第490話、捜索にも関わらず
ヴィテスが消えた。
魔王軍の飛空艇が現れ、緊張感が増す中、ソウヤたちは消えた子供ドラゴンを探す。
「魔族とは関係ないとは思うが……」
飛空艇はこのダンジョンに現れたばかりだ。地上に降りていないから、いきなりヴィテスをさらうなどはあり得ない。
森のモンスターと何かあったのか、影竜の言う通り、修練を抜け出して居眠りでもしているのか。
「まさかとは思うけれど――」
ミストが顔をしかめた。
「飛空艇にいち早く気づいて、近づいて行ったとか?」
「ゴールデンウィング号だと思ってか?」
ソウヤは首を捻る。ヴィテスが、そんなに銀の翼商会の飛空艇を気に入っているのだろうか? ソウヤ自身、彼女とほとんど会話を交わしたことがないから、いまいち性格がわからない。
「ソウヤのお船と形が違うよー」
フォルスが、魔王軍の飛空艇を思い出しながら口を尖らせた。
「先端がビョーン、ってながかった。あとお羽根が鳥みたいにおおきかった」
確かに、とソウヤは頷いた。
ゴールデンウィング二世号に比べて船首が長く、しかも体当たり用と思われる大きな衝角がついていて、主翼もかなり大型のものが付けられていた。マストは一本。しかし風力頼みではないためか、帆は張られていない。
「見間違える、とは思えないが……どうなんだ?」
フォルスは見分けがついているようだが、あれでまだ幼い子供ドラゴンである。
子供というのは興味があるとすぐに飛び出していくものだ。魔族のこともいまいち理解していない、ということがあれば、敵の前に不用意に飛び出してしまうこともあるだろう。
「むぅ……」
影竜が苛立ったまま、森の中を見回す。
「いっそ、あの飛空艇を落としてしまおうか。そうすればこんな心配しなくて済む」
「馬鹿ねぇ。それをやったら、ここに来た意味ないでしょうが!」
ミストがさっそく指摘した。ソウヤは森の中を見回す。
「ミスト、こっちはオレたちでやる。魔王軍の船の様子を監視してくれ」
「わかったわ。……影竜、くれぐれも早まらないでよ!」
「わかってる! さっさと行け」
煩わしそうに返しながら、茂みを掻き分けて進む影竜。
ミストが離脱し、ソウヤ、影竜、フォルスは森の中をヴィテスを探して回った。これといってモンスターには遭遇しなかった。
だが子供ドラゴンの姿はどこにも見当たらない。
・ ・ ・
『魔王軍の飛空艇は、城の近くに降りたわ』
ミストからの連絡を受けた。監視を続けている彼女曰く、ダンジョンに作った拠点が破壊されている現場に飛空艇は到着。しばし滞空したのち、地上に着陸したという。
生存者の捜索と、破壊の原因の調査をしているらしい。
「そっちに、ヴィテスが現れた、とかないよな?」
『まだ見つかってないの?』
呆れも露わなミストの声が通信機から聞こえる。ただいま個人通話にて会話中。
『ええ、こっちには来ていないし、魔族たちも調査以外に動きはないわね』
「そうか」
『早く見つけてよね。こっちに出て連中に見つかったら、戦闘は避けられないわよ』
「そうする。引き続き頼む」
『了解』
通信機が切れた。ソウヤはため息をつく。
「本当に、どこへ行っちまったんだ、ヴィテスは?」
探し始めて、それなりの時間が経ったが、子供ドラゴンの姿はどこにもない。
「広い森だ。迷子にでもなったか……?」
「かくれんぼー」
フォルスがガサガサと茂みを漁った。
その時、通信機が鳴る。
「俺だ」
『あー、えっと、私です』
リアハの声だった。これは電話に出る時は互いに名前を名乗るほうがいいかもしれないと感じた。特に、レーラとリアハは姉妹だけあって声が似てる。
『すみません。魔王軍を追っているかもしれないと思ったのですが――』
「ああ、それはミストがやってる。いまちょっとトラブっていてな」
『トラブルですか? 救援が必要ですか!?』
もし座っていたなら立ち上がる勢いを感じさせる声だった。
「いや、影竜たちといるんだが、ヴィテスが行方不明でな。魔族に見つかると面倒だから探しているんだが……」
『ヴィテスですか……?』
通信機の向こうでリアハの声のトーンが下がった。魔王軍絡みでないから拍子抜けしたのかもしれない。
「隠れんぼのつもりなのか、森の中だからか見つからねえんだわ」
『……非常に言いにくいのですが――』
リアハは申し訳なさそうに言った。
『ソウヤさん。ヴィテスはここにいます』
「は?」
聞き違いかと思った。
「ヴィテスが、そっちにいる?」
『ええ、私と一緒にいます。いま、ヴィテスの魔力眼で魔族の動きを監視しています……』
監視――ソウヤは嫌な予感がした。
「リアハ、今どこにいる?」
『隠れ家ですが……。あ、大丈夫です。飛空艇の様子を見に外へとか、それはないですから!』
そこまで言っていなかったが、ソウヤの不安を察したような返事がきた。
「わかった。皆、一緒なら問題ない。ヴィテスもそこにいるんだな?」
『はい、ここに』
「ならいい。俺たちも気をつけて戻る。それじゃ」
ソウヤは通信機を切ると、通話の様子を見ていた影竜と目が合った。
「ヴィテスは見つかったのか?」
「ああ、隠れ家にリアハたちといるってさ」
「みつかったー」
「そうだ。見つかった」
ソウヤはフォルスを捕まえて、影竜の元へ歩く。母ドラゴンは、ホッと一息ついていた。親として子の無事を聞き安堵しているのだろう。
「オレたちも隠れ家に戻ろう」
とんだ時間の浪費だった。ヴィテスが見つかってよかったが、ふとソウヤは背筋が冷えた。
子供が行方不明になって、それが見つからない状況。それがもしずっと続いたらなら、どれだけ精神を保ち続けることができるのだろうか、と。
神隠し。行方不明のまま、一生会えない事態だって起こり得る。それを思えば、見つかってよかったと心から思えた。
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