第491話、ヴィテスの行動
ソウヤたちが隠れ家に戻れば、確かにそこにはヴィテスがいた。
お説教のひとつも、という勢いだった影竜だったが、戻ってみると、当の子供ドラゴンは幼女姿でグッタリした。
「いったいどうした!?」
予想外の事態に影竜は慌てた。ドラゴン種がグッタリという例も珍しい。
リアハが、ヴィテスの代わりに言った。
「どうも気分がよくないみたいです……」
どこか叱責を恐れるような顔のリアハである。
「その、ヴィテスが言うには、具合が悪いので先に帰ると言ったそうなんですが……聞こえてなかったでしょうか?」
「うむ、聞いていない」
影竜はきっぱり言った。フォルスは、ひょこひょこと頭を動かし、それぞれの顔を眺める。
ソウヤは口を開いた。
「つまり、ヴィテスは体調不良で先に帰ってきた。一応、それを影竜に言ったが、当の影竜は聞き逃していた、と……」
「我が悪いのか?」
ムッとする影竜。リアハが言った。
「たぶん、ヴィテスの声も小さかったかと……。かなり具合が悪いようなので」
「体調不良なら仕方がない」
ソウヤは影竜をなだめるが、褐色美人姿の影竜は腕を組んで複雑な表情である。
「我はとても心配したのだぞ」
「……」
ヴィテスは眠ったまま動かない。
「この子は大丈夫なのか?」
「ええ、休めば大丈夫です。レーラ姉さんが、そう言っていましたから」
聖女であるレーラがそう言うのなら、大事にはならなかったようである。影竜は嘆息した。
「ならばよい。……フォルス、出かけるぞ」
「どこへー?」
「その辺りだ。ヴィテスを休ませてやれ」
影竜はそう言ってフォルスを連れ出した。騒がしい子供ドラゴンが近くにいると休めないという親の配慮だろうか。
「あんまり派手なことするなよー」
ソウヤは注意しておく。今は魔王軍の飛空艇が来ているのだ。隠れ家は遠いとはいえ、煙でも上げれば視認される可能性もあった。
影竜親子が去り、ソウヤは、リビングで寝ているヴィテスを見やる。そしてリアハへと言った。
「……ひとつ聞いてもいいか? 何を隠してる?」
「はい?」
リアハの声がわずかに上ずった。ソウヤは続ける。
「さっき通話している時、ヴィテスは魔力眼で魔族を監視しているとか言ってなかったか?」
ヴィテスは具合が悪いのではなかったのか? ぐったりはしているが、具合が悪かったからの早退が理由とどうも辻褄が合わない気がする。
その時、ヴィテスがパッチリと目を開け、頭を持ち上げた。
「さすがにアレは失言だと思った」
「ごめん、ヴィテス」
リアハが謝った。ソウヤは腕を組んだ。
「具合が悪かったってのは嘘か?」
「嘘よ」
ヴィテスは無表情のまま起き上がった。
――なるほど、仮病ならレーラも大丈夫と言うわな。
本当に彼女に診てもらったのかも怪しいが。そもそも、人間より遥かに丈夫で再生の早いドラゴンが、具合が悪いというのが珍しい。
「しかし、何でまた嘘を」
ヴィテスの視線がリアハへスライドした。ばつの悪い顔になるリアハ。
――ひょっとして、ヴィテスが消えた原因に、リアハが関係してる……?
そう言えば、真面目なリアハが今回はやけにヴィテスを庇う言動をした。原因が自分にあるから、ということかもしれない。……何が原因かはわからないが。
「私のせいなんです」
リアハが肩を落とした。
「ソウヤさんから魔王軍の船が現れたと聞いて、居ても立っても居られなくて……」
嫌な予感がした。彼女の今回の居残りも、魔王軍のエルフに対する非道な行為へ怒りを隠せなかったからでもある。
「ひょっとして、魔王軍の飛空艇を見に行こうとした?」
「はい」
コクリ、とリアハは頷いた。
「もちろん、私がどうこうできるとかではなく、敵の姿をこの目で見ておきたくて」
じっとしていられなかった、と彼女は言う。
「俺は隠れて待機って言ったよな?」
「すみません……。でも、そこへヴィテスが止めにきたんです」
ここでヴィテスの名前が出た。
「私が何故と聞いたら、『魔王軍と聞いて、あなたが飛び出さないか見に来た』って」
「ヴィテスが?」
子供ドラゴンが真っ先にリアハのもとへ現れた。それがソウヤには信じられなかった。
元から姿を消していたから、ソウヤや影竜たちとは離れていたのだろう。だが魔王軍と聞いて、すぐにリアハのもとへ駆けつけた――意味がわからない。
リアハは続ける。
「――それでヴィテスに注意されたんです。『ここに残って魔王軍を待っていたのは、連中のアジトを突き止めるため。あなたの軽々しい行動で、それを無駄にするつもり?』って」
ソウヤは、ヴィテスを見る。幼女な彼女は無表情のまま、つーんとそっぽを向いた。
――こいつ、本当にフォルスと同じ時に生まれた子か?
態度といい、暴走しそうなリアハを止めに駆けつけた思考と行動。ドラゴンが早熟とはいえ、兄弟と比べると出来が良すぎないか?
「それで……ヴィテスに注意されて、リアハは隠れ家に戻ったと?」
「はい。私が軽率でした。ごめんなさい」
リアハが頭を下げた。理性的な感じの彼女にしては、今回は感情が抑えられなかったというところか。ヴィテスがそれを収めてくれたというわけだが。
「リアハを止めてくれたのはよくやった。でも一言、言ってくれてもよかったんじゃないか?」
影竜も必死に探したのだ。たった一言で、回避できたことも――
「それは謝る。ただ、あの時すでに側にいなかったし、仮に念話で言っても、あなたはあのまま行かせてくれた?」
ヴィテスは淡々と問うた。リアハが心配だから、とか言われたとして、ソウヤたちはヴィテスをそのまま行かせたか?
「いや……。たぶん、行かせなかったと思う」
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