第579話、勇者の遺物
待つことしばし、増援がやってきた。
「来たわよ!」
当然の如く、ミストが一緒だった。荒事と聞いて、すっ飛んできたようだ。
後の面々は、ライヤー、フィーア、メリンダ、フラッド、サジー。
「ライヤーと助手のフィーアはわかるが、サジー、お前も来たのか」
ソフィアの兄であるサジー・グラスニカは礼儀正しく応じた。
「勇者遺跡は、親父殿も関心が深かったでしょうから。この場にいない親父殿に代わり、私めが」
イリク・グラスニカなら、確かに勇者遺跡にやってきたに違いない。ソウヤは納得すると、リアハとレーラに頷いた。
「それじゃ行くか」
遺跡へと足を踏み入れる。フラッドが舌をちらつかせた。
「しかし、まだ見ぬ勇者遺跡があるとは……世界は広いでござるな」
「いったい、いくつ勇者遺跡はあるんでしょうね」
レーラも、これまでソウヤと何度も勇者遺跡に入っている。ミストが口を開いた。
「ワタシは初めて入るのだけれど、経験者さんたちから見て、ここはどういう遺跡かしら?」
奇妙な内装だった。金属の壁、床、天井である。照明が周囲を照らし、それが壁や床に跳ね返って、場所によっては眩しくある。
「オレも、こんなテカテカした遺跡は初めてだ……」
これまで入った遺跡のどれとも違う。ライヤーが瞬きした。
「目がチカチカするぜ」
「何かわかるかい、学者さん?」
「鉄っぽいが鉄じゃないってことくらいしかわからんな」
ライヤーは壁に触れる。
「なんか、デコボコしているっつーか、小さな穴とか開いていたりするけど、これが何の模様なのかさっぱりわからねえ。字でも絵でもない……こんなもん初めて見るぜ」
古代文明研究家にとっても未知の遺跡らしい。ソウヤたちは、通路に従って進む。現状、分岐もないが、道は所々に階段状の段差があって、下へ下へと向かっていた。
「ソウヤ殿」
サジーが真面目ぶって言った。
「勇者遺跡には試練もあると聞いたことがありますが……」
「ない場合もある」
コツコツとブーツが金属床を蹴る。
「ただの遺跡って場合もな」
「試練というのは? どんなものがあったのですか?」
「そうだな。力量を見るものとか」
「鎧の化け物が、大挙押し寄せてきたことがあったでござるな!」
フラッドが言えば、メリンダが首を振った。
「神聖剣を探して、彷徨うってものもあったわね。遺跡の中に1000本の剣があって、本物の神聖剣を見つけなきゃいけないってやつ」
「あれは傑作でしたね」
レーラは思い出し笑いをした。フラッドもカカっと笑えば、リアハが首を傾げた。
「1000本の剣から、本物の聖剣を見つける? 全部同じだったのですか?」
「いや、色々な剣があったよ」
ソウヤは答えた。
「でもほら、オレら、本物がどんな形をしているかわからないからさ。眺めただけじゃ、どれが正解かわからないってわけ」
「どうやって本物を見つけたんですか?」
「全部アイテムボックスに放り込んだ」
ソウヤが答えると、レーラとメリンダがその時のことを思い出して噴き出した。ライヤーが聞く。
「アイテムボックスに入れるとわかるのかい?」
「識別されたんだよ」
ソウヤは手を振った。
「もっとも、物によっては何々『未識別』って出て、大まかにしかわからないものもあるけどな。その1000本の剣も大半が『聖剣〈未識別〉』って出た」
「じゃあどうしてわかったんですか?」
「神聖剣〈未識別〉って出たからさ」
詳細は不明だが、これは神聖剣とアイテムボックスが仕分けしたから、わかったのだ。
「あれま。それはそれは」
ライヤーもニヤニヤした。
「それで、旦那は残り999本の聖剣はどうしたんだ? 持ち帰ったのかい?」
「まさか、仲間たちで何本か選んで、残りは置いてきたよ」
ソウヤは首を振った。
「実際のところ、聖剣だったのは100本くらい。あとは見た目は豪華だけど、ただの鉄の剣だったりと安物も多かったからな」
その遺跡のクリア条件は、神聖剣を見つけて、最深部の鍵穴に剣を差し込むというものだった。神聖剣を見つけるまで、出れませんという試練である。
思い出話をしつつ、遺跡の中を進むソウヤたち。ミストが眉をひそめた。
「モンスターなり、ガーディアンなり出てくると思ったのに、出てこないわね……」
「試練がないタイプの遺跡かもしれないな」
ここまで何もないというのも珍しい。レーラが顔を上げた。
「すると、ここは宝物庫タイプの勇者遺跡でしょうか」
かつての勇者が残した遺産が保管されている場所。勇者遺跡の中には、そういうのもあった。
通路の出口らしきところまで来た。広い空間に出る。金属壁がオレンジの光のせいで金のような光りを反射させている。
「おいおいおい、何だありゃ……!」
スタスタとライヤーが駆けた。手すりがあって、そこからそれを見下ろす。
「なあ、旦那! これって飛空艇かァ、なあ!?」
この勇者遺跡の手前、グレースランド王国が発掘していた異世界飛空艇――バトルクルーザー『アダマース号』にどことなく似たようなフォルムの飛空艇がそこにあった。
「マストが後ろか。何か槍みてぇな船体だ!」
ライヤーが声を弾ませる横で、ソウヤもそれを見つめる。
「アダマース号よりは小さいな」
よりSF観が増したシルエットだった。どこぞのSF世界にありそうな宇宙戦闘艦のような鋭角的なデザインである。
「マジで宇宙船だったりして」
もしそうだとして、それが勇者遺跡にあるというのは何を意味するのか。
――勇者、異星人説?
などと思いながらその船に近づいてみたが……。
「いや、違うな。宇宙船じゃねえわ。こんなので宇宙に出たら死ぬ」
フォルムがSFチックだが、よく見れば飛空艇だ。金属部位もあるが、木造のパーツも複数見てとれる。木造宇宙船なんてあり得ない。
つまり、これは飛空艇で間違いない。そしてそれがここにあるということは。
「勇者の遺産、ですよね、これ……」
レーラが言った。ソウヤは頷く。
「そういうことになるな」
ただ、この船をデザインした者か、あるいは製作者はこの世界の人間ではなく、ソウヤやジンのような異世界人だった可能性は十二分にあった。
これを遺した勇者は、ソウヤ同様、異世界人だったかもしれない。
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