第517話、機械人形たち


 フィーアは古代文明時代の機械人形である。


 人型で、その姿はジャケットを身につけた13歳くらいの少女に見える。しかしその体は機械であり、人間を遥かに凌駕するパワー、耐久性を誇る。


 遺跡の中から、ライヤーによって発見され、再起動してから彼に従って行動してきた。人間のいうことは理解できるし、コミュニケーションも取れるが、受動的であり、自発的な行動はあまり取らない。


 また、自分がどのように作られたか、それに関係する記録は残っていない。


 ゴールデンウィング二世号でメンテやライヤーのサポートをしていた彼女が、今回与えられたのは、謎の睡眠現象の原因を突き止め、それを止めることだ。


「――フィーア、あなたとはリンクができないので、音声によるコミュニケーションで連携を取ります」


 そう言ったのは、ジン・クレイマン王配下の機械人形、ヴェルメリオだ。


 20前後の女性型――人間にしか見えないのだが、これも機械人形だという。メイド服をまとう彼女たちは、機械人形ではあるが、フィーアと製造元が違った。


 背格好は同じで、外見上大きな違いは、髪型とその色。ヴェルメリオは赤、アマレロは黄、シンザは灰色と、色で識別は容易である。


「フィーア、あなたの武器は?」

「オーブガンです」


 腰にふたつの拳銃型武器。魔法宝石を加工し、そこから光弾を放つ、一種の魔法銃である。


「了解。ではあなたが先頭でお願いします。アマレロはフィーアのサポート、シンザは後方を警戒」

『了解』

「後方警戒は必要ですか?」


 フィーアは質問した。


「事前の情報では、ほぼ一本道と聞いています」


 つまり、道順に進むなら、後ろに敵が現れるはずはない。その指摘に、ヴェルメリオは否定を返した。


「あくまで現状判明している範囲においててです。完全なデータではない以上、判明していない通路などより、我々の後方に敵が現れる可能性は否定できません」

「理解しました」


 フィーアは首肯する。4人の機械人形は、横穴へと向かう。


 ソウヤやミスト、ソフィアらが倒れている。ここはすでに生物を例外なく眠らせてしまう睡眠エリアとなっている。


 造船所の横穴から、薄暗い遺跡の通路に侵入する。真っ暗である。


「各自、暗視モード。……フィーア、あなたも大丈夫ですか?」

「問題ありません、実装しています」


 淡々と事務的なやりとりが交わされる。機械人形たちは、人間を模しているが人の見ていないところでは表情が極端に乏しくなる。……もっともフィーアに関しては、人がいようがいまいが、表情に乏しいが。


「スケルトンの残骸を確認」

「前に通った方々が破壊されたものですね」


 ヴェルメリオは、形が残っている骸骨のひとつを解析する。


「魔力反応あり。骨が再生しつつあり。――アマレロ、破壊してください」


 黄色髪の機械人形が手甲で、頭蓋を砕いた。


「フィーア、前進を。ここの骨も時間と共に再生します。再生間近なものは破壊しながら前進」

「了解」


 再生しているのはスケルトンの特徴である。時間と共に復活するので厄介なモンスターと言える。ここで完全破壊したところで、時間稼ぎにしかならないが、それを理解した上で破壊している。


 ヴェルメリオがナビゲートする中、フィーアたちは先に進む。

 進路上に動く骸骨が現れる。


「敵発見」

「発砲、許可」


 その瞬間、フィーアの手にある2丁のオーブガンが光を放った。光弾はスケルトンの頭を粉々に吹き飛ばす。


「さすが。見事な早撃ちですね」

「どうも」


 さらに先に進む。時々現れるスケルトンを砕きながら、下の階層へ。ここにもスケルトンがいた。のそのそと鈍い動きで、フィーアたちに迫る。


「人間を確認」


 睡眠でやられた調査隊が倒れている。フィーアはズンズン前へ歩きながらスケルトンを排除していく。階段から部屋に入り、室内の敵を一掃したが、フィーアの思考回路に、疑問が浮かんだ。


「ヴェルメリオ、よろしいですか?」

「どうしました?」

「スケルトンたちですが、人間に関心がないように見受けられます」


 記憶違いでなければ、アンデッドモンスターは、スケルトンにしろゴーストにしろ、生者への恨みで動いており、もし睡眠で倒れている人間がいれば殺して、自分同様のアンデッドに引き入れようとするものだ。


 逆に生きていないものへの反応は鈍く、ゴーレムや機械人形には、攻撃でもされない限り手を出してこない場合が多い。


 しかし、ここのスケルトンの行動は、それら一般的なアンデッドスケルトンと真逆に近い。


「見たところ、ここの人間たちは眠っている以外、無傷です」

「そのようです」


 アマレロが報告した。屈んで、倒れているイリクや魔術師らを確かめる。


「先ほどの敵の動きから推測ですが、スケルトンは動いているものに反応しているようです」

「だから倒れている人間には関心を示さなかった……」

「こちらに向かってきたスケルトンは、ただ徘徊していただけかも知れません」


 フィーアは推測を口にした。階段を見上げていたシンザが一瞥した。


「では、こちらも動かなければ、スケルトンは何もしてこない可能性があります」

「了解。アマレロ、フィーアと前衛を交代。次にスケルトンと遭遇した場合は、その場で停止し、様子を見ます」


 ヴェルメリオは言った。


「素通りならよし。こちらが制止していても攻撃するようなら排除。その時は、フィーア、アマレロを援護」

『了解』


 つまり、本当に動くものにしか反応しないか、アマレロで実験するということだ。彼女は手甲装備の近接型。スケルトンが攻撃してくる距離なら、確実に拳の届く範囲なので、フィーアの拳銃よりも早く動ける、という判断だ。


 機械人形たちは、さらに進む。果たして、睡眠効果を広げているモノは何なのか?

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