第432話、お披露目大会


 ドラゴンブレスがどういうものか披露大会が始まった。


 アイテムボックスハウスのある空間内だと危険ということで、ボックス内でひとつ専用の空間を作って、そこを試射会場とした。


「中もヤバイけど、さすがに外で、というのもなぁ」


 飛空艇で移動しているから、高いところから空に向かって撃つという手もあった。だがいくら人や物がないところ目掛けてブレスを撃っても、目撃されたらびっくりさせてしまうのは間違いない。


 複数のブレスが人目につこうものなら、攻撃と勘違いして大騒動になるかもしれないのだ。


「大丈夫なんですか?」


 ソウヤの隣でレーラが不安な顔になった。


「このアイテムボックス、壊れたりは……」

「大丈夫、と思いたいが、ドラゴンのブレスだからなぁ」


 ソウヤも実は、素の耐久性について、どこまで耐えられるのかわからない。


「それでアイテムボックスが壊れたらマズイから、壁を時間経過無視空間で覆うことにした。そこに飛び込んだら、時間が止まるからブレスも静止する」


 前々から時間経過無視を防御に応用できないか、と考えていたソウヤである。時間が止まってしまえば、いかな攻撃も届かない、という理屈だ。


「試してみようと思ったんだが、中々試す機会がなかったんだよな」


 ここに撃ってください、って敵にお願いするわけにもいかない。


 ――いや、案外挑発したら撃ってくれたりしたかも。


 とはいえ戦闘で実験なんて、早々やってられない。命がかかっている場面なら、人命優先である。


 相変わらず、ギャラリーが集まっていた。見世物ではないが、自分に飛び火しない安全なドラゴンブレスの見学の機会などあるはずないから、ここぞと集まっているのだ。


 そして始まった。


 ドラゴンによるドラゴンブレス大会。……特に何かを競っているわけではないようだが。


「いい、フォルスとヴィテス。どのブレスがかっこよかったか、後で感想を聞かせなさい!」


 ミストがそんなことを子竜たちに言っていた。


 一番手はアクアドラゴン。その口腔から水流が放たれる。放たれた先には、魔術師たちが見学料代わりに設置した岩の的があるが、アクアドラゴンのナイフのように鋭い水は岩を確実に砕いた。


「直撃したら吹っ飛ぶだろうとは思ったが、貫通するのか……」


 どれだけヤバイ威力なのか。見守るギャラリーたちが「おおっ」と声をあげる。


 するとアクアドラゴンのブレスが増した。太く、さらに渦を巻きながら巨大な水柱が発生し、標的周りをあっという間に飲み込んだ。


「まるで津波だ」


 イリクが感想を口にした。このドラゴンブレス大会をウキウキしながら見ている一人である。


「デュロス砦でもアクアブレスを上から見たが、間近で見ると凄まじいな」

「単独で軍勢を壊滅させられそうです」


 息子のサジーが同意した。


「さすがは四大竜の一角と言ったところでしょうか。敵でなくてよかったですな」


 と、ギャラリーは呑気なのだが、ソウヤはこの大量の水を処理しなくてはいけなかった。


 広くとった試射会場も、アクアドラゴンの吐き出した水量で床一面が水浸しになりそうな気配であった。まさに規格外である。


 もっとも、アイテムボックス内だから、指定するだけで水は抜けるのだが。アイテムボックスの中でアイテムボックスを操作するソウヤである。


 フフン、と何故か堂々と胸を張るアクアドラゴンに代わって、お次はクラウドドラゴン。ソウヤはギャラリーに注意を飛ばした。


「音! 音、注意ぃっ!」


 やはり前回のデュロス砦の際、雷鳴もかくやの大音響だった。一斉に耳をふさぐ中、クラウドドラゴンはさっさとサンダーブレスを吐いた。


 音の迫力は、アクアブレス以上だった。


 心臓を掴むような轟音、圧迫感を刻み、雷のブレスはこれまた標的の岩を粉砕した。


 ――これだよ。外でぶっ放したら、そりゃ音だけでも気づくわな。


 まだビリビリと大気がきしんでいるような感覚が残っている。


 はい、終わり――と言わんばかりに、クラウドドラゴンは引っ込んだ。


 次はミストだが……。


「正直、先輩方には勝てないのよねぇ」


 ミストドラゴンのドラゴンブレス。青い炎のブレスをなぎ払い、さながら刀を振るうように岩を溶解、切断した。


「……確かに、先の二体のブレスに比べれば、こじんまりした印象だが」


 イリクは腕を組んでコメントした。


「しかし、やりようによっては充分、集団にとって脅威だ」

「大隊規模でも直撃すれば、壊滅でしょうな」


 サジーは事務的に告げた。


「さすがはドラゴン」


 さて、最後に影竜だが……。


『やるのか……?』


 ギャラリーがいて、とても嫌そうだった。やはり同族にけなされたのが少々トラウマになっているようである。


「普通のブレスはもうお腹いっぱいだ」


 ソウヤは声をかけた。


「ちょっと変わったブレスのほうが盛り上がるぞ」

『……変わったブレスとか言うな』


 拗ねたような影竜である。それを見ていたミストとクラウドドラゴンは顔を見合わせた。


「なんか、ソウヤに対してだけ当たりが柔らかいのは気のせい?」

「ワタシも感じた」


 周りの声をよそに、影竜は前に出る。先ほどからブレスに圧倒されていたフォルスは、母親がどんなブレスを使うのかキラキラした目を向けている。何だかんだ言っても親子である。自分の親には期待してしまうのである。


 影竜がブレスを吐いた。真っ黒な煙が前方へと伸びる。まるで先端をロケットが飛んでいてそこから煙が吹き出しているような、勢いだけは凄まじかった。


 しかし、直接的な威力はないので、轟音もなければ、ただ視界の一角を黒くしただけに終わる。


「ふうん、これは中々……」


 クラウドドラゴンが感心したように言った。


「これだけの黒煙なら、距離を詰めてのインレンジで相手を切り刻める。面白い」

「えー、でも直接攻撃力はないねぇ」


 アクアドラゴンが微妙な表情を浮かべる。フォルスも少しガッカリしたようだった。ミストは口を開く。


「後はポイズンブレスがあるけど、さすがにここでは使えないわね。まあ、いいわ。じゃあ最後、ソフィア!」

「……え?」


 突然のご指名に、ギャラリーの中に混じっていたソフィアはキョトンとなった。


「私!? なんで!?」

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