第434話、王国からの依頼


 エンネア王国王都に到着した。飛空艇の発着場にゴールデンウィング二世号は降り立ち、食材補給や休養に充てられる。


 王国に対して、カマルが報告書を出してくれているので、ソウヤはそちらはノータッチ……と行ければよかったのだが。


「カロス大臣から呼び出しだ」


 カマルが転送ボックスからの手紙をヒラヒラとさせた。


「何かやらかしたか?」

「いや、近況を実際にお前の口から聞きたいのと、仕事の依頼だそうだ」

「仕事?」

「銀の翼商会に依頼ということは、おそらく速度が必要なものなんだろうな」


 カマルがそう推測した。依頼の内容については手紙には書かれていない。


「土産を忘れるなよ」

「王族には、デザートを毎日転送ボックス経由で送っているだろ?」


 銀の翼商会のお菓子は王族のお気に入り。ということで、商会の料理担当もレシピを習得し、今ではソウヤが直接作らなくてもよくなっている。


「大臣には送っていないだろう? たまには食べさせてさしあげろ」

「お前は、オレのおかんかよ」


 時々、親みたいな妙な保護者じみたところがあるカマルである。


 勇者として召喚され、この世界について右も左も分からなかったソウヤだったが、早い段階で知り合い、その辺りの面倒をみてもらったこともあった。


「お前も来るか?」

「おれはお前の保護者じゃないぞ」


 カマルは断った。


 そんなわけで、ソウヤは王城へと向かう。


 銀の翼商会と言ったら、門番はあっさり通してくれて、しかも案内までついた。そして大臣と面会する。


「ご無沙汰いたしております、ソウヤ殿」


 カロス大臣は相変わらず穏やかで、ソウヤの中で緊張感がほぐれていく。


「お久しぶりです、大臣。お元気そうで何よりです。これお土産です。よろしければどうぞ」


 銀の翼商会製のお菓子入りの簡易ボックスを渡す。カロス大臣は喜んだ。


「ありがとうございます、ソウヤ殿。そちらのお菓子は大変美味だと伺っております。ささ、どうぞ――」


 挨拶はそこまでで、さっそく会談となる。


「銀の翼商会のご活躍、報告書にて拝見いたしております。魔王軍の残党の拠点をさっそくひとつ潰され、さらに連中の置き土産である汚染魔獣を処理したとか」


 さすがは勇者様だ、と大臣は微笑んだ。


「皆のおかげです。オレひとりの力ではありません」

「そうでしょうとも。しかしあなたは謙遜なさる。王国側としても魔術師たちの指導など、ご面倒をおかけしております」


 相変わらず謙虚な人である。


「本題でありますが、ソウヤ殿はバッサンの町の浮遊バイク製造はご存じですな?」


 ご存じもなにも、そのきっかけを作ったのはソウヤたち銀の翼商会である。浮遊バイクのモデルも、商会の開発部門が製作した。


「昨今の魔王軍の残党の動きを鑑み、国王陛下は早急なる浮遊バイクの導入を決断されました。すでにバッサンの町には連絡済みで、そのためのバイクを製造してもらっております」

「そうなんですか……」


 浮遊バイクの機動力は確かに有用だろう。乗り物であると考えれば、戦闘に使えるかどうかはまだまだ疑問だが、偵察や連絡には有効だと思う。


「あまり突っ込んだ話を聞く立場ではないのですが、具体的にはどのようにバイクを使われるのですか?」

「まずは、偵察活動に用いられると聞いております。バッサンの町でもまだ生産が始まったばかりですから、入手できる数が少ない」

「確かに」


 まだそこまで大量生産ができるような設備ではないだろう。つい先日、工場うんぬんと言っていた段階だから、欲しいと言われても供給が追いつかない。


「しばらくは現状の魔術師や騎馬による斥候が主ですな。次第に数は増えていくと思いますが、その間に運用してみて経験値を稼いでおこうと思います」


 いきなり渡されても、現場がきちんと運用できないでは意味がない。そのために数が少ないうちに慣らしておいて、運用の問題点を洗い出して改善しようというのだ。


 堅実である。だが、導入を決めたのも早かったし、さらに規模を拡大しようというのだから、浮遊バイクに相当期待しているのだとソウヤは感じた。


 初めて使ってみて、やっぱり駄目だったという可能性もあったのに、その結論が出る前に数を増やそうなどと言っているのだから。


「ずいぶんと浮遊バイクを買っていらっしゃる」

「魔王軍の動きを考えれば、これでも遅いかもしれません」


 カロス大臣は頷いた。


「そこで、ご依頼なのですが……」

「はい」

「銀の翼商会にはバッサンの町に行って、王国が導入予定の浮遊バイクを王都まで輸送していただけないかと、ご相談した次第で」

「輸送ですか」

「実は、バッサンの町の担当とやり取りをしたのですが、バイクは製造しているものの、それを運ぶ手段に問題がございまして」


 運ぶ手段と聞いて、ソウヤはふと思った。そういえば世間では浮遊バイクをどう運ぶのだろう、と。


 この世界は、地上を行く乗り物といえば馬や、それが牽く馬車などだ。


 浮遊バイクを馬車に乗せる? それともバッサンの町で購入したら、そのまま以後はバイクに乗って帰るとか?


 ――考えてなかったなぁ。


 現地ではどう対処しているのだろうか。普通に考えれば、馬車などに載せるのが無難だろうか。


「ここ最近、バッサンの町へ通じる街道近辺は、魔獣の出現報告が多発しており、陸路での輸送は少々危険度が増しております」


 カロス大臣は渋い顔になった。


「では護衛を付ければいいという話になるのですが、あいにくと国内の魔王軍の拠点の調査や攻撃で、あまり余裕がない有様です」

「ああ、そうでしたね」


 エンネア王国にも複数の魔王軍の拠点がある、という捕虜からの情報を元に、現在、王国軍は動いている。


「陸路が駄目なら空路をと考えましたが、我が軍の飛空艇も騎士団同様、敵拠点攻撃のために用いられており、今回のような大規模輸送には耐えられません」


 飛空艇は王国でも数が少ない。また軍が優先的に使用しているために、今回のような作戦に動員されると途端に余裕がなくなってしまうのだ。


「いま、お頼みできるのが内情にも通じているソウヤ殿の銀の翼商会しかありません」

「そういうことでしたら、喜んでお手伝いさせてもらいますよ」


 銀の翼商会は行商だが、同時に輸送業にも対応できる。飛空艇のスピードと、容量無限のアイテムボックスがあれば、陸路よりも大幅にコストを抑えられる。


 ――しかし、これまた面白い話が聞けたなぁ。輸送か……。


 ソウヤは大臣からの要請に応えつつ、考えを巡らせるのだった。

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