第637話、邂逅する魔王と炎の大竜
渦に吸い込まれる。
ファイアードラゴンは、浮遊する城へと退避する。眷属たちは魂と化し、それを免れたものどもも、今度はあの渦に吸い込まれた。
一体何が起きたのか。
いや、あの渦が何かは知っている。世界の亀裂。別の世界へと行き来するとも言われる異空間の穴だ。
わからないのは、何故、あれが発生したか。
そしてわからないといえば、あの眷属や魔族らを魂へと変えた光のことも。
『ドレイク、聞こえるか!?』
念話を飛ばすが、反応はなかった。眷属たちの中でも上級ドラゴンであるファイアードレイク。魂となったのか、渦に飲み込まれたのか。
『役立たずめ……!』
「ファイアードラゴン……」
『! ――何者だ!?』
振り向く。
浮遊する城の城壁に乗り上げているファイアードラゴンに、近づいてきたのは、ひとりの人間――否。
『ほう、貴様、魔王か?』
そのおぞましく高い魔力。伝説の四大竜であるファイアードラゴンにも、その男が只者ではないのがわかる。
「いかにも。我が名はドゥラーク、新たな魔王だ」
『貴様か。我がテリトリーに手を出した不届き者の主は!』
「はて、何のことか知らぬな」
ドゥラークは、ファイアードラゴンの恫喝にも微塵も驚くことなく、淡々と返した。
「そもそも、我がテリトリーを侵犯しているのは、君のほうではないかね、火トカゲ君」
『なぁにぃ……?』
ファイアードラゴンはキレた。ドラゴンに、トカゲ呼びは禁句である。最大限の侮辱の言葉に、短気な炎の竜は口腔を開けた。
ファイアーブレス!
大地を焼き払い、あらゆるものを溶かすと言われる灼熱地獄。その炎の息吹は、魔王を焼き払う。
だが――
「これが音に聞こえた火を司るドラゴンのブレスか。何とも温いな」
『!?』
ファイアードラゴンは目を見開く。
信じられなかった。最強のファイアーブレスを浴びて、無傷のものが存在するなど。
「私はこれでも、四大竜には敬意を抱いていたのだがね」
ドゥラークは地を蹴った。
「こんなに弱いのならば、さっさと滅ぼしておくべきだった」
ファイアードラゴンの喉元が切られた。吹き出た血飛沫が、城壁や地面に降りかかり、ジュッと焼けて蒸気を上げる。
その血液すらモノを焼き、溶かす高温。
強固なドラゴンの鱗を傷つけた敵――ファイアードラゴンが、ドゥラークを追って振り向いた時、もう一撃が首を襲った。
斬首。
魔王の持つ太陽の剣が、太いファイアードラゴンの首を切り落とした。
「驕り高ぶる愚かな火トカゲよ」
ドゥラークは剣を鞘に収める。
「貴様の首は、我が城の壁に飾ってやろう。他の四大竜も始末してな」
そこで空気の流れが変わったのを感じた。見れば、周囲のものを吸い込んでいた渦が消滅したのだ。
「異世界への門を開き続けるには、生け贄の数が足りなかったか?」
魂収集装置と、続く異世界の門。これにより、人類との戦争のために準備した飛空艇艦隊を失った。
だが目下、危険と見なしていたファイアードラゴンとその眷属も全滅した。
艦隊と魔王軍の戦力を大幅に失ったが、まだこの天空城が残っている。装備された超兵器を活用すれば、人類側の飛空艇艦隊も壊滅させられよう。
後は、天空城で人類どもの空を覆い、征服するのみ――
「ん……?」
ドゥラークは顔を上げた。
鋭く切り込んでくる気配を感じたのだ。ファイアードラゴンの眷属たちを魔王軍のもとまで引き連れてきた、白い飛空艇か。
「いや、違うな……この背筋を這い寄る嫌な気配――勇者か?」
・ ・ ・
ソウヤは、プラタナム号の甲板にいた。
「道は切り開いてあげる」
クラウドドラゴンは、灰色竜の姿をとる。
『貴方たちは、後についてきて』
「了解。いいな、ミスト?」
「ええ、もちろん」
ミストもその姿を白き霧竜の姿に変えた。ソウヤはその背中に乗る。
「結界を突破。オレをあの浮遊城のある島まで届けてくれればいい。迎撃があったら回避優先!」
『わかっているわよ!』
ミストが威勢よく応えた。
クラウドドラゴンが翼を広げて、プラタナム号の甲板から飛び立つ。ミストドラゴンも翼を広げる。
「ソウヤ」
甲板に残る影竜が親指を上げた。
「幸運を」
「いってらー」
「頑張って」
フォルスとヴィテスが見送り、アクアドラゴンが首を傾げた。
「帰ったら、皆で焼き肉じゃ。待ってるぞ」
「おうっ!」
ソウヤが右手を突き上げると、ミストドラゴンは甲板を蹴って飛び出した。
風を切り、ミストドラゴンは力強く飛翔。先行するクラウドドラゴンの後ろについた。
反転するプラタナム号。この空には、浮遊する城以外に、もはや飛んでいるものはなかった。ファイアードラゴンの眷属も、魔王軍の飛空艇も、異世界行きの渦に飲み込まれたのだ。
「さあ、仕上げにかかろう」
ソウヤは、魔王の居城を見据える。――すぐに終わらせてやる!
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