第514話、黄金シリーズ
「そもそもだけどさ。船増やしても、動かせる奴がいないと意味がなくね?」
ライヤーが、実にもっともなことを指摘した。
確かに動かすクルーが必要だ。しかし、これに対するジンの答えは、至極単純だった。
「うちの機械人形たちを使えばいい」
彼の言い分はこうだ。
飛空艇を販売するにしても、それを操船する人員が必要になる。王国では、現役の飛空艇乗りをはじめ、元飛空艇乗りなどの経験者を集めて、人員の練成が行われるだろう。
つまり、国が先に動いているので、銀の翼商会が人員を探しても、先に手をつけられている可能性が高い。元軍の人員など、王国はツテがあるだろうが、ソウヤたちにはないのも大きい。
であるなら、銀の翼商会の飛空艇には、ジンの保有する機械人形たちで運用させる。
「どう思う? 機械人形を相棒に持つライヤー君?」
ソウヤが質問すれば、フィーアを連れているライヤーは。
「まあ、問題ないんじゃね。うちのフィーアは、おれがいない時にゴールデンウィング号の舵取っているし。ジイさんとこの、人形たちはスペック高そうだし」
「船を運用できる人数さえいればいいなら、それで問題はクリアだな」
どうせお客と交渉するのはゴールデンウィング号に乗っているメンツで、他の船は護衛だったり、物資の輸送をするのが主だから、外見さえ人に見えれば問題にならないだろう。
「そうと決まれば、船選びだが――」
ライヤーは、最終候補の3隻を見比べた。
トルドアの巡航船、タライヤ文明のバトルクルーザー。そしてゴールデンウィング二世号に似つつも横幅があって輸送量が多そうなレブリーク文明の飛空艇。
「甲乙つけがたいんだよなぁ」
「ワタシ、最後のレプリーク? この船がゴールデンウィング号に似てて好きよ」
ミストが言った。ソウヤも相好を崩す。
「もしかしたら、オレたちのゴールデンウィング号もこの時代の船なのかもしれないな」
そう思うと、不思議と愛着が沸いてくる不思議。性能自体は凡庸。他の2隻と比べると性能面で勝っている面がない。
「タライヤ船は攻撃力がずば抜けているんだよな」
ライヤーは腕を組む。
「だがトータルバランスじゃ、トルドア船が性能良すぎる」
ジンがまとめてくれた資料を見れば、攻撃力はタライヤ船最強。速度はタライヤ船とトルドア船が互角。レプリーク船は攻撃も速度も両者に劣り、もっとも高い貨物積載量も、タライヤ船を上回るがトルドア船にやや劣っている。
「ひとついい?」
クラウドドラゴンが口を開いた。
「人員の問題が解決するなら、何も1隻にこだわる必要ないんじゃない?」
「あ……」
ライヤーは目を見開き、ソウヤを見た。
「この3隻とも、ってダメかな?」
「どうなんだ、爺さん?」
「……いいんじゃないか」
ジンは顎髭を撫でた。
「確かに、人員は機械人形を充てるのだから、あえてひとつに絞ることはないな」
「爺さんが迷惑でなければそれでいい」
ソウヤは、飛空艇を見上げる。
普段の仕事には、レプリーク船かトルドア船を連れ、タライヤ船は用心棒よろしく敵対者の襲撃の時に活躍してもらおう。
「じゃあ、爺さん、この3隻もらっていくが、本当にいいのか?」
「ああ、問題ないよ。そのために選んだ船だからね」
老魔術師は頷いた。ミストがニヤリとする。
「じゃあ、この子たちの名前を決めてあげないとね」
「名前か、それもそうだな」
船には名前が付けられる。識別のためにも重要なことだ。この世の中には発掘飛空艇が主だが、同じ型の船がまったくないということもない。
何々船という呼び方もできなくはないが、個別のネームがあれば呼びやすい。特にこれからトルドア船が出回ることになるのだから、名前は重要だ。
「やっぱり、同じ商会の船なんだから、ある程度共通したところがあったほうがいいよな?」
「決まりではないが、わかりやすくはあるね」
ジンが賛意を示した。ライヤーが唸る。
「銀の翼商会……銀、翼……」
「船はゴールデンウィング二世号だから、むしろ金では?」
クラウドドラゴンは頭を傾けてミストを見た。
「じゃあ、ゴールド、ゴールデン……?」
ジンがメイド服の機械人形を呼び、船の移動と改修指示を出す間、ソウヤたちは頭を悩ますことになった。
・ ・ ・
銀の翼商会用に若干の改修を施す必要がある、ということで、3隻の飛空艇の整備と回収を浮遊島の機械人形たちに任せて、ソウヤたちはリッチー島へ戻った。
なお船の名前は、討論の結果、攻撃力最強のタライヤ船は『ゴールデン・ハウンド号』、トルドア船は『ゴールデン・チャレンジャー号』、レプリーク船は『ゴルド・フリューゲル号』と決まった。
黄金縛り。なおレプリーク船だけ、ソウヤの元いた世界のドイツ語なのは、レプリーク船とゴールデンウィング二世号が形がよく似ているため、頭のゴールデンが被らないようにするためだ。
おそらくこの2隻がもっとも行動を共にするだろうから、ゴールデンと言えばゴールデンウィング、ゴルドといえば、ゴルド・フリューゲルと判別しやすくするのである。
もっとも、ミスト曰く『ウイング号とフリューゲル号って言えば早くない?』だそうである。
さて、トルドア造船施設に戻ったソウヤたちだが、戻ってみたら何やら騒がしい。
「あ、ソウヤさん!」
セイジが気づいて、やってきた。
「何かあったのか?」
「地下の造船所の一角に横穴があって、そこからスケルトンが出てきたんです」
「スケルトン?」
アンデッド系の魔物の動く骸骨のことでいいのだろうか?
「で、そのスケルトンは?」
「たまたま近くを通りかかったフォルスを襲ったので、返り討ちにあいました」
「フォルスが!? 怪我は?」
子供ドラゴンが襲われたと聞いて、ソウヤは一瞬心臓が縮んだ。
「大丈夫です、怪我はありません」
「そうか、それはよかった」
ソウヤはホッとした。実の子供でもないのに、とても心配だったのだ。
「それで、今、カーシュさんとイリクさんを中心に、横穴の調査を行っているのですが……影竜が先に行ってしまっているそうで」
母親ドラゴンは激怒していたようだった。
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