第472話、突撃隊形、敵拠点を攻撃せよ


 ゴーレム飛行船艦隊は、ゴールデンウィング二世号を中心に展開していた。ジンは言った。


「ゴールデンウィング号は後方だ。先陣を切るのは無人のガーディアン戦隊に任せる」


 味方の人命優先である。城への突撃において先頭は戦死率が凄まじく高い。


「全艦、突撃隊形、砲撃戦用意」


 どういう仕組みか、ジンの命令に従い、ゴーレム飛行船が隊形を組み替える。


 全15隻のゴーレム飛行船のうち9隻が一列縦隊を形成。残る6隻――ガーゴイル搭載型は、ゴールデンウィング二世号の護衛として前方に六角形の陣形を作る。


「うーん、早く突撃したいわ!」


 ミストがソワソワしている。ソウヤは不安になる。


「どうしたんだ。いつになく燃えているな?」

「そりゃあもう、あかさらさまに敵地でしょう?」


 ミストは不敵な笑みを浮かべた。


「全部壊すくらい大暴れできるってことでしょ? そりゃあお礼参りにも力入るわよ」

「これまでだって魔王軍の連中の拠点を攻撃しただろ?」

「元は人間側の拠点だったり、地下だったり、好き勝手暴れるのが難しい場所だったからね。でも今回は違うでしょう?」


 たとえば、グレースランド王国の王城だったり、最初は魔王軍と関わりが関係ないと思われた盗賊のアジトだったり……。ソウヤはなるほどと思った。


 魔王軍の城に接近するガーディアン戦隊。ゴールデンウィング号からも城の形が見えてくる。


 黒い無数の柱が城壁を形成し、中央部分が大きな塔になっている。城壁にしても真っ直ぐではなく斜めに立っていたり、見張り塔が不規則に傾いているのが、生理的に異様さを感じさせる。


 いかにも魔王軍の建築物だと主張しているような建物だ。


「何とも気味がわりぃな」


 ライヤーがゴクリと唾を飲み込んだ。ソウヤもまた、ひしひしと嫌な予感を感じる。


「その感覚は当たりだと思うよ」


 ジンが、まるでソウヤの思ったことを察したように言った。


「私の勘では、あの外側に曲がって立っている塔、あれは砲台だな。真っ先に排除しないと被害が大きくなるだろう。ライヤー――」


 ジンは操舵輪を握るライヤーに言った。


「敵はこちらが近づいてきたところを攻撃してくる。迂闊に前進するな」

「! あいよ。しかし、空の上のこっちを攻撃してくるって、またワイバーンでも飛ばしてくるのか?」

「敵が飛空艇を発掘しているということは、そこに付随する兵器もまた利用していると考えるのが自然だと思うがね」


 老魔術師は正面に向き直った。


「まずは先手を取ろう。むざむざ敵に先制を許すことはない」


 転移――短く発せられた短詠唱。その瞬間、単縦陣を形成するゴーレム飛行船が消えた。


 そして消えた飛行船9隻は、魔王軍の城の上空に突如出現した。隊列を形成したままのゴーレム飛行船は船体の電撃砲を発射した。


 落雷の如く、城に電撃が叩き込まれる。命中した城壁が砕け、欠片が弾け飛ぶ。魔族兵が倒れ、転げ落ちる中、ジンが砲台と予想した尖塔に集中的に攻撃が飛ぶ。


 まさに城側は大混乱だった。


 待ち構えていたら、その侵入ルートを突然ショートカットして出てきたのだ。完全に不意打ちだった。


 しかし、準備はできていた。何せ、『未確認飛行物体群、接近』の報告と共に戦闘配置についていたのだ。


 先手は許したが、一撃を逃れた者たちはすぐに反撃できる状態にあった。


 本来は対飛行生物用に備えられていた電撃砲が上空の飛行船群に向けられて対空射撃を開始した。さらに飛行可能なホークマンやデーモンが飛び上がる。


 しかし、その様子はゴールデンウィング号でも見えていた。


「ガーゴイル隊、発進!」


 6隻のゴーレム飛行船から次々にプテラノドン型ガーゴイルが飛び立つ。ガーゴイルは、飛び上がる魔族兵に急降下し襲いかかった。


 また城と飛行船のあいだで電撃弾の応酬が繰り広げられる。被弾したゴーレム飛行船が船体から火を吹いて傾いた。


 ゴーレム群は城の周りを移動しながら射撃を繰り返す。装甲されたゴーレム本体は直撃に耐えたが、バルーンは被弾に弱く、時間と共に脱落、墜落していく船を出した。


 だが先制攻撃できた分、飛行船艦隊が地上の防空網を潰すほうが早かった。もし、転移せずに突撃していれば、全滅していたのはゴーレム飛行船群のほうだっただろう。


「対空砲の排除は完了した」


 ジンはライヤーに振り返った。


「もう城に近づいていいぞ」

「ボス?」

「よし、船を近づけよう」


 ソウヤは頷いた。もうミストがまだかまだかと視線で催促しているのだ。


「ミスト、やるか?」

「吹き飛ばしてもいい?」

「任せる」

「フフン、じゃあ、ワタシが焼き払ってやるわ!」


 ――あ、やっぱブレス使うつもりだ。


 ソウヤは察した。


 対空設備がなくなったとはいえ、まだまだ城にいる魔族兵は多いだろうから、ゴーレム飛行船群と共に地上を徹底的に砲撃してから上陸するつもりだった。


 が、ドラゴンの超破壊ブレスがそれをやるというなら、おそらくそれが一番手っ取り早い。


 そしてそれはすぐに証明された。


 ミストのドラゴンブレスが魔王軍の城の中央塔を両断する勢いで吹き飛ばし、倒壊させた。崩れる塔、下敷きになる魔族兵。


 哀れ……と思う間もなかった。


「ティス、やるわよ!」

「はい、ソフィア姉様!」


 ソフィアとティスが、強力な魔法光の放射を放った。それは本物のドラゴンブレスより多少弱いものの、それでも城壁を粉砕し、城にさらなるダメージを与えた。


「ほほう、あれが壊していい代物か!」


 などと調子のいいことを言い出したのはアクアドラゴンだった。


「我が水の力、存分に味わえぇぇい!」


 アクアブレス。それは水の束。水圧洗浄機から放たれる鋭い水の如く、城壁を根こそぎ引き剥がす。四散した水は後ろの壁などを崩し、大量の水が魔族兵を流していく。


 その長い一射で地面より上の城を吹き飛ばして、無残な残骸へと変えた。


「見たか! 我が力!」


 ストレスを発散したかのように清々しいアクアドラゴン。それを目の当たりにしたイリクは呆然となる。


「ソフィアもティスも凄いと思ったのだが……さすがは伝説の四大竜のアクアドラゴン様。やはり人の力の及ばぬ領域」


 城だった周りが水浸しになっているが、それだけの水量を短時間に放射したのだろう。いったいどういう体の構造をしているのか。


 ソウヤは小さく首を傾けた。


「まあ、なんだ。これで堂々と地上に降りられるな」


 空中戦もほぼ終わっていた。ガーゴイルが飛行型魔族兵を蹴散らしたようだ。


 次は残敵掃討である。……残っているのだろうか?

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