第489話、ヴィテス、消える?


 魔王軍らしき飛空艇が現れた。ソウヤは通信魔道具で、隠れ家付近にいるレーラとリアハに報せた。


『魔王軍ですか!?』


 リアハの声が即返ってきた。


『どこです!?』

「いいから。こちらがいることがバレないように隠れて待機だ」


 魔王軍が現れたら、どこへ帰るか追跡するのが目的である。戦闘は避けれるだけ避ける。


 リアハは、ここの魔王軍拠点で行われていたエルフへの非道なる仕打ちに頭にきて残った口だ。下手に突っかかれても困る。


「いいな、リアハ」

『了解です……』


 どこかすっきりしていないような返事だった。あとでフォローは必要かなと思うソウヤ。


「……レーラ、聞こえてるか?」


 返事がないので確認してみる。少し待つが、応答がない。ペンダント型の通信機だから携帯していると思っていたが――


 ミストの目がソウヤを見た。


『出ないの?』

「外して別の場所にいるとか、かもしれない」

『お風呂?』

「さあ。何かの拍子に外したまま忘れているかも」


 何となく、うっかり忘れてそうなイメージがあるレーラである。特にそういうエピソードもないはずなのだが、何故かそう思う。


『――あ、え……これ繋がってますか?』


 通信機から慌てたレーラの声が聞こえた。


 ――よかった。通信機を持っていた。


 連絡が取れず、魔王軍に気づかずに見つかるなんて事態は避けられそうだった。不安がひとつ解消。


『ソウヤ様、聞こえますかー?』

「何故ささやき声?」


 耳元に当てる携帯電話だったら、ゾワゾワっと耳をくすぐられたかもしれない。まだレーラは通信機に慣れていないのだろう。


「さっきの話は聞こえたな? 魔王軍が来ている。隠れ家で待機。……今、隠れ家だよな?」


 ソウヤたちが出掛ける前は隠れ家にいた。


『隠れ家です。見つからないように大人しくしています。メリンダも一緒です』


 言われるまで、メリンダのことを忘れていた。


『ソウヤ様たちもお気をつけて』


 通信機が切れた。ふぅ、と息をつくソウヤは周囲を見回した。


 うーん、と唸っているフォルス。ミストは黙したまま、木々の裏から見えない空を見ている。魔力眼で追っているのだろう。


「影竜、ヴィテスと連絡はついたか?」

『まだだ。呼びかけているのだが、返事がない!』

『あんたの娘でしょ。何とかしなさいな』

『うるさい、ミスト! やってるだろう!』


 こんな時でも喧嘩じみたやりとりが出る。ソウヤは首を振る。


「飛空艇は来たばかりなら、森から出なければ見つからないだろう。連中が目指しているのは奴らが作った城だろうし」


 広大なダンジョンである。魔王軍の飛空艇には見張りがいるが、味方の支配領域だと思っているはずだから、そこまで念入りに警戒はしていないだろう。


 むしろ、安全領域に入って気が抜けている説さえある。


「ミスト、どうだ?」

『ここのダンジョンで作られていた飛空艇と同型ね。ゴールデンウィング号より大きいわ』


 アクアドラゴンが城とドックを破壊し、水没していた飛空艇しか見ていないが、数十人規模の乗組員はいると思われる。


『城のほうへ飛んでいる。あいつら、廃墟になった城を見てどう思うかしらね?』

「ぶったまげるだろうな」


 まさか秘密拠点が綺麗さっぱり流されたように破壊されたなど、想像だにしていないだろう。


「そうなると……連中が取る次の行動は――」

『周辺の警戒。次に拠点が何故破壊されたかの調査』

「周辺を捜索されると厄介だな」


 さっさと自軍拠点へお帰りいただいて、この惨事を報告して欲しいものだが。


「……生存者の捜索もあるか?」


 魔族とて仲間を探すくらいはするだろう。仲間の身を心配するというのはともかくとして、何があったか知るためにも生存者がいないか探すだろう。


「問題はどこまで探すか、だが……」

『どうせ、城周りだけでしょうよ。隠れ家のほうまでは来ないと思うわ』

「断言できるか?」

『断言はできないけれど、このダンジョン相当広いもの。隠れ家が目立つならともかく、そうでなければ、よくある自然の一部にしか見えないわ』


 それに――とミストは首を回した。


『味方が一番来てくれそうな場所って、あの城だもの。生存者がいるとしたら、その近くにいると考えるのが自然だと思うわ』

「だな。……まあ、生存者はいないんだけどな」


 ここに留まってから数度、城跡に足を運んだが、魔族の生き残りとはついに会わなかったし、野宿をしている痕跡もなかった。


「近づいて様子を見ようかと思ったが……やめたほうがいいかな?」

『大人しく隠れ家にいたほうがいいかもね。大丈夫、ワタシの魔力眼が見ているから』

「オーケー。じゃあ、連中が城跡に気を取られている間に、オレたちも隠れ家に戻ろう。……問題は、ヴィテスか?」


 まだ連絡が取れない子供ドラゴンが心配だ。ここは拠点から距離があるから、近づかなければ発見される可能性は低い。


 ここにはモンスターもいるから、うまく誤魔化される――かどうかは少し不安要素である。何せドラゴンは珍しい。それも子供ドラゴンと来れば、土産代わりに捕獲などと考えるかもしれない。


「勝手なことをしないといいんだが……」

『我はヴィテスを探すぞ』


 影竜が森の中へと入る。ソウヤはミストドラゴンの背から降りる。


「わかってる。ヴィテスを見つけてから引き上げる。だが目立つのもよくない。人間に変身して探してくれ」


 ドラゴンの巨体だと遠方からでも不自然な木の揺れが見えてしまうかもしれない。人サイズならば、茂みを揺らしても木の枝を動かすことはない。飛空艇からは見えないはずだ。


「てか、ここまで来ると、ヴィテスの身にすでに何かあったかもしれないな……」

「あり得るわね」


 ミストもドラゴンから美少女形態に変身しながら言った。フォルスが難しい顔をする。


「単におねんねしてるだけじゃないー?」

「かもしれないな」


 美人姿になる影竜も同意した。


「気を抜くと、すぐ居眠りする。困った奴だ」

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