第444話、岩塊、浮く
王都が見えなくなってしばらく。荒野のど真ん中にソウヤたちはいた。
バイクとトレーラーを止めて、いざ実験である。ジンは地面を足でそっと払った。
「さて、魔術師の諸君。特別講義の時間だ」
ジェミー、サジー、闇魔術師のヴィオレットが、老魔術師を見守る。
「これから飛空艇と同等のスケールの大岩を生成する。諸君も岩つぶてや岩壁を生成する魔法は知っているだろう。これらは魔力に働きかけて岩を生成したり、地面の砂や土を制御して目的の形にする――」
ジンはその場にしゃがみこんだ。
「君らがこれまで魔法で作り上げた岩の最大のものはどれくらいかな?」
ゴゴゴゴ、と地面が揺れた。
地震――ライヤーが慌てる。メリンダ、カマルは近くに浮いている浮遊バイクにつかまる。レーラは隣のソウヤにつかまっていた。
地面が割れたように見えたその時、巨大な岩が地面から切り離されてせり上がった。
「ひゅう。でけぇ」
思わずソウヤは声に出していた。魔術師組は目を丸くする。
「熟練の土魔術師は城壁を作るだって……?」
サジーが口元を笑みの形に歪めた。
「あの御仁、魔術大会に出ていれば、優勝を総なめしていたな……」
岩の塊、その大きさ4、50メートルほど。ゴールデンウィング号より長さは劣るが、がっつり四角く抜き出された形のせいで、大きく見えた。
「ライヤー、あれの底に適当に飛行石を――」
「断固断る!」
ジンが言い終わる前に、ライヤーがブンブンと首を横に振った。
「あんな岩の下なんて、落ちてきたら間違いなくペシャンコだ! おれぁ死にたくない!」
超重量の岩の塊が地面から浮いているが、それはおそらく魔法で浮かせているから。下に潜り込んでいる途中に、何らかのアクシデントで浮遊が切れたら、潰されて即死である。
「わかった。サジー、ジェミー、ヴィオレット。悪いが、君たちで適当にストーンウォールを作ってくれ。……大きくなくていいから」
「わかりました」
ジンの指示に従い、サジーとジェミーは高さ二メートルほどの岩壁を作った。
「すみません、私は土属性は……」
ヴィオレットが肩をすくめた。闇魔術師である彼女は、基本それ一色だった。
ということなので、サジーとジェミーは、もうひとつストーンウォールを形成。計四つの板状の壁ができあがった。
「ライヤー、そのストーンウォールに飛行石をひとつずつ置いてくれ」
「置くだけでいいのかい?」
この壁、横に倒せる?とサジーたちに確認し、岩壁を倒してもらってから飛行石を置く。
「できた」
「じゃあ、埋める」
ジンが指を振ると、飛行石がそれぞれの岩壁にめり込んだ。するとぞわぞわとめり込んだまわりの岩がうごめき、ピッタリと飛行石をはめ込んだ。
「そしてこれを、あの巨岩に運んで――」
ジンが岩壁四つを、飛空船サイズの巨岩にそれぞれくっつけると、岩壁は元から一体化していたように埋まった。
「凄いな……。あの巨大な岩塊を浮かせたまま、四つの岩壁を移動させて接合した」
「継ぎ目もありません。こんなことって……」
感嘆するサジー。ジェミーは信じられないと首を振る。カマルが口を開いた。
「本当に恐るべき御仁だ……」
「この前、ジジイとか言っていなかったか?」
ソウヤが突っ込めば、「はて?」とカマルはとぼけた。その老魔術師は振り返った。
「さあ、飛ばすぞ」
ふわり、と岩の塊が浮かび上がった。レーラは目を細める。
「凄いですね。あんな岩の塊が浮かび上がりましたよ!」
「ジェミー。あれ一個で、どれくらい浮かぶんだ?」
サジーが質問した。そのジェミーは眉をひそめる。
「ジン師匠が言うには、数十メートル。四、五十メートルくらいだと思うけれど、あの見た目かなり重そうだから、三十メートル以上は怪しい」
「どこまで上がる!?」
ライヤーが光線でもでるかと思うくらい、浮かぶ岩塊を凝視する。人工飛行石で、オリジナル並みに浮かべば大発明だ。自然と力も入る。
「いまどれくらいだ?」
「およそ二十五メートル」
カマルが言った。
「三十は行きそうだな」
ゆっくりと浮かび上がる岩塊。この浮上ペースならもっと上がりそうである。
ソウヤは、レーラに言った。
「オレ、ふと思ったんだけどさ」
「何です?」
「浮遊島ってあるだろ? あれって、もしかしてああいう飛行石があって、空に浮かんでいるんじゃないか?」
あ、とレーラが目を丸くした。
「もしかして、浮遊島誕生の謎が解かれたのでは――」
「いや、単なる推測」
ソウヤは肩をすくめた。だが岩の塊が空へ上がっていくのを見ると、浮遊島として浮上させられるのでは、と思ってしまう。
「どこまで上がるか知らないが、オレたちで浮遊島が作れたり?」
「空に土地を――」
カマルがやってきた。
「空に大地を浮かべて、領土も増えるか?」
「どうかなぁ。オレ、浮遊島の下に住みたくないぜ」
降ってきたらまず助からないだろうし。
そういえば、ジンは浮遊島を持っていた。そのあたりを聞いてもいいかもしれない。
「どれくらいだ?」
ライヤーが急かすように聞いた。カマルは顔を上げる。
「およそ五十メートル。まだまだ上がるぞ」
「ちょっと上に行くわ」
ミストが背中から竜の翼を出して飛び上がった。ソウヤは老魔術師を見た。
「実験は成功か?」
「ああ、たぶんな」
ジンは空の上がっていく岩塊に目を細める。
「どこまで上がるか見物だね」
結果的に高度は百メートルを超え、なおも上昇を続けた。ジンが魔力を放ってその反射から計測したところ、およそ500メートルまで岩塊は浮いた。
「人工飛行石の数が増えれば増えるほど、高度も伸びる?」
ソウヤの問いに、ジンは首をかしげた。
「まあ、条件を変えて繰り返すしかないな。比較していけば、そのうち答えも出るだろう」
とはいえ――
「数である程度、浮上できる高さを上げられるのがわかったのだ。まずは成功と言っていいだろう」
「よっし!」
ライヤーが声を弾ませた。2隻目の飛空艇保有に向けて、第一歩を踏み出したと言って間違いはなかった。
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