第469話、森林ダンジョンのガーディアン
時間は少し巻き戻る。
ミストを先行させ、ソウヤたちを乗せた浮遊ボートは針路を変更した。一刻も早く船に合流したい思いはあっても、ボートの低速ぶりは閉口である。
一度、魔力ジェットの試作を乗せたことはあるが、いま浮遊ボートにジェットは積んでいない。
「で、どこへ行くんだ、爺さん?」
「このダンジョンの予備制御施設」
ジンはボートを操縦しながら答えた。
「制御施設?」
「ここは人工的に作られたダンジョンだ。当然、作る時に使用した拠点がある」
老魔術師は言った。浮遊ボートは、加工場へ行く道中に見かけた湖に差し掛かる。レーラが口を開いた。
「さっき見かけた水から木が生えている場所に向かっています?」
「そうだ。行きの時は、入り口がどうなっているか見るつもりだったんだがね。入り口のある場所は水没して木が生えていたから、ああこれは地下に入り口を隠したと確信した」
浮遊ボートは対岸へと移動する。水面から伸びる大木が数本あるが、言われてみれば中央から左右に均等に配置されているように見えた。
「で、爺さん。入り口が水の中じゃ、入るためには潜らないといけないか?」
え――と、メリンダが声を出した。
「私、泳げない……」
「心配しなくても、泳ぐ必要はないよ」
ジンはやんわりと言うと、目を閉じた。瞑想――いや、何かを探しているようにも見える。やがて音がして、水面が盛り上がった。
「湖の中から地面が!」
レーラが声を弾ませる。ソウヤも苦笑した。
「こんなところに隠してんのかよ」
陸地が現れ、さらに石の門が左右に開いた。ジンは浮遊ボートをその開いた門の奥へと滑り込ませた。
「おいでおいで、してやがるぜ」
石ブロックで作られた通路。これぞまさしくダンジョンといった様子だ。ジンがボートを降り、ソウヤたちも続いた。
「こっちだ。少し早く歩こうか。のんびりしていると船が危ない」
こうしている間にもゴールデンウィング号は魔王軍から攻撃を受けているのだ。
コツコツと靴音を立てて、ソウヤたちは通路を進んだ。
「おい、行き止まりだぞ?」
立ち塞がる壁。一本道だったから道を間違えたわけではない。ジンは前に出た。
「慌てない。これはいわゆる侵入者にお帰りいただくトラップというやつだ」
老魔術師が指先をスライドさせると、壁と思われたそれが重々しく動いて、道を開いた。
「なるほど……」
ソウヤは頷く。先へと進むと、またも行き止まりにぶつかった。
「爺さん?」
「今度はこっちだ」
正面ではなく、行き止まりの右の壁。ゴゴゴ、と石の壁が口を開くのを見やり、レーラは感心する。
「真っ直ぐじゃないんですね?」
「ここにきたということは、一枚目をクリアしたということだからね。同じパターンだと思って正面を頑張っても無駄に労力を使うように、さ」
「意地が悪い」
メリンダが思わず言えば、ジンは楽しそうに相好を崩した。
「ダンジョンマスターというのは、すべからく意地悪な存在だよ」
そうやって三枚ほど行き止まりトラップを抜けて、ようやく制御室に到着した。
「で、爺さん。ここにきて意味があったってところを見せてもらおうか」
ミストが先行したとはいえ、ゴールデンウィング号もいよいよピンチになっているかもしれない。
部屋の中央に高さ1メートル半くらいの柱がある以外、何もなさそうだった。真っ暗で見えないだけかもしれない。
ジンはその柱のてっぺんに手を置いた。するとその手に収まるように球体が現れ、室内に明かりが灯った。
壁の四方に光が浮かび、外の景色を映しだした。まるで大スクリーンのようだった。
「あ、ゴールデンウィング号です!」
レーラがスクリーンのひとつを指さした。飛空艇の周りに魔法がほとばしり、魔族が飛び回っている。
「一進一退、か?」
「どうかな。あれだけ魔法を撃ちまくれば、直に息切れするだろう」
ジンはすぐに状況を把握した。
「さあて、我が弟子よ。お前がここに残したガーディアンは――」
スクリーンのひとつの表示が変わる。メリンダは目を剥いた。
「ひっ!?」
飛竜――プテラノドンを思わせるそれが無数に整列していた。ただし、石像のようだったが。
「ほうほう、ガーゴイルか。これは面白い」
ジンが球体を、まるでキーボードを叩くように触れる。彼がガーゴイルと称したプテラノドンの目が一斉に光が灯った。
「さらに、これは……飛空艇――いや飛行船型ゴーレムかなるほど」
「爺さん?」
「まあ待て、ソウヤ。すぐに増援を出す。このダンジョンのガーディアンモンスターたちの実力を拝見しようじゃないか」
・ ・ ・
かくて、森林ダンジョンの守護者たちが放たれた。
飛行船型ゴーレムが3隻。そこから各12体のプテラノドン型ガーゴイルが飛び立ち、魔王軍飛行強襲連隊に襲いかかった。
ゴールデンウィング二世号に対して数で押していたはずの魔族も、36体のガーゴイルが殴り込んできたことで戦線が崩壊した。
「いったい何だと言うのだ!」
ヴァトンは忌々しげに呻くと、全軍撤退の角笛を吹き鳴らした。こう立て続けに事態が動いては踏みとどまることは無用な犠牲を生むことになる。ひとまず退却するのだ――
「逃がすかってぇのっ!」
上から降りかかった女の声。先ほど背後から部隊を奇襲した翼を持つ漆黒の戦乙女――ミストが矢のように突っ込み、ヴァトンの頭を貫いた。
「お、の、れェ――」
強襲連隊の指揮官は命を絶たれた。ミストは討ちとった魔族をよそに、逃げる敵と現れたガーゴイルたちに、ただただ困惑していた。
「これはどういうことなの……?」
『ミスト、聞こえるか?』
通信機からソウヤの声がした。
『そっちにいるガーゴイルは、爺さんとこのガーディアンモンスターだ。味方だからな』
「味方……」
完全に魔王軍は追い払われていた。飛行するガーゴイルがゴールデンウィング二世号の周りを固めている。
危機は去ったのだ。
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