とか両手を広げて受け止めることができた。


「それ貴重なものなんだから、気をつけてよ」

「お、おう……」


 何せ、アクアドラゴンの涙が元になっているものだ。それはそれとして、アクアドラゴンを呼び出してみる。


「そういえば、彼女は銀の翼商会にいるのか?」

「いや、うちの人形たちの報告では、もうすでに商会を離れているらしい」


 ジンが答えると、ちょうど宝玉が光った。


 そしてドラゴンのものと思われる声が聞こえた。


「すまない、ドラゴン語はさっぱりなんだ」


 ソウヤは返した。


「ハロー、アクアドラゴン。ただいま地獄から通話中。俺はソウヤだ、わかるか?」

『ソウヤ!? お前、生きていたのか!?』


 ちゃんと人語で返すアクアドラゴン。ソウヤは、ジンとミストと顔を見合わせ、冗談めかす。


「何とか生きているよ。元気か?」

『まあ、私は元気だよ。ただ……ちょっと忙しい』

「忙しい? クラーケン退治か?」


 クスクスと笑うミスト。アクアドラゴンは、クラーケンに苦手意識がある。


『ダァホが。クラーケンなんぞ、屁でもないわ! ……いや、四大竜の今後について、爺竜と話しておるのだ」


 ――爺竜?


『ファイアードラゴンと、クラウドドラゴンがいのうなったからな! 四大竜でなくなってしまったから今後の――』

「あー、割り込んで悪いが、相談というのは、クラウドドラゴンの件なんだ。内容によっては、アクアドラゴンと、その爺様竜の話にも関わると思うぜ」

『クラウドドラゴンの? あー、つまりお前と同じく生きているということか!?』


 興奮気味なアクアドラゴンの声。――まあ、そうなるよな。


「そこのところをちょっと相談したいってことさ。実はな――」


 ソウヤは、現在のクラウドドラゴンの状況を説明した。


「生きてはいるが、仮死状態にあって、このままでいいのかわからなくてな」

『むー、そうだったのか――うわ、爺ぃ、寄るな、臭いぞ――』

『あーあー、聞こえるかね、人間の勇者よ』


 誰、と一瞬思ったが、聞こえてきた老人声は――


「アースドラゴン!?」


 まさか、古竜にして四大竜最年長のアースドラゴンがいるのか?


『久しいな、人間の勇者。どれ、クラウドドラゴンを我が島まで持ってまいれ。我が診てやろう』


 アクアドラゴンの言う爺竜とは、アースドラゴンだったようだ。かの竜がいるのは、大海の果て、大地竜の島である。


 次の目的地は決まった。


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不定期更新。次話は、都合をみて製作しつつ、できたら投稿いたします。


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