第516話、予想だにできなかった全滅の可能性


「すると、造船所の奥に別の遺跡か何かがあるってことか」


 ライヤーはセイジから聞いた説明に唸った。


「そいつは見てみたいが、中に入ったら眠ってしまうわけだな」

「みたいですね」


 セイジは頷いた。


「それで、何が作用しているかわからないので、フィーアさんに探索をお願いしたいと」

「なるほどな。ちょっと待ってろ」


 ライヤーは通信機で、フィーアを呼び出す。


 その様子を見ながら、セイジはライヤーに感心していた。


 最近与えられた個人用通信機。ジン師匠の発明品だが、セイジももらっている。だが、どうにも慣れない。


 便利なものだとはわかるが、人を探す時は自分の足で直接赴く。セイジの交友関係において、通信機を使うタイプがほとんどいないのも影響している。


 ソフィアは念話があるから、と言い、『セイジも念話を覚えなさいよ』と、通信機をほとんど使わない。魔術師系はとくに、念話の練度を上げるためにというのもある。


 そもそも、通信機は業務連絡や報告に、が主なので、あまり使う機会が少ないというのもある。


 その点、ジンは念話と通信機の双方を使い分けているし、ライヤーは飛空艇の運用でよく使っているのを見た。だから余計に感心してしまうのだ。


 セイジは造船所へ視線を向ける。


「ん……?」


 飛空艇が通過できる大きな門に人影があった。目を凝らせば――


「ジン師匠?」


 老魔術師が子供ドラゴンの背中に乗って駆けてくる。他にクラウドドラゴンもやってくる。


 何か猛烈に嫌な予感がした。ジンが急ぐというのが想像がつきにくいが、子供ドラゴンに乗ってやってくるのが、それに拍車をかけた。


 ゴールデンウィング二世号は、結構離れているのだが、あっという間にこちらへやってくる。


「お、何だ何だ?」


 ライヤーも、駆けてくるジンたちに眉をひそめる。


「まるで何かから逃げているみたいだな」


 それは僕も思った――セイジも同じ意見だった。そしてそれは間違っていなかった。



  ・  ・  ・



「理由はわからないが、睡眠効果範囲が広がっている」


 ゴールデンウィング二世号の甲板で、ジンは告げた。


「まず倒れたのは、フォルスだ」


 横穴の前に陣取って睨みをきかせていた子供ドラゴンがバタリと倒れた。ソウヤとリアハ、ソフィアがフォルスの元へ駆けつけるが、相次いで倒れた。


「睡眠効果範囲が地下へ降りた先だと思っていたから、まさか拡大していたとは予想だにできなかった」


 倒れたフォルスが、まさか拡大していた睡眠範囲のせいと気づく前に、駆け寄ったソウヤたちも倒れ、カマル、ミストも巻き込まれていき、ジンとクラウドドラゴン、ヴィテスは急いで退避した。


 クラウドドラゴンが眉間にしわを寄せた。


「徘徊しているのがスケルトンだったのがよくなかった。普通の魔獣だったなら、睡眠範囲の拡大に気づけたかもしれない」

「というわけで、非常によろしくない状況だ」


 ジンは、フィーアほか、自分が保有する機械人形のヴェルメリオ、アマレロ、シンザを見回した。


「どこまで睡眠効果の範囲が広がるか、想像もできない。よって、君たち4人には、横穴から遺跡に入り、睡眠を促す何かを見つけ、それを止めてもらう」

『はい、承知いたしました』


 メイド組は息ピッタリの返事をした。ライヤーはフィーアを見る。


「頼むぜ、フィーア。おれら生身じゃ近づくのもダメくさいからな」

「わかりました」


 フィーアはいつもの無表情で頷いた。


 ジンの機械人形たちが20代前半の女性型なのに対して、フィーアは見た目13、4あたりの少女型なので、ちょっと頼りなく感じてしまう。


「では、頼んだぞ」

『はい』


 メイド+少女の4人組はゴールデンウィング号より降りて、足早に造船所へと向かった。


 ジンとライヤーもそれを見送るが、セイジは尋ねずにはいられなかった。


「倒れた人たちを先に救助しないんですか?」

「そうしたいが、この船は、念のため島から離れる」


 ジンの言葉に、セイジは愕然とした。


「え……そんな、ソフィアやソウヤさんを見捨てるんですか!?」


 恋人であるソフィアも、あの中で眠ってしまったという。それを置き去りになど、セイジにはできなかった。


「フィーアさんやメイドさんたちに、眠っている人たちを運んでもらうことはできますよね?」


 全員救出してから、改めて調査。睡眠効果の原因が突き止められない可能性もあるから、まず救出しておけば、最悪の事態は避けられるのではないか?


「睡眠効果範囲の拡大が読めないからね」


 ジンが言った。


「ここまで効果範囲が広がるかもしれない。ひょっとしたらこの島全体に拡大するかもしれん」

「そりゃマジぃな……」


 ライヤーは顔をしかめた。


「船の離陸準備をさせないといけねえか?」

「せめて目に見えればいいんだが、睡眠効果がどこまで来ているのかわからないことにはな。……君たちにもわからないんだよな?」


 クラウドドラゴンに確認するジンだが、彼女は首を横に振る。


「申し訳ありません。ワタシの目をもってしても見えません」

「でも――」

「セイジ」


 無表情少女その2――ドラゴンから人型になったヴィテスが口を開いた。


「いま、ここで私たちまで眠ってしまえば、もう誰もお父さんやソフィアたちを助けられないわ。あの機械人形たちが成功してくれればいいけれど、失敗したら、そこで全滅確定」

「……」


 ここにいるメンバーまで眠ってしまうことになれば、本当に銀の翼商会は全滅してしまう。セイジはショックを隠せなかった。敵と戦うでもなく、眠りで全滅の可能性があるなんて。


 ゴールデンウィング二世号が浮かび出す。ライヤーの操船で地上から離れる飛空艇。


「ソフィア……」


 心配でたまらなくなるセイジ。地上の造船所入り口が、少しずつ小さくなる。


「安心しろ、セイジ。眠っている者たちの救出も進める」

「ジン師匠……!」

「私の浮遊島から、ゴルド・フリューゲル号に、増援の機械人形とゴーレムを乗せて運んでもらう。ソウヤたちの救出はそちらでやる」


 銀の翼商会2隻目の船に、さっそく出番がやってきた。

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