第471話、魔王軍の秘密拠点
魔力眼は遥か彼方を見通す。ドラゴンの目は遠くにいながら、それを見通す。すでに場所については、ミストが偵察済みだったからより正確に探れる。
「連中、だいぶ落ち着いているようね」
目を伏せて、ミストが告げた。
「たぶん、先ほど送ってきた連中でこちらが始末できると信じて疑っていないよう」
「まあ、結構な数がいたみたいだからな」
ソウヤは頷く。聞いた話では、ワイバーンやグリフォンが20以上、魔族も入れたら二百近くいたという。
「普通に考えたら、充分な戦力だったはずだ」
「敵が油断しているならいい」
ジンが口を開いた。
「一気に攻撃しよう」
かつての弟子が作ったダンジョンに魔王軍がいるのが不愉快なのだろう。いつになく攻撃的である。
「それにしても、連中はここで何をしていたんだろうな?」
「その答えが見えてきたわ……」
ミストが首を傾けた。
「これは……飛空艇?」
「飛空艇!?」
思わぬ単語に、ソウヤもジンも驚いた。
「魔族の飛空艇?」
「複数……すり鉢状の大きな飛空艇用のドックに十隻以上ある」
ミストの表情が曇る。
「建造中のようね。半分くらいがもうほぼ完成しているみたい」
このダンジョンの奥で、魔王軍が飛空艇を作っていた。ソウヤはジンと顔を見合わせた。
「この飛空艇は……」
「おそらく、人類との戦争に用いるつもりだろう」
老魔術師は腕を組んだ。
「人類が古代文明の遺産として飛空艇を発掘しているのだ。魔族だって掘り起こして自分たちのために利用してもおかしくはない」
「人類は一歩も二歩も出遅れたな」
ソウヤは眉をひそめた。
こちらは、ようやく人工飛行石を作って船を作っていこうとしているのに、魔王軍はすでに量産を始めているという。
「やっぱ連中も、このダンジョンで飛空艇用の材料を回収していたんだろうか……」
「そうもしれんな。ダンジョン木は、すぐに生えてくるからね」
ジンは顎髭を撫でた。
「この人がやってくることのない場所で、兵器の生産をしていたわけだ」
「オレたちが訪れなかったら、連中は気づかれることなく飛空艇を大量に揃えていたかもしれないってことか」
自然と険しい顔になるソウヤ。虎視眈々と牙を研いでいた魔王軍。エンネア王国での魔王軍拠点の一斉攻撃で、敵の侵攻計画を挫いたと思っていた。
だが敵は、準備を続けていたのだ。
「これは僥倖だ」
ジンは手を合わせた。
「いま、ここで魔王軍の建造拠点を破壊する。幸い、こちらには弟子の残したガーディアンモンスターがある。攻撃を仕掛けられる」
本当なら銀の翼商会単独で、魔王軍の城を攻略するのは難しい。ドラゴンたちのブレスがあればかなりのダメージを与えられるだろうが、完全破壊できるかは規模にもよる。
「しかし、魔王軍の飛空艇か……」
「ボス、考えていること当てようか?」
ライヤーが言った。
「連中の飛空艇を分捕れないか、だろ?」
もし魔王軍が作っている船を鹵獲して、人類側で使えたら――慢性的な飛空艇不足を補う手になるのではないか、と少し考えた。
しかし、ソウヤは首を横に振る。
「いや。魔王軍の飛空艇がどんなものかとは思った」
「確かに。興味はあるな」
古代文明時代の発掘品を元に、量産していれば人類側でも転用できるかもしれない。が、魔王軍が独自の技術で作っていたとしたら、人間の手に余るものの可能性だってある。
「おどろおどろしい悪魔とか骸骨デザインの船だったらどうする?」
いかにも魔族が好みそうなグロテスクな船だったなら、乗りたくはないだろう。
「骨組みや装甲が得体の知れない肉や骨だったらどうする?」
「どうなんだい、ミストさんよ?」
ライヤーが問えば、ミストは目を閉じたまま魔力眼の光景を見続ける。
「船の部分は一般的な飛空艇ね。マストもあるし、ブリッジは後ろ。ただ船首が巨大な角みたいになっているわ。いかにも体当たりで相手を貫くみたいな」
「攻撃的だ」
ソウヤが肩をすくめ、ミストは続けた。
「船体側面に翼が四枚。いかにも生物的で、まるで悪魔の翼を模しているみたい」
「悪趣味だ」
ライヤーは首を振った。ジンはソウヤを見た。
「私としては鹵獲するより、さっさと破壊してしまうべきだと思う」
「ああ。敵の拠点には大勢の魔族がいるだろう。こいつらを相手にしながら船を手に入れられるほど、こっちに余裕があるわけじゃない」
「提案いいか?」
そこでカマルが話に入ってきた。
「一度、このダンジョンから引き上げて、増援を引き連れて戻るというのは?」
手が足りないなら味方を呼ぶ。魔王軍の飛空艇がどの程度の性能か気になるし、奪取できるならやる価値はある。一理あるが――
「駄目だ」
ソウヤはバッサリと否定した。
「時間を置けば、連中が送り出した部隊の全滅が城の魔族たちにもバレる。そうなったら、ここを放棄するか、あるいは守りを固められちまう。つまり、どうにかするなら今しかない」
「建造中の船を放り出すとは思えない」
ジンは眉間にしわを寄せた。
「ということは、敵はより戦力を固める。次に援軍を引き連れてきた時は正面からの激突となるだろう。攻撃しよう」
「もう、間もなく見えてくるはずよ」
ミストが目を開いた。
皆の視線がゴールデンウィング号の船首に向く。と言っても、ブリッジからは見えないのだが。
「敵の見張りも、こちらが見えているはずだわ。さあ、戦いの始まりよ!」
「覚悟を決めろよ」
生き生きし出したミストをよそに、ソウヤは表情を引き締めた。
魔王軍の城への攻撃――本格衝突の火蓋が切られようとしていた。
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