第448話、押しかけた職人たち
ルガードークに到着し、発着場に降りればドワーフたちが集まっていた。
髭もじゃドワーフが大勢待ち構えている様は、圧が凄い。
「ライヤー、お前、またドワーフたちに何かやったのか?」
「いやいや。おれは今回は何もしてねえぜ?」
この町で少々やらかしたことがあるライヤーではあるが、さすがに今回の集団は心当たりがないようだった。
「あれ、行かないといけないやつだよなぁ……」
「だな。何かこっち見てるぜ」
気味悪く感じるライヤー。ドワーフたちは別に怒っている様子はなかったが、何やらウズウズしているようにも見える。
――さて、いったい何事だ……?
訝りつつ、ソウヤは船を降りた。ドワーフたちが大挙待ち構えていた。
「おう、人間さん。……あんたが船長か?」
先頭のドワーフに問われ、ソウヤは頷いた。
「せんち……いや、オーナーだ」
そういえばゴールデンウィング号の船長はライヤーだったのを思い出した。ドワーフたちは、今に進み出しそうなのを懸命にこらえている。
「オーナーか。まあ、責任者ってことでいいんだな? 実はな――」
「エンジン! エンジン見せてくれ!」
「魔力式ジェット! 見せろやぁ!」
後ろのドワーフたちが待ちきれなかったように口々に言った。
――エンジン?」
「……ひょっとして」
「ひょっとしなくても、おたくの船は魔力式ジェットを使っているんだろ? そいつを見学させてくれないか?」
「頼む、見せてくれ!」
「見せろ見せろ!」
このドワーフたちの目的はエンジンだった。世界初の魔力式ジェットエンジン実装の飛空艇を見に来たのだ。
「ああ、そういうこと」
しかし困った。ここに集まったドワーフは二十や三十どころではない。横幅の広いドワーフたちが大挙押し寄せるには、ゴールデンウィング号の機関室は狭すぎる。
「ちょっと待て。エンジンが見たいってことらしいが、さすがに一度に全員は入らないぞ」
「オレ、オレを先に!」
「ずるいぞ、おれが先だぁ!」
「馬鹿野郎、こういう時は先輩に譲るもんだろうが!」
ドワーフたちがガヤガヤと騒ぎ出した。ドワーフ同士で押したり、小突いたり――
「おい、やめねえか! お前らァァ!」
「うるせいェ!」
ガスっ、ドスっ! と本気の喧嘩を始める者まで現れた。勢いはあっという間に伝染して、集まったドワーフたちによる乱闘になった。
どさくさに紛れて、ソウヤに突っ込んできたドワーフがいたので、ぶん殴って返り討ちにした。
正当防衛である。
気づけば、ソウヤはゴールデンウィング号への乗船を阻む門番のようになっていた。
――どうしてこうなった?
・ ・ ・
「これはいったい何の騒ぎだ!」
そう言って仲裁に入ってくれたのは、ルガードーク冒険者ギルドのスタッフたちだった。
騒ぎの原因が、魔力式ジェットエンジン見たさに機械職人たちが押しかけたと知り、商業ギルドのスタッフが飛んできた。
「ギプスです。ルガードーク商業ギルドではサブマスターをやっております」
「ソウヤです。銀の翼商会の商会長をやっています」
「お噂はかねがね」
ドワーフの商業ギルドのサブマスターと握手をするソウヤ。――この人の手、ごついな。
もじゃ髭に、髪もまた多く、目もとが前髪で隠れている。それ以外は、いたって普通のドワーフだった。
ゴールデンウィング二世号の談話室にて、ソウヤたち銀の翼商会とルガードーク商業ギルドの話し合いが開始された。
「まずは機械士たちが、とんだご無礼を。皆、研究中だった新型エンジンを実装した飛空艇が来ると聞いて我慢できなかったようで」
まずギプスが謝罪すると、ライヤーが皮肉げに口元を歪めた。
「まあ、ドワーフだからなぁ。気になるものを見に行くのは仕方ねえよ」
「お前も人のこと言えないと思うぞ」
ソウヤはやんわりと言った。飛空艇の新型エンジンと聞いたらすっ飛んでいきそうな人間がここにもひとり。ドワーフではなくても突撃する者はいる。
「ドワーフは良くも悪くも職人ですから」
ギプスは顎髭を撫でた。
「それで、今回押しかけた職人たちの大半が魔力式ジェットそのものや、あるいは設計図などを購入したいと申し出ると思います。もちろん、そちらの値段次第ではありますが、銀の翼商会さんは、その分のエンジンや図の提供は可能でしょうか?」
「エンジンについては複数個の手配は無理だな」
ジンが即答した。魔力式ジェットエンジンを手掛けた老魔術師は言った。
「部品にミスリルなどの魔法金属が使われている。用意するにしてもすぐには不可能だろう」
「了解しました。では、我がルガードーク、いえドワーフ商業組合からの提案です。ルガードークをはじめ、ドワーフ圏内における魔力式ジェットエンジンの製造と販売権をこちらで購入させてください。売り上げの一定額をそちらにお支払いいたします」
つまり、ドワーフ圏内で求められる魔力式ジェットエンジンを、ドワーフたちで作るということだ。そこで売った分、ロイヤルティが銀の翼商会に入ると。
こちらで求められる数のエンジンを自力で生産、販売できるなら自分たちでやれば済む。だが需要に対して供給できる能力がないので、生産と販売をドワーフたちに任せて、売り上げの一部をもらったほうが手間が掛からず収入を得られるのである。
ソウヤはジンとライヤーに視線をやる。二人は頷きで答えた。
「わかりました。ではそのように契約しましょう」
「ありがとうございます。では、外で待っているドワーフたちは、我がギルドで責任をもって対処させていただきます」
ギプスは頭を下げた。
ドワーフたちが詰めかけてきたのは驚いたが、結果的に商業ギルドがきて、懸念事項だった魔力式ジェットエンジンについて、普及のきっかけができたのでよしとしよう。
あれには魔力燃料の消費問題など、まだ検討しなればならない事柄もある。製造コストについてはまだわからないが、部品の精度や改良などはドワーフたちに任せれば問題ない。
王国も、魔力式ジェットエンジンについて関心を持っているが、いざ購入したいと注文があった場合、銀の翼商会だけでは用意が困難。ドワーフたちに製造の技術があれば、その注文にも対応できる。
「よろしく、お願いします」
「こちらこそ。魔力ジェットは次代の飛空艇エンジンのスタンダードになります」
ソウヤとギプスは握手を交わした。
――また、商品を宣伝費がかからずに済んでしまったな……。
放っておいても勝手に依頼や注文がきてしまうのである。
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