第612話、緑の墓所
結局、エルフ集落には、エルフの姿はなかった。
「カーシュも、ダルもいない」
ソウヤが唸れば、レーラが心持ち不安そうに言った。
「アガタさんも」
オダシューやガルらカリュプス組も、集落を隅々まで捜索したが、何も発見できなかった。
何かしら襲撃があったような痕跡もなく、血の跡があるなど争った形跡もない。
カマルが眉をひそめる。
「エルフたちは、どこかへ移動した?」
「家の中も見ましたが――」
オダシューは背筋を伸ばした。
「どこかへ疎開したとか避難した様子もなく、また荒らされている形跡もありませんでした。……まあ、普段とどこが違うのかと言われると、初めて入ったおれらにはわかりませんが」
「置き手紙もなく、忽然と消えた」
ソウヤは視線を彷徨わせた。
「ちょっと考えられないな。普通じゃないぜ、こいつは」
「どうするの、ソウヤ?」
ミストが聞いてきた。ソウヤは小さく頷く。
「集会場に集まっている、ということもなかった」
「ええ、留守でした」
アズマが答えた。他に何か、この集落で知っていることがあるか。
「後は……墓地か」
「緑の墓所?」
ミストは片方の眉を吊り上げた。
「確かに。あそこはまだ見ていないわね。……誰かいると思う?」
「わからん。でもいてくれたら、ここがどうして無人なのかわかるだろ、たぶん」
「いいんですか?」
オダシューが確認するように言った。
「あそこは、エルフ以外立ち入り禁止じゃありませんか?」
「仕方ないだろ。誰もいないんだから」
ソウヤは肩をすくめた。
「この異常事態だ。何も悪いことがないならいいが、もしエルフたちの身に何かあるようなら大変だ」
そこで勇者は微笑した。
「むしろ、怒られるならマシだ。その時点で、人と接触できたってことだからな」
・ ・ ・
コレルと獣魔たち、アズマ、アフマル、グリードを集落の見回りとエルフ捜索に残し、ソウヤたちは、エルフ集落から北へ少し行ったところにある緑の墓所へ向かった。
「へぇ……」
思わず声に出た。森の中に開けた場所があって、その先にこじんまりとしたピラミッド型の石の建物があった。
森の道は、その小さなピラミッド状の建物に続いている。
「うえっ、何だこれ……」
ピラミッドに続くはずの地面が溝になっていた。そして気づく。小さなピラミッド? 否、地表に出ていたのは、頂上のわずかであり、そのほとんどは、地面の下にあった。
「結構、深いな」
ピラミッド側の石に飛び乗って振り返れば、地面とピラミッドの間が2メートルほど離れていた。真っ暗で見えにくいものの、かなり深くまでありそうだった。
のっそりと、フラッドが隙間から下の方を覗き込む。
「この石の構造物が、緑の墓所でござるか。……かなり大きいのでござるなぁ」
「墓はこの中だろうな。入り口はどこだ?」
こういう時にエルフが出てきて、案内してくれるなり、入るなと怒って止めてくれれば面倒がなくて済むというのに。
リアハが近づいてきた。
「入るんですか?」
「墓守なり、あるいはお参りに来ている人でもいればいいんだが」
ソウヤは、グルリとピラミッド天辺付近を一回りしながら底のほうを見る。実際に下に下りながら入り口を探すしかなさそうだ。
「たぶん、こっちよ」
ミストが進んだ。
「わかるのか?」
「前、エルフたちが入ったのを魔力眼で見ていたからね」
「そうだった」
部外者立ち入り禁止だったから気になると言っていたミストである。魔力眼で見たら、と言ったら本当に見ていたのだ。
この大きな構造物を総当たりで探さずに済んでよかった、とソウヤは安堵する。
今いるのが天辺なので、下に行けば行くほど広がっていくことになる。
が、よくよく見れば――
「階段状になっているのは四方向だけか」
それ以外は、ひとつ下に下りるのに1、2メートルくらい飛び降りなければならない。底が深そうなので、何段下りることになるかわかったものでない。足腰にかなり負担になりそう。
ミストが、以前の覗きで道順を知っているおかげで、ソウヤたちは階段に沿って下りていく。
何となく予想していたが、ピラミッドのほとんど下まで下りていく羽目になった。
「これ、もう二段くらい降りたら底じゃないか?」
試しに端まで移動してみれば、やはり地面から2メートルくらい離れていて、さらに下に空洞があった。
「底なし……じゃないな」
「高さは4、5メートルくらいあるか?」
カマルも興味津々だ。そこでフードをかぶっている闇魔術師のヴィオレットが前に出た。
「この下、さらに降りられるみたいです。この建物の下は、ここまでの段差上の構造物を上下逆にしたような形になっているようです」
「それってピラミッドの底を上下貼り合わせたみたいな建物ってことか。ひぇー」
地下に埋まっているにしては、かなりの大きい。形も形だが、よくもこんな大きなものを作ったものだ。
「ソウヤー、入るわよー!」
ミストが呼んでいる。ソウヤたちは端から戻り、いよいよ緑の墓所と呼ばれる巨大な墓地に入った。
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