第580話、これも勇者の発掘品?
勇者遺跡の奥にあったのは、近未来的な飛空艇だった。その鋭角的なフォルムは見るからに速そうだ。
「エンジン周りはジェット式みたいだな」
ソウヤはライヤーと、飛空艇後部を見上げる。
「ああ、さっき見た異世界飛空艇アダマースに似てるな」
「あれとも似ているけど、違う」
「これを残した勇者様も、異世界の人間だったのかね」
ライヤーは研究者の血が騒ぐのか、目がキラキラしていた。
「とりあえず、乗ってみる?」
「そうだな」
船に乗るためにかけられたタラップがあったので、乗船自体は簡単だった。ミストが口を開いた。
「この分だと、何かガーディアン的なものはいなさそうね」
「用心棒で来たでござるが――」
リザードマンであるフラッドが、肩に鉄鎚を担ぐ。
「どうやら荒事にはなりそうにないでござるな」
飛空艇に乗り込む。当然ながら無人の甲板。金属製のそれは、この世界の一般的飛空艇と違い、サフィロ号やアダマース号に近い。
ゴールデンウィング二世号の倍近い大きさなのだが、船首に行くほど細く、尖ったような船体をしているので、見た目ではむしろスマートに見える不思議。
「やっぱブリッジはあれだよなぁ……」
あまり馴染みのない形の船体構造物。ソウヤなどは、むしろ漫画や映画で見慣れている艦橋が船体の後部にあった。
「さて、どうやって中に入るか……」
「扉がある」
ソウヤが指し示すが、ライヤーは首を振った。
「いや、外側にタラップがあるから、あっちから昇るんじゃね?」
「それは外れですよ、ライヤー」
いつもは無言の機械人形少女フィーアが進み出た。まるで知っていたように、手動式のロックを外して、中への扉を開けた。
「どうぞ。たぶん、案内できます」
「なに?」
ライヤーが目を剥いた。相棒のフィーアの言動は、ソウヤたちも驚く。リアハが首を傾げる。
「案内、できるのですか?」
「おそらく」
フィーアは先導した。
「私の記録に、不完全ながらこの船のデータがあるようです」
「おい、ライヤー」
ソウヤは呆けている古代文明研究家の肩を叩いた。
「お前、フィーアは古代文明の遺跡で見つけたとか言ってたよな?」
「あ、ああ。えっと1万年以上前と思われる遺跡でな」
「つまり、記録があるかもってことは、その頃には、この飛空艇があったってことだろう?」
「そ、そうだな……。凄ぇ、そんな大昔なのかよ、これ」
間の抜けた顔で周囲を見回すライヤー。レーラが言った。
「そんな大昔にも、勇者がいたんですね」
「え……?」
「だってここ、勇者遺跡じゃないですか」
聖女様は小首を傾げた。
「神聖剣の封印がある遺跡ですから、それがここにあるのって、そういうことじゃありません?」
「どうかな」
ソウヤはライヤーを見た。
「俺の手に入れた神聖剣だって、作られたのは1万年前とか、そんな大昔のものじゃない気がする」
「そうだな。勇者遺跡とその中身の時代は一致しないかもしれねえ。おれたちがそうであるように、かつての勇者様も、発掘したものを使っていたって可能性もある」
ライヤーは考えを巡らせた。
フィーアについて行き、ブリッジに到着する。リアハが全体を見回す。
「アダマース号みたいな内装ですね」
「へえ、そうなのかい?」
ライヤーはアダマース号の艦橋内を見ていない。だがそれを見ているソウヤの目からしても、これまた近未来な艦橋を連想させた。
「だが、あの船とも違うな」
管理精霊とか言われていたアダマースが現れた台座もないし、あの船の艦橋と比べてこじんまりしている印象だ。ミストが鼻をならす。
「何か埃っぽいわね」
「確かに」
フラッドが同意すれば、レーラは苦笑した。
「でも、その割には結構綺麗ですよね。埃もたまっていないですし……」
「いつから放置されていたかは知らないが、確かに綺麗だな」
ソウヤはブリッジに入ってすぐにある、席に近づく。それは独特の形状をしていた。ミストもそれに気づく。
「何かコメット号みたいね」
ソウヤの浮遊バイク・コメット号。それを思わせるバイク型というべきか、変わったシートがあった。もちろん、席なのでバイク型ではあるが車輪などはなく固定されている。
「何か嫌な予感がしてきた」
「どうしてですか?」
レーラが聞いてきたので、ソウヤは頭の中に浮かんだ予想を話した。
「こういう形のものがブリッジにあるということはだ……。たぶん、これがこの船の操縦システムなんだと思う。ほら、操舵輪みたいなものだ」
「これがこの船の操舵輪!?」
ライヤーが驚愕している。見慣れた形じゃないから驚くのも無理はない。もちろん、まだこれはソウヤの予想だ。
「船の操縦にもかかわらず、こういう形をしているってことは、この船、たぶん滅茶苦茶速い」
最近、銀の翼商会に合流したサフィロ号も高速であり、遺跡の上で発掘されたアダマース号もおそらく高速艦だが、この勇者遺跡の船はそれよりも遥かに速いだろう。
「そもそもこの船の形、槍みたいに尖っていただろう? 空気抵抗を考えて敢えて、あんな細い形状になっているんだと思う。そうなると……」
飛空艇なんてものじゃないほどの超高速艇の可能性が高い。しかも予想通り、バイク型操縦システムだった場合、その機動や運動性も、既存の飛空艇を凌駕しているのは間違いない。
これが勇者の遺産――ソウヤは身震いするのだった。
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