第433話、ソフィア、ブレスを吐く

 

 フォルスとヴィテスのために、大人ドラゴンが、そのブレスを放って見せた。


 さすが上級ドラゴンたちだけあって、その威力は人間たちを大いに驚かせた。が、一通り終わったと思われたその時、ミストが突然、ソフィアを指名した。


「あのー、ミスト師匠?」

「さ、ワタシ直伝のドラゴンブレスを見せつけて、影竜の思い込みを吹き飛ばしてやるのよ!」


 ミストはソフィアの肩を叩いた。


 ほう、とクラウドドラゴンは興味を見せ、影竜は目を丸くしている。


『バカな! 人間がドラゴンブレスを使えるわけがない!』


 ――だよなぁ。


 ソウヤは頷く。そもそもドラゴンの吐息だからドラゴンブレスであって、人間であるソフィアがやったら、そもそもドラゴンブレスではない。


 ――というツッコミは野暮なんだろうか。


 ソフィアがドラゴンたちと同じく強力なブレスを吐くという解釈でいいと思うが、その姿を想像すると、何ともシュールだと思う。


 一方でギャラリーのざわめきが収まらない。


「ど、どういうことなんだ……?」


 イリクは完全に動揺している。


「ソフィアが、ドラゴンブレスを……?」

「わかりません。ええ、こんなことは」


 サジーもまた冷や汗を流している。


 魔術師たちが困惑するのも無理はない。ソウヤの野暮なツッコミもそうだが、そもそも人間はドラゴンブレスなど使わないものなのだ。


 ソフィアは、すっと深呼吸を繰り返している。緊張しているのだろうか、回数が多い。


 レーラがソウヤに言った。


「大丈夫でしょうか?」

「まあ、ミストは無茶なことを言うけど、他の連中の前でできないことはさせないはずだ」


 かつて、ソフィアは魔法を封じられていた。だが魔法が使えないながらも、工夫次第で何とかしようと試行錯誤していた。


 記憶違いでなければ、ミストがドラゴンブレスをレクチャーしていたとソウヤは思い出す。あの呼吸も、おそらく肺の中の魔力を練り込んでいるのではないか。


「だがソフィアは今は魔法が使える。その力が加わったら、どうなるか……!」


 その瞬間、ソフィアがカッと目を見開いた。


 彼女はドラゴンのように、強烈な熱線を吐き出した。人とドラゴンではスケール感が違うから、か細く見えるがそれでも明らかに口の大きさ以上の攻撃だった。


 岩の的にぶつかった瞬間、その表面がえぐれたかと思うと、大爆発を起こした。ただの岩が爆発などするはずがない。つまり、ソフィアのブレスに爆裂魔法が仕込まれていたのだ。


「おやまあ、派手だこと」


 ソウヤは感心する。だがギャラリーたちは度肝を抜かれていた。


 ――本当にブレスを!

 ――六色の魔術師、すげぇー……!

 ――あの人、本当はドラゴンだったり?


 なお、影竜も驚愕した模様。


『に、人間が、ドラゴンと同等のブレスなど……信じられない!』

「でも、事実よ」


 ミストはドヤ顔で腕組み。師匠は鼻が高い。


「誤解しないよう言っておくけど、彼女は正真正銘の人間。ワタシがちょっと教えたら、ドラゴンブレスを会得した。さあて、フォルス――」


 そのフォルスは、ソフィアの近くによってはしゃいでいた。


「そふぃあ、すごーい! ボクにも今の、かっこいいやつおしえてー!」

「……えっと、ミスト師匠ぉ」


 助けを求めるようにソフィアが、ミストを見た。そのミストは生暖かい目を向ける。


「たぶん、理解できないと思うから、適当に教えてあげなさい」

「何で投げやりなんですか、師匠ー!」


 抗議の声をあげるソフィアだが、周りに魔術師たちが集まってきた。先頭は当然のごとく、イリクである。


「ソフィア! お前はドラゴンブレスが使えたのか!? 何故言わなかった!」

「え、言わないといけなかったの?」


 ソフィアの本音を言えば、ドラゴンブレスは一応教わっただけで、いまは普通に魔法が使えるから、それほど重要なこととは思っていなかった。


 今なら、わざわざブレスにしなくてもさほど威力に差のない攻撃魔法が使える。


「ドラゴンからブレスを指南されるとは! この世に、そんな人間がいるものか! これはとても凄いことなんだぞ!」


 イリクは興奮を露わにし、何人かの魔術師が同調した。


「ソフィア、私たちにもドラゴンブレスを教えてくれ!」

「お父様!? ち、近い!」


 肉薄なんてものではない距離にさすがに引いてしまうソフィア。その周りでフォルスが『ボクに教えてよー!』と大きな声を出していた。


 それらを見守り、ソウヤはひとり肩をすくめた。


 ブレスは凄いが、特に興味がなかったから魔術師たちの熱気についてはそこまで追いつけなかった。


 隣でレーラもまた保護者のような目で魔術師たちを見ている。


「ここにいると、退屈しませんね」

「まったくな。どうしてこうなんだろうな」


 苦笑するしかないソウヤである。


 ともあれ、ソフィアでさえドラゴンブレスを使えたのだから、影竜も新しい攻撃ブレスを習得することになった。


 フォルスとヴィテスも母親と同等のブレスの他、ミストやソフィアの指導でブレスの鍛錬をした。


 なお、直接関係はないが、コレルの獣魔である天狼が、イメージを刺激されたか、ファイアブレスを使えるようになっていた。これにはコレルも大喜びだった。



  ・  ・  ・



「人間がブレスを習得するとは、素直に驚いた」


 水色髪をツインテールにしている美少女――アクアドラゴンは言った。


 灰色髪の美女姿のクラウドドラゴンもまた頷いた。


「たしかに、ドラゴンブレスはドラゴンのものだけれど、他の種族の中にも、ブレスを攻撃手段として使うものはある」

「でも人間がブレスなど聞いたことがない」

「ワタシも初めて」


 伝説の四大竜と言えど驚かされていた


 クラウドドラゴンは、そこで視線をミストへと向けた。


「アナタは、人間にもブレスを教えた。何故そうしたの?」

「あの娘、呪いのせいで魔法が極端に制限されていたんですよ」


 ミストは、大先輩ドラゴンコンビに言った。


「何とか使えるものがないかと考えたら、ああなったというか。ちなみに、あの娘、背中に翼を生やして飛ぶことができます」

「「?」」


 さすがの四大竜も首をかしげるのだった。いったい何を言っているんだこのドラゴンは?

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