第513話、選ぶのは難しい


 ソウヤは、ミストとクラウドドラゴンに島の周りを警戒するから、ドラゴン形態で乗せてもらえないかと頼んだ。


「いいわよ。退屈だから、島の周りを見て回ろうと思っていたもの」


 ミストは二つ返事で応じた。クラウドドラゴンは、ジンを無言で見つめていたが、頷いた。


「わかったわ。行きましょ」


 念話で話していたっぽい、とソウヤは思った。しかしそれで終わらなかった。


「なんだ、出掛けていいの?」


 アクアドラゴンが、ひょいと首をもたげた。


「それなら私は島の周りの海を泳いでくるわ!」


 アクアドラゴンさんは泳ぎたいらしい。どこまでも自由なドラゴンである。クラーケンがいないといいな、とソウヤは生暖かい目になる。


 話は決まった。


 お出かけすると、仲間たちに伝言しておく。


「オダシュー、任せたぞ」

「行ってらっしゃい、ボス」

「……イリク氏はどこにいるか知らないか?」

「造船所のほうです。あの赤毛のメイドさんのところで作業に同行してますよ」


 赤毛のメイドとは、ジン保有の機械人形であるヴェルメリオのことだ。彼女はこの遺跡施設の復旧と販売用飛空艇と装備の復活作業をしている。イリクは、それらの作業に興味津々なのだろう。


「何か伝言しておきましょうか?」

「いや、いい。出かけてくる」


 ソウヤは竜化したミスト、ジンはクラウドドラゴンに乗り、トルドア造船施設を出た。


「イリク氏は好奇心の塊だからな。トルドアの施設に気を取られているうちに、済ませるに限る」

『クレイマン王の浮遊島なんて聞いたら絶対ついてきたでしょうね』


 ミストが念話を飛ばしてきた。ソウヤは念話を習得していないが、ドラゴンは人の頭に直接言葉を送り込むことができる。


『それこそ、ドラゴンにしがみついてでも』

「あり得る」


 思わずソウヤは笑った。想像できてしまうのが恐ろしい。その時、ミストの頭が右方向を飛ぶクラウドドラゴンに向いた。


『ソウヤ、しっかりしがみついてて。ここから上昇するわ』


 クラウドドラゴンが急角度を描いて上昇した。ミストドラゴンもそれに随伴する。あまりに急角度だったから、しっかり掴まっていないと落下するかもしれなかった。


 立ち込める雲の一群を抜けると、そこには空に浮かぶ島があった。クレイマンの浮遊島だ。


 クラウドドラゴンの先導に従い、ソウヤたちも浮遊島へと向かった。



  ・  ・  ・



「お帰りなさいませ、ご主人様」


 メイドさんたち――機械人形の出迎えを受けた。ミストとクラウドドラゴンは人型になり、ソウヤはアイテムボックスからライヤーを出した。


「ひゃー、やっぱここに来るとテンション上がるなぁ!」


 ライヤーは元気だった。


 ジンはメイドたちに用件を告げた後、彼の飛空艇コレクションのある区画へと移動した。


「前は遠くから眺めるだけだったが、今度は近くで見れるぜ!」

「あんま、はしゃぐなよ、ライヤー」


 ソウヤは、子供のように目を輝かせるライヤーをたしなめる。もっとも、彼が昂ぶるのもわからないでもない。男の子にとって夢のような環境である。


 銀や紅玉、碧玉など、輝くような船体を持つ飛空艇がある。ソウヤたちがこの世界で見た飛空艇より大きく、どこかSFチックに見えるものもあれば、見慣れた帆船型のものなど、種類もさまざまだ。


「こりゃ、確かに売るのもったいねえよな!」


 ライヤーは、近くを通り際に船を見ながら言った。


「あのキラキラしているやつなんて、完全に観賞用だろ」

「いや、あれは戦闘用だよ」


 ジンは笑った。ライヤーは目を回す。


「ウソだろ? あんなのを戦闘に使うなんて、正気かよ! 壊れたらどうするんだ!?」


 ――やっぱ、こいつ置いてきたほうがよかったか。


 子供じゃあるまいし、と思った時、影竜の子供たちであるフォルスとヴィテスだったらどういう反応をしただろうか、と考えてしまう。


 フォルスだったら、ライヤーみたく珍しさでキャッキャとはしゃぐだろうか? あれで意外に乗り物に反応していたから男の子なのだろう。


 ヴィテスは、さして興味なさそうにするかもしれない。つーんって、はしゃぐライヤーみたいなのを冷めた目で見るかも。


 連れてきたドラゴンたちはと見れば、ミストもクラウドドラゴンもついてきながら船を観賞していた。時々指さしたり反応しているから、まったく興味がないわけではなさそうだ。


「実は先にある程度、船を見繕っておいた」


 ジンは、候補の飛空艇をコレクションから選別していた。

 通された先には、飛空艇が数隻並んでいた。ライヤーが手前の1隻を見て声を上げた。


「これ、地上で見たぜ。トルドアの飛空艇だ」

「そう。一応、あの船も見ていたから、もしかしたらと思ってね」


 販売用に準備しているトルドアの船。ゴールデンウィング号より一回り大きく、初見の感想では、見た目こちらのほうが強いかもしれないと思ったほどだ。


「トルドアの軍船だからね。攻撃性能は高い。船も大きい分、輸送量もある」

「悪くはないが、販売用と同じものっていうのもな」


 ソウヤが率直に言うと、ライヤーは苦笑した。


「船体の色を変えれば、宣伝に使えるんじゃね? アレと同じものを売りますよって」

「サンプルか。なるほど」


 商品を説明する意味でも、自分たちで使っているものなら説得力も出てくる。


「では、次」


 ジンが隣の船を見せる。


「今回、見せるもの中で、一番大きく、かつ武装が強力なバトルクルーザーだ」


 先のトルドア船より若干長い飛空艇だ。しかしほっそりした船体はむしろ速そうである。


「マストが1本か。しかもブリッジは船体中央寄りか」


 ライヤーは言った。トルドア飛空艇は、標準的なマスト2本の船だったが、こちらは1本。しかしかなり太くがっちりしたマストである。そしてマストの基部にブリッジがあった。


「船首にでかい大砲ついてるな」

「威力はあるよ。標準的飛空艇に当たれば、一発で撃沈できる」

「すげぇ……」

「ただし、戦闘に全フリしている分、船体の大きさの割に、物資の輸送量は多くない」

「魔王軍の船と戦うにはいいが、ふだんの仕事で使う分には不向きってことか」


 これからのことを考えれば、魔王軍の船と戦える性能はあると助かるが、あまりに強すぎると、『これが欲しい』となってしまう。


 ――そう考えると、船選びって難しいな……。


 拾ったモノを使う分には迷う余地などなかったのだが。


「ひと通り見ましょうか」


 クラウドドラゴンの一言で俺たちは、さらに船を見て回った。その結果、最終候補は三つとなった。

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