第477話、二手に分かれよう
ダンジョンの中、森の加工場にソウヤたちは来ていた。
昨日置いていったダンジョン木が、木材に加工されていた。
「本当に一日でできたのか!」
「信じられないね」
ライヤーも呆れ顔だ。一方でイリクは非常にウキウキしていた。
「妖精の力とは凄いものですな。実際、どうやっているのか見てみたいものです」
「親父殿、妖精は人前で働くのを嫌うと聞きます。おそらく無理でしょう」
サジーが、興奮しっぱなしの父をなだめた。
暗黒大陸に行く――ソウヤたち銀の翼商会で決まったが、その前にいくつか片付けておかないといけないことがある。
飛空艇を発注したルガードークに木材を持って行く約束がある。魔王軍のことが気がかりではあるが、飛空艇の生産も重要案件である。
そして保護したエルフたちの処遇。
「この度は、魔王軍より助けていただきありがとうございました」
エルフの代表者がお礼を言った。
精神的にショックを受け、弱っている者も多かったが、ひとまずダンジョンを出て彼らの集落に戻るという。
「大丈夫なんですか? また魔族が攻めてくるかもしれません」
「その可能性はあるでしょうな。近隣のエルフたちと対策を講じて、軍備を整えるか、あるいは移動するか、話し合うつもりです」
この辺りに住むエルフとして、まずはエルフ種属間で決める。
「そうですか。必要なことがあれば、おっしゃってください」
「はい、ありがとうございます、勇者様」
魔王を討伐した勇者――ソウヤは、エルフたちには隠さなかった。
ゴールデンウィング二世号で、エルフたちを集落まで送り届けるとして、続く問題は――
「またこのダンジョンに魔王軍がやってくること」
ソウヤはジンと顔を見合わせる。
「ここに飛空艇の造船所と、浮遊装置の製造工場を作っていた。外部とまったくやりとりがないはずがない」
「物資の輸送や補給……。例の浮遊装置も運び出されているからな。ここの城が破壊されたことは、いずれ魔王軍にも露見する」
老魔術師の発言に、ソウヤは頷いた。
「連中は施設を失ったが、また再建しないとも限らない。魔王軍がやってこれないようにできねえかな」
「テーブルマウンテンの入り口を塞げばいい。ダンジョンだから地形の操作は可能だ。我々が来た時だけ開くようにすれば、ダンジョン木と加工済み木材の利用はできる」
そこでジンは顎髭を撫でた。
「いっそ、暗黒大陸に行かなくても、ここで魔王軍が来るのを待ち伏せたほうがいいかもしれない」
「あ」
思わず声に出るソウヤ。
「そうか。連中が行き来しているなら、それを捕まえたほうが確実か」
相手が魔王軍だと確定しているのだ。捕まえて拠点の場所を吐かせるなり、わざと泳がせてアジトまで案内させる手もある。
「どうだろう、ソウヤ。我々がここを離れる時にダンジョンを封鎖しようと思ったが、木材を運び出している間、ここで魔王軍の輸送部隊なりを見張る者を残すというのは?」
「そうだな」
ルガードークの用事も済ませないといけないが、同時にこなせるなら、それが良策に思えた。
「爺さん、ルガードークの案件はあんたとライヤーに任せていいか?」
「君がここに残るというのかね?」
「銀の翼商会の長としてはどうかと思うがな。どの道、飛空艇についてはオレより爺さんたちのほうが細かいところまで対応できる」
飛空艇関係の知識量が違う。最終的な判断はソウヤがすることにはなるが、船に関しての知識や確認については、ソウヤの手に余るのも事実である。
「こっちにはミストを残す。彼女はドラゴンだから、いざとなればオレを運べるしな」
ミストに乗せてもらって敵を追跡したり、ルガードークへ飛んでゴールデンウィング二世号と合流することもできる。
「君以外は彼女は乗せないだろうね。了解した」
ジンは了承した。
「とはいえ、我々がルガードークに行っている間に、魔王軍がここに来るという確証もない。暗黒大陸での情報収集についても詰めておく」
「おう、任せたぜ。方法はいくつあっても困るもんじゃねえからな」
ソウヤは親指を立てた。
というわけで、しばらく別行動になることを銀の翼商会の面々に説明しておこう。
・ ・ ・
「おかしい。どうしてこうなった?」
ソウヤは、飛び去るゴールデンウィング二世号を見送る。
「まあまあ、いいではないですか」
レーラはコロコロと笑った。
ソウヤの最初の考えでは、自分とミストだけで残って見張ろうと思っていた。
ところがリアハが志願し、それならばとレーラが続き、彼女の護衛を自負しているメリンダが加わった。
リアハが何を考えて志願したのかは推測だが、エルフたちのことが裏にあったのだろう。あまりに引かない態度に、ミストはソウヤに耳打ちした。
『認めてあげなさいな。でないと彼女、浮遊ボート持ち出して何をするかわかったものじゃないわよ』
エルフたちが虐げられた件で、リアハは相当お怒りのようだった。
浮遊ボートという移動手段もあることから、しぶしぶ同行を認めたら、レーラとメリンダまでついてきたというのが真相である。
が、彼女たち3人だけに留まらなかった。
「で、何であなたたちがいるのよ?」
ミストが半眼を向ければ、影竜は悪びれた様子もなく返した。
「たまには自然環境で訓練させないと、子供たちに経験が積ませられない」
フォルスとヴィテスのチビドラゴンも一緒だった。
「まあ、いいけど。こっちは魔王軍の動きを見張ろうってわけだから、邪魔はしないでよね」
「貴様に言われるまでもない。邪魔はしない」
影竜は言うと、子供たちに向き直った。
「じゃあ、ブレスの練習だ。撃ちまくっていいぞ!」
「はーい! ねえ、ソウヤ。ボクのドラゴンブレス見てみてー!」
「お、おう……」
アイテムボックス内では自重していたブレスの練習をするつもりらしい。
――そりゃあ、中じゃ撃てないもんなぁ。
ソウヤは影竜の思惑を理解し、魔王軍が現れるまではドラゴンたちの好きなようにさせるようにした。
どうせ、敵が来ないことにはすることもないのだから。
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