第470話、ガーディアン戦隊、合流す
ソウヤたちはゴールデンウィング二世号に戻った。
「うーん、ちょっとやられたか?」
飛空艇の船体に、小さな焦げ跡がいくつか見えた。レーラが沈んだ顔するが、ジンは淡々と言う。
「大きな損傷はなさそうだな。表面が少し焦げた程度だ」
「防御障壁のおかげだな」
ゴールデンウィング号に搭載された魔法的防御装備がある。それがなければ、もっとひどいことになっていたに違いない。
「それにしても――」
メリンダが口を開いた。
「異様な光景ですね」
ゴールデンウィング号の周囲には、ジンがゴーレム飛行船と呼ぶ飛行物体が複数浮かんでいた。
浮遊ボートは甲板に到着する。イリクとセイジが待っていた。
「お帰りなさい。そちらも無事で何よりでした」
「大変だったな。被害は?」
「船体に軽微な損傷はありますが、ライヤーとフィーアの確認したところでは致命的な被害はありません」
イリクに続き、セイジが答えた。
「負傷者は数人でましたけど、ダルさんの魔法で回復しました」
「重傷者がいなくてホッとした」
ソウヤは正直だった。死者が出ていたらたまらない。イリクがソワソワしはじめた。
「それで、この周りの古い時代の飛空艇ですが――」
「先にも通信機で伝えた通り、このダンジョンの主が作り上げた防衛装置だよ」
ジンが答えた。
イリクが古い飛空艇と言ったのは、飛行船型だからだろう。
現状発掘されている飛空艇は飛行石を搭載し、プロペラを回して推進力を得るエンジンを有している。
ガス袋を備え、吊り下げられた船体――ゴンドラが小さめな型は、この時代の人間からみてもあまり馴染みがないのだろう。
「まあ、プロペラで推進力を得ているのはこれも同じだよ」
巨大なガス袋は飛行石の代わりである。乗員用の船体が小さいのも重量と浮力の兼ね合いだ。
「しかし、よく味方に引き入れましたね、ジン殿」
「なに、私は昔ここに来ているからね。装置の存在を知っていただけだ」
老魔術師が、いかにも年の功と言わんばかりの態度をとった。イリクは感心する。
「まったく興味深くはあります。それにあの飛竜に見えるもの……あれは、ガーゴイルですな?」
飛行船のガス袋の上面に行儀よく並んでいるガーゴイルたち。魔法生物とも人工物とも言われるそれは、一般的には悪魔や怪物をかたどった彫刻の姿をしている。
ファンタジーゲームなどでは侵入者を阻む石像。リアルな話をすれば雨どいであり、排水口である。この世界では、もちろん前者である。
「あれだけの数のガーゴイルを見るのは初めてです。もちろん、あの姿のも」
「ダンジョンの防衛用に作られたものだからね。人がいなくてもここを守れるように」
そう口にして、ジンは怖い顔になった。
「残念なことに、魔王軍の手の者がここに入り込み、城を作っている」
かつての弟子が作ったダンジョンである。その庭を荒らされて、お怒りのようだった。
「ソウヤ、私は魔王軍の拠点を潰したいと思う」
「それに同意するぜ、爺さん」
ソウヤは頷いた。
「魔族が人のこない場所で拠点を作るなんざ、何か悪い企みでもしているってことだ。捨て置けない」
「魔王軍の企みは阻止せねばなりません。むろん、私も攻撃に同意いたします」
イリクが賛意を示した。ミストがその後ろから現れる。
「ワタシも乗った! 吹き飛ばしてやりましょう!」
「やられっぱなしというのも面白くないですし」
セイジも力強く首肯した。
魔王軍の先制攻撃を受けた。船にいた面々も襲われたという事実を前に反撃を望んでいた。大半が戦闘員だから、怖じ気づくどころか戦意は旺盛だった。
大きな被害を出すことなく乗り切ったから、というのもあるだろうとソウヤは思った。これが多くの死傷者が出たり、船に大きな損傷を被っていたら、こうはならなかったに違いない。
そして魔王軍の大部隊の攻撃を受けてなお強気でいられるのは、ジンが起動させたダンジョンガーディアンが味方として存在していることもある。
ゴールデンウィング二世号の周りには、その全長の3倍はあろうかと思われる飛行船が9隻。さらに増えつつあった。
ちょっとした空中艦隊である。さらに艦載機としてプテラノドン型ガーゴイルが搭載されており、先ほど襲撃してきた敵を数で上回っていた。
「ようし、一丁、連中の拠点を叩きに行きますか!」
ソウヤは腕を打ち合わせた。――今度はこちらの番だ。
・ ・ ・
かくて銀の翼商会と飛行船型ゴーレムによるガーディアン戦隊は、ダンジョン内にある魔王軍拠点を目指した。
ダンジョン内だが広大な空間ゆえ、空を飛んでいるにも関わらず、目視できるまで少々時間がかかる。
――どれだけ広いんだ、このダンジョン!
ゴールデンウィング二世号を中心に、ガーディアンモンスターは航行する。ライヤーは口笛を吹いた。
「――へえ、あれゴーレムなのかよ、ジイさん」
イリクからもあれこれ質問をされたジンだったが、ライヤーもまた興味を持っていた。
「あんだけでかいのに無人なんだな」
「というか、乗る場所がないのだよ」
ジンはゴンドラ部分を指さした。
「あれがゴーレムの本体でね。ゴーレムのコアと電撃砲が積まれているのだ」
「へぇ……。ひょっとして、その砲座撤去して、人が乗れるようにすれば、普通に飛空艇としても使えるんじゃね?」
「使えるよ。要は、何を載せるかの違いだからね。もちろん、改造は必要だが」
「まったくもって素晴らしい!」
イリクが話に入ってきた。
「ゴーレムと言えば人型。それもまた思考が硬直していた! 何故、人型でないゴーレムという考えに至らなかったのか! 目から鱗が落ちました!」
興奮するイリクに、ライヤーとジンは顔を見合わせた。
「あの人はいつも楽しそうだな」
「そうだね」
和む雰囲気に、同じくブリッジにいたソウヤは苦笑した。そしてミストへと向き直る。
「で、魔王軍の動きは掴めそうか?」
「……いま、魔力眼で見てる」
ミストは瞳を閉じ、魔力の目で敵の城を探っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます