第551話、大陸侵攻軍の壊滅
魔王軍大陸侵攻軍の指揮官、ノーチはデーモン・ジェネラルである。
彼は、魔王の後継者ドゥラークについた魔族のひとりだった。いまだ後継者の座を巡り対立する魔族間闘争を苦々しく思う一方、人類への復讐のため本格的な攻勢に打って出たいと考えていた。
「飛空艇が30隻もあれば、この大陸の人類国家を滅ぼすための戦力に充分だというのに……」
もちろん、制圧には地上戦力が不可欠であり、飛空艇を多数揃えただけでは意味がないのは彼も理解していた。
しかし、飛空艇と地上戦力を共同運用すれば、現有戦力でもやれると、ノーチ将軍は確信していた。
今、人類側の国家は、対魔王軍の準備ができていない。共闘していない状態なればこそ、飛空艇の移動速度と地上戦力の強襲を活用して、一国ずつ切り取っていくことは可能だ。
食料? それは占領した地の人間から奪い、そして食らえばよい。むしろ、今の大陸侵攻軍の規模くらいが、そういうイナゴ的食料確保にちょうどよいとさえ言える。あまり味方が増えすぎても、食料確保、調達、輸送が大変になるのだから。
ノーチ将軍は、ニーウ帝国を支配する日々の中、現有戦力で大陸侵攻の絵図を描き、日々を過ごしていた。
「ひとたび、ドゥラーク閣下の進撃許可さえ下りれば、1カ月以内に大陸の主要国を滅ぼしてみせる!」
そう豪語して、萎えそうになる退屈な業務にかかる自分を鼓舞するノーチ将軍。だが、将軍の平穏は、唐突に終わりを告げるのである。
巨大な雷が落ちた音がした。いや雷が落ちたという生半可なものではない。室内にいても耳を塞ぐ轟音に、天地がひっくり返るほどの衝撃を受けた。
耳がおかしくなったのでは、と疑いたくなるほどの音の後、爆発が相次いで起きたらしく室内が揺れた。
「飛空艇に雷が直撃した……?」
当たり所が悪く、まさかの誘爆ではないか。ノーチ将軍は、落雷の衝撃にまだ心臓が震える中、窓の外を見ようと席を立った。
窓の外が明るかった。赤々とした光は火の手だと察した。
「おお……おおっ」
離発着場のアラガン級飛空艇が、次々に爆発している。大惨事である。貴重な大陸侵攻軍の戦力が、目の前で失われていく。
そこへ、黒きドラゴンが視界をよぎった。この惨事はドラゴンの襲撃か? ノーチ将軍が歯噛みした瞬間、ドラゴンの口腔からブレスが放たれた。
「うおおおっ!?」
それはノーチ将軍のいる司令部建物を直撃し大きな爆炎に包み込むのだった。
・ ・ ・
炎上する魔王軍の秘密拠点の上空に差し掛かった銀の翼商会&リッチー島傭兵同盟飛空艇は、搭載武器である電撃砲による地上砲撃を開始した。
さながらサンダーボルトの魔法を撃ち込むように放たれる電撃は、地上のアラガン級飛空艇に次々と命中する。
マストを、ウィングを、ブリッジを電撃が抉り、破壊して炎上を拡大させる。
ミストドラゴン、クラウドドラゴンの一撃を逃れた船が優先的に狙われ、さらに飛空艇からアクアドラゴンのブレスが建物をプレスするかのように降り注ぎ、施設への被害を拡大させていく。
『敵の侵入を許したのか!』
『何でここに来るまで気づかなかった……!?』
襲撃に右往左往する魔族兵たち。頭上から降り注ぐ電撃が不運にも命中して黒焦げ死体となる者、飛空艇の爆発の炎に飲み込まれる者、激流のような水に飲み込まれる者……至る所で倒れていく。
混乱の原因のひとつは、この秘密拠点を襲撃する者などいるはずがないという思い込みがあった。
人間には知られていない場所に秘密拠点を作ったのだ。近づくものは、この一帯に近づく間のどこかで警戒網に引っかかり、殺される。
故に、この拠点は決して攻撃されることはないはずだった。魔王軍の者しか知らない場所なのだから。
だが現実は、襲撃を受けている。複数の飛空艇という、本来ならここへ到達する前にどこかで見つかっていなければいけないほどの規模の敵に。
『エンジンに火を入れろ! 回せ回せ!』
アラガン級の艦長が命令を飛ばすが、エンジンが動き出すより前に頭上の飛空艇から電撃を浴びせられる。艦長は吹き飛び、甲板が焼け、マストが真っ二つに裂ける。
飛び上がる前の飛空艇など、ただの的である。
トルドア船型の多数の電撃砲は、アラガン級にも引けを取らない重火力艦だ。さらに銀の翼商会のゴールデン・ハウンド号は、大口径電撃砲を搭載するタライヤ船であり、主砲は一撃で魔王軍船を撃沈する。
銀の翼商会とリッチー島傭兵同盟の飛空艇は、一列の長い列を形成し、魔王軍の秘密拠点の上空を旋回。ひたすら地上への攻撃を行った。
さらにクラウドドラゴンの多重電撃が大地を耕す勢いで引き剥がして、魔王軍への被害を広げた。
かくて、魔王軍大陸侵攻軍の本拠地である秘密拠点は、徹底的に破壊された。
再度の大規模増援なくば、大陸での活動が不可能なレベルで。
・ ・ ・
「凄えな……」
ミストドラゴンの背から、ソウヤは眼下の光景を目に焼き付ける。
巨大な軍港を兼ねた魔王軍拠点は、完膚なきまでにスクラップの山となり燃え上がっている。
『これで、人類側が準備を整える時間ができたわね』
ミストの念話。ソウヤは頷きかけ、はたとなる。
「だといいんだがな」
『何か気がかりが?』
「ニーウ帝国では、現地の民が魔王軍のそれと知らずに飛空艇用の設備などを作っているって話だったろ?」
魔王軍捕虜のソルテ艦長の情報ではそうなっている。
「そこに魔王軍が増援を送り込んで、大陸侵攻軍の新しい拠点に使うかもしれないってことがな」
『でも、魔王の……ドゥラークだっけ? 魔族統一を先に済ませて、人類への攻勢は後回しにするんじゃなかったかしら?』
「本格攻勢は後回しでも、足掛かりの確保はしてくるかもしれない」
何せニーウ帝国の皇帝は、魔族と入れ替わっているという話である。
「とはいえ、現状どうなるかは、相手次第なんだけどな」
『今回の攻撃で生き残った連中がどう動くか、ってところね』
ミストは鼻をならした。
『さあて、どれくらい生き残っているかしら……?』
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