第604話、ラドロー艦隊、壊滅


「ようし、敵艦正面!」


 雲を抜けて、サフィロ号とゴールドグループの飛空艇が、魔王軍ラドロー艦隊に立ち塞がった。


「攻撃開始だ!」


 エイタ船長の指示を受けて、サフィロ号は魔法誘導魚雷4発を発射。さらに電撃砲で口火を切れば、大出力電撃砲を装備するゴールデン・ハウンド号、トルドア型戦闘船であるゴールデン・チャレンジャー号も砲撃を開始する。


 ソウヤのプラタナム、ニーウ帝国・エンネア王国艦隊に左右挟撃されていたラドロー艦隊は、さらなる火線の出現に被害を被る。


 これに加え、ゴールドグループはリッチー島傭兵同盟の戦闘部隊も加わっている。チャレンジャー号と同じトルドア型戦闘船の『ファートゥス』『ファートゥム』『フォルトゥーナ』が強力な集中砲火で、魔王軍飛空艇に火の手を上げさせれば、ゴールデンウィング二世号と同等の軽クルーザーである『インウィディア』『バルバルス』『ドロースス』の3隻も、炎上する敵艦にトドメを刺していく。


 ラドロー艦隊は完全に浮き足立っていた。旗艦プルプレウス号のシャスワスト将軍は顔面蒼白である。


「こうも一方的に……!」


 高速飛空艇プラタナムに、艦隊は引っかき回された。その隙に挟み撃ちの態勢を取られ、左右に気を取られたところに、別方向からの突撃。


 シャスワスト将軍は、もはやどこから手をつければいいかわからない。元から数は多くても艦隊全体への指示は大まかなものしか出さず、基本的な戦闘は各艦、よくて数隻単位の戦隊が引き受ける。


 もし艦隊全体に細かな命令が通るなら、分散している人類艦隊を各個撃破するように指揮することもできたかもしれない。


 だが手近な敵に対して、各戦隊、各艦が対応しようとするために、ラドロー艦隊も戦力が分散してしまっていた。


 プラタナムにかき乱され、損傷艦も続出した結果、分散した個々の戦隊も、敵艦隊より少数で当たっている始末。むしろ各個撃破されてしまっている。


「人類軍の方が、我々より艦隊機動に優れているというのか……!」


 魔王軍は、大飛空艇艦隊を整備し、人類ほか他種族を空から攻め滅ぼす、という方針を取った。人類にも飛空艇はあるが、数で圧倒することで押し潰す腹づもりだったのだ。


 だが結果はどうだ。人類側も多数の飛空艇を用意し、魔王軍の一空中艦隊と互角以上――いや、逆に圧倒していた。


「来ます! 白いやつ!」

「!?」


 白い飛空艇――プラタナム号が、魔王軍主力飛空艇では到底追従できないスピードで向かってきた。


 ――くそっ、こっちは、正面から敵が来ているのだぞ……!


 ゴールドグループの接近に対応しようとしていた矢先の後ろからの襲撃。


 ――こいつだ! 全部、こいつのせいだ!


 ラドロー艦隊が先手を取られ続けた原因となった白い飛空艇。


「反転! 左舷、電撃砲を白いやつに向けろ!」


 正面だったゴールドグループは右舷の砲で対応する。挟撃を許す形になるが、今のままでは反撃が弱くなる故、仕方がない。


 プルプレウス号がゆっくりと取り舵を切る中、プラタナム号から伸びてきた電撃が、艦首、中央、艦尾にそれぞれ貫いた。


「なっ――」


 エンジンを破壊し、燃料庫をも吹き飛ばした攻撃は、アラガン級飛空艇を内部から外側へと引き裂き――それがシャスワスト将軍の最期に見た光景となった。


 ラドロー艦隊旗艦は、爆発四散した。


 事ここに至り、魔王軍艦隊の統制は消滅した。全体に命令を出す立場の将軍を失い、次の指揮官級である戦隊長たちも、目の前の敵との対応に手一杯だった。


 全軍に命令を下せる立場の者がいなくなり、現場指揮官たちに全体を見る余裕がない以上、その時点で運命は決まった。


 魔王軍各艦は次々に討ち取られ、時間と共に、その数をすり減らしていった。人類連合艦隊も、イエローグループ、グリーングループの参戦で、完全に魔王軍を圧倒。ラドロー艦隊を壊滅に追い込んだのだった。



  ・  ・  ・



 プラタナム号。ソウヤは操縦シートに腰を落ち着けた。


 魔王軍空中艦隊は、人類連合艦隊に大敗北を喫した。数隻のアラガン級が逃走するが、魔王軍への雪辱に燃えるレッドグループこと、ニーウ帝国艦隊の追撃で全滅は時間の問題となった。


「自分のところにも被害が出ているのに、よくやるよな、帝国さんは」


 ソウヤは思わず呟いた。そこへ、甲板からミストとクラウドドラゴンがやってきた。


「ねえ、ソウヤ。もうおしまい?」

「あれだけやって、物足りないか?」


 苦笑するソウヤである。プラタナム号の甲板に出たドラゴンさんたちは、ブレスやら何やらで、魔王軍飛空艇を血祭りに上げていた。


「別に、終わったかどうか確認しただけよ」


 ちょっとそっぽを向くミスト。いつも戦闘狂な面が強すぎて、誤解してしまったようだ。


「ごめんごめん」


 ソウヤは詫びる。クラウドドラゴンが話題を切り替えた。


「ざっと見たところ、こちらが圧勝したようだけど、実際どうなの?」

「艦隊戦は勝ったな。それは間違いない」


 大勝と言ってもよいだろう。しかし、まったく被害がなかったわけではなかった。


「プラタナム、こちらの損害は?」

『本艦に損傷はありません』


 プラタナムは答えた。


『戦闘は継続していますので、若干の被害値に変動はあると思われますが、現状、人類連合艦隊に戦没艦なし。ただし、ブルー、レッドグループの数艦に被弾ならびに損傷あり』

「さすがに、魔王軍とて撃ってくるからな」


 左右挟撃をしたとはいえ、エンネア艦隊とニーウ艦隊は、健在な敵艦と正面から撃ち合ったわけで、まったくの無傷とはいかない。


『しかし、当初勇者ソウヤとジン殿の想定した被害を比べれば、かすり傷もいいところです』


 もし飛空艇同士の艦隊戦になった場合、勝っても半分くらいは損傷し、数隻ないし十数隻沈没するかも、と思っていた。


 その想定があったからこその、プラタナム号による単独突出でのかく乱戦法だ。結果としては、これがはまり、人類連合側の勝利に繋がった。


「空中の敵は退けた。後は、地上だな」


 ジーガル島に上陸した攻略部隊。すでに軍港施設は、アクアドラゴンの大波で壊滅させていたとはいえ、残存する魔族兵もそれなりに残っていた


「これも片づけないと、作戦は終わらないからな。プラタナム、ブルーチーム旗艦に、艦隊指揮を委任する。俺たちは地上に降りるぞ!」

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