第552話、生存者とまとめる者


 魔王軍の秘密拠点は叩かれたが、当然ながら生き残った魔族兵もいた。


 単に運がよかった者もいれば、拠点周囲の監視所に勤務していたりと、直接被害を受けなかった者もそれなりにいた。


 また、銀の翼商会とリッチー島傭兵同盟が攻撃していた時に、拠点にいなかった飛空艇もあって、それらは順次戻ってきた。


 魔王軍のコマンダー・カラガンも、そうした者のひとりであり、飛空艇センペル号で現地に降り、生存者と合流した。


「多数の飛空艇とドラゴンによる奇襲!」


 生き残りの魔族士官からの報告は、カラガンを大いに驚かせた。


「秘密拠点だぞ。いったい誰が攻撃してくるというのか!?」


 考えられるのは人間勢力だが、連中にそこまでの航空戦力はないはずだった。


 はっきりしているのは、大陸侵攻軍は壊滅的大打撃を被ったこと。侵攻軍司令官であるノーチ将軍が戦死したことだろう。


「これからどうしましょうか?」

「……」


 傷つき、疲れ果てた兵たちを前に、カラガンは黙り込む。


 自分より上級ランクがいなければ、必然的に戦隊指揮官であるカラガンが、大陸侵攻軍最上級指揮官ということになる。


 敗残兵をまとめて、大陸から撤退するか? いや、ニーウ帝国に潜伏し、支配している同志たちもいる。ここまで大陸侵攻のための準備をしてきて、放棄していいものかどうか……?


「いずれにせよ、ドゥラーク様に報告せねばならない」


 大陸侵攻軍の壊滅は、魔王であるドゥラークの今後の行動にも影響するだろう。魔族統一を進めている彼にとって、その行動に直接的な影響はないだろうが、反発している勢力や見定めを行っている者たちへの影響は少なからず出るに違いない。


「戦力は回復する。大陸侵攻軍は、まだその戦力が整っていなかった」


 飛空艇は量産され、軍の人員の練兵も進んでいる。今回の喪失は痛手だが、まだやり直すことは可能だろう。


 そうであるならば。


「ドゥラーク様に正確なご報告をし、ご判断を仰ぐ」


 それまでは現有戦力を集めて、現状維持である。


「それで、攻撃してきたのはどこの手の者かわかっているのか?」

「いいえ、わかりません」


 生存者たちも、どこの攻撃かわからないという。どこかの国の旗を掲げていたとか、そういう目撃例はなし。


 高度から地上へ攻撃し、同時に数頭のドラゴンがそれに加わった。


「ドラゴンを使役する人間の国などあったか?」


 カラガンは副官へ確認すれば、魔族士官は首を横に振った。


「いえ、そのような国や勢力はないはずです。あれば、全隊に情報が共有されていたはずです」


 ドラゴンとの関係性は難しい。連中はこの世界における最強の種族と自惚れているが、こと攻撃に対しては敏感だ。何より報復を忘れない。半端な手出しは破滅に繋がるため、敵に回すにしても慎重に当たらなければならないのだ。


「どこの奴らかわからなければ、報復も、次の攻撃に備えることもできないではないか!」


 カラガンは苛立ちを露わにした。


 こちらが現状維持をしている間に、また仕掛けてきたらどう対処すればいいというのか。


 結果的に生存者たちは、秘密拠点廃墟に野戦陣地を作り、魔王軍上層部の指示が来るまで、その場に留まることになった。


 カラガンは、戻ってきた飛空艇を指揮し、陣地上空を警戒させる。そしてうち1隻を、ドゥラークへの連絡のため近くの拠点へと派遣した。


 また、帝都で活動する仲間に拠点壊滅の報告の伝令を出させた。


 生存した兵たちは、昨夜の謎の敵に怯えつつ、有用資材の回収や行方不明者捜索を行った。


 だが夜遅くから霧が出始めたために、陣地へ戻ってしばし休息を取ることになる。


 そして、一夜が明けたが、いまだ鬱蒼と霧が立ち込めていた。



  ・  ・  ・



「どの船かわかるか?」

「こちとら霧の海の海賊だぞ。余裕余裕」


 エイタは揚々と答えたが、ソウヤには真っ白な霧のせいでサフィロ号の甲板しか見えなかった。


 白い壁の向こうから、いきなり魔王軍の船が飛び出してきても、回避する余裕すらないのではないだろうか。


「なんてな。俺にも見えない」

「おい!」

「大丈夫。サフィーが見えている。彼女が障害物もヒラヒラとかわすさ」


 エイタが手をヒラヒラさせれば、操舵担当のサフィーはニコリとした。そばにいたミストがソウヤの背に飛び乗った。


「おいおい」

「霧はワタシのテリトリーよ。お探しの船はあっち」


 と、ソウヤがおんぶする格好になったミストが手を伸ばし、霧の中を指さした。


 そこに魔王軍の生存者たちの中で上級指揮官らしい魔族が乗る船がある。……と思う。ソウヤにはまったく見えない。


「いまさらだが、霧の中で船を動かすって、やっぱ正気じゃねえわ」

「何だソウヤ。こっちはいつもだぞ」


 エイタは笑った。


「よく言うぜ。あんただって見えてないくせに」

「目標船! せっしょく5秒まえー!」


 サフィーが唐突に声を張り上げた。エイタは金棒をブン回した。


「接舷、よーい! 対ショック姿勢!」


 うっすらと黒いものが霧の中からヌッと現れた。魔王軍飛空艇アラガン級だ。


「せつげーん!」


 サフィーの声。メキメキメキと何かが折れる音が響き、衝撃がサフィロ号に走った。予め踏ん張っていたが、それがなければこの軽い衝撃でもすっころんでいたかもしれない。


 サフィロ号は魔王軍飛空艇の側面にピタリとくっついた。魔王軍船の右舷のウィングがサフィロ号の船体に押しつぶされたが、それ以外は軽く接触する程度で、双方とも大きな被害はない。


「霧の中で、この接触で済むとか神業かよ!」


 ソウヤが思わず口走った時、エイタは金棒を敵船に向けた。


「乗り込めーっ!」

『ウラァァァァー』


 カボチャの化け物、パンプキンヘッズが斧を手に、魔王軍飛空艇に乗り移った。

 ソウヤは斬鉄を、ミストが竜爪槍を構える。


「じゃあ、俺らも行くか、ソウヤ!」

「おうよ! 銀の翼商会、行くぞ!」


 エイタ、椿らと共にソウヤとミスト、ガルやセイジ、カーシュ、リアハら前衛組が敵船に乗り込む。


「狙いは敵指揮官! それ以外は排除しろ!」

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